木造の腐りやすさが、逆に日本の古社の「建築の形式」を守ってくれた...日本とドイツの「幻の技法」にも改めて思いを馳せる
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月1日 11時0分
木造建築が炭素を固定し続けるためには、里で建築に投入された木が腐ってはならない。にわかに話はスケールを下げるが、日本の建築界にとって、古くは大工棟梁は、水が浸みるとすぐ腐る木材をどう守るかに工夫の限りを尽くしてきた。
縄文時代の竪穴式と弥生時代の高床式の防腐性は低く、飛鳥時代に大陸から上陸した仏教建築の防腐性は著しく高かった。屋根には瓦が、主要な木部には朱が、柱の下には礎石が使われ、いずれも水の侵入を遠ざけるからだ。
防腐性を誇る大陸由来の作り方は、直ちに受け容れられ、やがていろんな建築に影響を与え、広まってゆくが、日本での工夫も忘れてはならない。
それが、鎌倉時代の寺院で成立した桔木(はねぎ)で、大きなテコ(桔木)を屋根の内側から軒の裏にかけて見えないように入れて、軒先を持ち上げ、軒の出を長くし、柱の根元に雨が当たるのを防ぐ。これで最大の弱点が克服されたばかりか、加えて美学上の効果も大きく、日本の社寺建築を印象付ける軒の水平性が確立している。
腐る木造を救ったのは仏教の寺院建築に違いないが、とすると、神社のほうはどうしたのか。多くの神社は寺院のやり方を長い時間をかけて少しずつ取り込んで防腐性を向上させてゆくことになるが、仏教以前からの歴史と由緒を誇る古社はその方向を拒む。
古くから続いてきた茅や樹皮葺きの屋根、素木の掘立柱の伝統を守るため、思いがけない手に出た。たとえば伊勢神宮の場合、20年もして木や茅が腐り始めると、建て替える。その時、前の形式はそっくりそのまま踏襲する。
世界のどこでも宗教建築は物質と形式の組み合わせからなるが、日本の古社は、2つを分離し物質を捨てて形式だけを守るという世にもまれな〝奇手〟を編み出した。この物質と形式の分離が無ければ、伊勢神宮は、弥生時代の高床式住宅の姿を今に伝えることなどできなかった。木造の腐りやすさが、逆に、形式を守ってくれた。
なお、伊勢神宮について言い添えるなら、20年もしないうちに掘立柱の土中の部分が腐ったり、茅葺きが一部崩れ始めるのを防ぐため、戦後、土中の部分に銅板を巻いたり、茅の中に銅網を差し込む工夫が試みられ、20年経過して調べると、土中に腐りは見られなかったが、茅葺きのほうは効果がなかった、という。
銅イオンには、木材を腐らせる菌糸類(キノコはその地上部)を殺す能力が認められ、現在、伝統的木造建築の保存修理にあたり、見えないところや気づかない辺で銅板は大活躍中。
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