連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第五回
ニコニコニュース / 2021年4月22日 21時0分
2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第五回です。
第一作『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』がいよいよお披露目となります。制作陣も大いに興奮した2016年の初回公演の様子をお送りします。(第四回はこちら)
「超歌舞伎」をご覧に頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。
4月24日(土)・25日(日) 各日18:00より、「ニコニコネット超会議2021」にて超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』上演
・超歌舞伎 公式サイト
https://chokabuki.jp/
・チケット購入ページ
https://dwango-ticket.jp/
第五回「桜がつなげたキセキ」
文/松岡亮
そして、迎えた2016年4月29日。定刻の12時となると、幕張メッセイベントホールに、開幕を告げる柝の音が響き渡り、片シャギリと呼ばれる音楽が演奏されると、定式幕が開いていきました。
裃姿に威儀を正した中村獅童さんの口上に始まり、続いて初音ミクさんの口上。オープニング映像と続き、竹本のメリヤスの曲のなか、舞台に現れた白狐が花道の揚幕に入ると、入れ替わるようにして、獅童さんの佐藤四郎兵衛忠信の出となって、『今昔饗宴千本桜』が始まりました。
ニコニコのコメントと、歌舞伎との意外な親和性
この初回の舞台を私はスタッフ席で見ながら、舞台左右に設けられたモニターに映るコメントにも目をくばっていましたが、配信映像をご覧になっているお客様の生の声が、そのままコメントとなって流れる様は、普段の歌舞伎公演では決して体験することのできない、実に新鮮なものでした。
すでに初回から、常日頃から歌舞伎をご覧になっている方が、歌舞伎の約束事などの解説的なコメントを書き込んで下さり、解説的なコメントを書き込んで下さり、また初音ミクさんのファンの方がミクさんに関連したコメントを書き込むなど、お互いが持つ知識をニコニコユーザーの皆さんで補完しあう流れが自然発生的に起こったのは、予想だにしなかったことで、本当に嬉しいできごとでした。
また、青龍の精が手にする鉄杖(てつじょう)を〝自撮り棒〟になぞらえたコメントや、NTTさんに対する〝電話屋〟の大向うコメント、昨年8月に配信された『夏祭版 今昔饗宴千本桜』の二人忠信に対しての〝プラナリ屋〟に代表される、江戸時代の戯作者もかくやとばかりの、当意即妙のコメントの数々に、我々スタッフも思わずニヤリとさせられました。
歌舞伎とニコニコ動画の親和力に、2016年当時は大いに驚かされましたが、冷静に考えれば、江戸時代の芝居小屋では、見物客たちがあれこれと喋りながら舞台を見ていたわけで、かつてはあたり前の風景でした。その芝居見物中のお喋りが、超歌舞伎ではコメントに変わったのだと思い至った時、なにか腑に落ちた気がしました。
ネットで、幕張メッセで、多くの方に受け入れられた「超歌舞伎」
そして、何よりも嬉しかったのは、幕張メッセイベントホールにつめかけた数多くのお客様が、超歌舞伎を現代に生きるエンターテイメントとして、その舞台を楽しんで下さっていることが、我々スタッフの肌身にひしひしと感じられたことでした。
初回の舞台はスタンド席などに空席が見受けられましたが、2回目、3回目と回数を重ねるごとにお客様の数が目に見える形で増えたほか、アリーナ席入場のための整理券が翌30日には、またたくまに配布終了し、嬉しい悲鳴が上がっていました。さらに配信でご覧になったお客様が、これは現地で見たいと思われて、幕張に駆け付けてくださったり、超会議全体を楽しもうとしたものの、超歌舞伎を見続けて1日を終えてしまったお客様もいらっしゃったと側聞しております。
とはいえ、2016年の初回公演を終えたあとは、時間との闘いのなかで、まずは無事に幕が開いたことに、ただただホッとし、喜びの感情はその後の時間経過と共に、じわじわと湧いてきたというのが正直なところです。
超歌舞伎が今日まで継続して公演を行うことができているもの、この1年目があればこそのであり、以前にもこのコラムで記したように、このコンテンツをご支持下さっている数多くのお客様があればこそのものです。
そしてなによりも、日本が世界に誇る伝統芸能である歌舞伎の素晴らしさを若い世代に伝えたいという思いから、この企画を立ち上げて下さったドワンゴさん、さらに超特別協賛として、さまざまな形で超歌舞伎を支えて下さっているNTTさんに、改めて感謝の念と敬意を表するばかりです。
1年目の『今昔饗宴千本桜』には、〝桜がつなげるキセキ。〟と銘打たれていましたが、まさにこの言葉のとおり、桜がさまざまな人や組織、そして心をつなげて、いくつものキセキを起していったのだと思います。
(第六回へ続く)
執筆者プロフィール
松岡 亮(まつおか りょう)
松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。
■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載
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