木造の腐りやすさが、逆に日本の古社の「建築の形式」を守ってくれた...日本とドイツの「幻の技法」にも改めて思いを馳せる
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月1日 11時0分
工場や倉庫をはじめ集会場といった本来なら鉄骨がふさわしい大スパン、大空間を木造で作ることに成功する。
この成功をドイツ以上に鉄不足に悩まされていたドイツの同盟国の木の国が見逃すわけはなく、直ちに取り入れ、「新興木構造」と名付け、軍需工場や飛行機格納庫や体育館などで実践し、成果を上げている。
しかし、ドイツも日本も戦争に敗れ、木を駆使して時に高く時に大きな空間を作る技術は一時のアダ花として消えてしまった。
もし、ドイツと日本でこの技術が戦後も生き残り、建築界もさらに工夫を加えていたら、と想像する。腐りやすい日本の木造も戦後の化学工業の力を以ってすれば、木を腐らなくする塗料の発明などそう難しくはなかったし、構造技術を駆使して超高層ビルも可能になっただろう。
現在、にわかに注目されたおかげで腐らない木材も木造超高層も実現へと近づいているが、戦時下の新しい木造のあり方がアダ花で終わらず、その成果が継承されていたなら、日本の木造建築は今よりずっとずっと豊かになっていたに違いない。
藤森照信(Terunobu Fujimori)
1946年生まれ。東京大学名誉教授。東京大学建築学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所教授、工学院大学建築学部教授等を歴任。専門は建築史学。著書に『建築探偵の冒険・東京篇』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『タンポポ・ハウスのできるまで』(朝日新聞社)、『天下無双の建築学入門』(筑摩書房)、『歴史遺産 日本の洋館』(講談社)など多数。
『アステイオン』101号
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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