シリア×イラン×ヒズボラ「シーア派の弧」破綻後の地政学図
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月20日 15時58分
ミレイユ・レベイズ(米ディッキンソン大学准教授)
<親イラン勢力から成る「抵抗の枢軸」はドミノ倒しのように崩壊。危険な連鎖反応が終わり、シリアとレバノンの国民は安堵だが...>
シリアのバシャル・アサド大統領の失脚は、国境を超えてレバノンにも影響が及んでいる。
既にイスラエルとの戦闘で弱体化し、指導部が壊滅的な打撃を受けたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、アサド政権の崩壊でさらに打撃を受けている。
もっとも、レバノンでは多くの人が喜んでいるだろう。アサド政権と13年間の内戦から逃れてシリアを離れた150万人の難民は言うまでもない。
両国の近代の歴史は複雑に絡み合い、アサド一族は54年にわたる支配の間、レバノンに度々介入した。そのほとんどは、レバノンの国民、経済、安定を損なうものだった。
ヒズボラは、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻を機に創設されて以来、アサド政権から強力な支援を受けてきた。
確かに両者の間が緊張した時期もあり、特にレバノン内戦の最中は険悪だった。しかし全体として、ヒズボラは武器や軍事訓練、イランへの陸路の容易なアクセスをシリアに頼ってきた。
これは互恵関係でもあった。2010年のチュニジアの民衆蜂起に端を発した民主化運動「アラブの春」が2011年にシリアにも広がり、武力弾圧を機に内戦状態に陥ると、ヒズボラの戦闘員がシリアに越境して政府軍を支援した。
しかし、レバノンで最も強力な準軍事組織に成長したヒズボラは、近年その勢力が衰えている。イスラエルとの最新の戦争では深刻な打撃を受け、武装解除への道筋を含む停戦合意を受け入れざるを得なかった。
さらに、レバノン国内でヒズボラへの支持が大きく変わり、武装組織としての活動をやめるように公然と要求されている。
ヒズボラとイスラエルの戦争によってレバノン国内で約3700人が命を落とし、人口の約5分の1に当たる120万人が避難民となった。レバノンの経済損失は推定数十億ドルに上る。
シリア反政府勢力の突然の進撃が、イスラエルとヒズボラの停戦合意が発効した日に始まったのは、偶然ではない。
ヒズボラの部隊は疲弊し、多くの戦闘員がシリアから移動してレバノン南部の国境の強化に回っている。イスラエルとヒズボラの戦争に巻き込まれたイランもアサドを支援する余裕がないことを承知で、反政府勢力は攻勢に出たのだ。
「イスラエルに死を」の絆
テヘランで会談するアサド大統領(当時、左)とイランの最高指導者アリ・ハメネイ師(24年5月) OFFICE OF THE IRANIAN SUPREME LEADERーWANAーREUTER
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