アサド政権崩壊後の混迷シリアを待つ「3つのシナリオ」を検証する
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月24日 19時24分
アリ・マムーリ(豪ディーキン大学研究員)
<人々は独裁者アサド打倒の歓喜に沸くが、宗教的・民族的に分断された国は、リビアやスーダンが陥った落とし穴を避け、安定への道を歩めるのか>
シリアのバシャル・アサド大統領の政権崩壊後、世界はそこで繰り広げられる解放の光景に胸を打たれた。長年離れ離れだった家族が再会し、過酷な環境で投獄されていた元収容者たちが自由の身になった。
こうした歓喜の瞬間は、周辺各国で過去に見られた風景と酷似している。リビアのカダフィ政権打倒時、エジプトのムバラク政権崩壊、イラクのフセイン政権打倒、スーダンのバシル政権の終焉......。
だが歴史は、次いで訪れる困難も警告している。当初の高揚感はしばしば、その後の不安定性や悲劇、後悔にかき消され、多くの人々が旧体制時の秩序と思しきものを懐かしむようになるのだ。
シリアにとって今の問題は、同様の騒乱の後に他国が陥ってきた落とし穴を避けて、違った道を歩めるかどうかだ。
シリアは民族的にも宗教的にもバラバラな国で、利害のぶつかる政治課題を抱えた4つの主要勢力が存在する。
まずはクルド人だ。250万人を擁するこの民族集団は、トルコとの国境のシリア北東部を支配しており、トルコとクルド人は敵対関係にある。
その結果、アメリカが支援するクルド人と、反政府勢力を束ねてアサド政権を打倒し、かねてからトルコの支援を受けてきたシャーム解放機構(HTS)との間に緊張が生じている。
さらに事態を複雑にしているのは、クルド人がイスラエルと戦略的同盟関係にあること。イスラエルは歴史的に、イラクやシリア、トルコ、イランの一部でクルド人の自治国家建設の夢を支持してきた。
2つ目の勢力は、現在シリアの大部分を支配し、多種多様なイスラム主義派閥で構成されるHTSだ。その中には穏健派から、強硬派ジハード主義者、イスラム過激派のルーツを持つ外国人戦闘員までもが含まれる。
彼らはシリア多数派のスンニ派アラブ人を代表しているとも主張する。
HTSの指導者モハマド・ジャウラニは、イスラム統治の夢を抱きながらも、穏健化路線を進めてきた。彼は最近、CNNに「イスラム統治を恐れる人は、誤った前例を目にしてきたか、正しく理解していないかだ」と語っている。
12月8日の首都制圧後にモスクを訪れたHTS指導者のジャウラニ MAHMOUD HASSANOーREUTERS
3つ目の勢力は、イスラム教ドルーズ派だ。
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