「2国家解決」で歴史に名を残したい、2人の思惑が合致するとき...サウジの「外交Xデー」はあるのか?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月16日 15時52分
今日の地政学的現実を考えれば、それを受け継ぐ新たな中東和平案をまとめるのは容易ではない。サウジの外交問題専門家で英キングストン大学政治学協会のメンバーでもあるアザム・アル・シュダディは本誌にこう語る。
「今の中東情勢はイスラエルが火を付けた緊張激化など、トランプの1期目から激変している」
イスラエルとハマスの戦争は、親イランの武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」だけでなく、イラン自身にまで飛び火した。
かつてトランプはイランに対抗するアラブの友好国との連携を模索したが、サウジは23年3月、中国の仲介でイランとの国交回復に合意。両国関係を安定させることを選んだ。この合意は中東の混乱にもかかわらず、現在も維持されている。
アラビア半島の情勢もおおむね落ち着いているが、「抵抗の枢軸」の一角を占めるフーシ派が力を持つイエメンは例外だ。フーシ派はイスラエルを標的とするミサイルやドローン(無人機)を発射し続け、近海の商船にも攻撃を仕掛けている。
中国が仲介した合意が維持されている事実は、中東での影響力回復を目指すアメリカにとって由々しき事態だ。「サウジとイランの合意は和平調停者としての中国の試金石だ」と、シュダディは言う。
「この合意は今のところうまくいっている」
シュダディは、今は亡きヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の言葉を引き合いに出した。
キッシンジャーは23年3月にワシントン・ポスト紙のインタビューで、イランとサウジの合意を「中東の戦略的状況における質的変化」と呼び、サウジのバランス感覚を、冷戦時代に中国とソ連の緊張を利用しようとしたアメリカになぞらえた。
サウジは長年、アメリカと緊密に連携してきたが、今では独自の影響力を行使できる立場にある。
イスラム教の2大聖地メッカとメディナの守護者としてのアラブ世界とイスラム世界での特別な影響力。アラブ連盟、湾岸協力会議(GCC)、イスラム協力機構(OIC)でも主導的地位にある。20カ国・地域(G20)で最も急成長している国の1つで、中国とロシアが主導するBRICSへの加盟も目前に迫っている。
「他国の利益を損なわずに関係を多様化することで、サウジは国際的課題を克服し得る、信頼できるパートナーになった」とシュダディは言う。
「アメリカの新政権がこの変化に合わせ、地域と世界の安定に資する形でサウジとの戦略的パートナーシップの利益を確保する政策を採用できるかどうか。それが真の課題だ」
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