東京オリンピックのさまざまな混乱を招いてしまった最大の要因
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年7月21日 17時30分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月21日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。IOC総会が開幕したニュースを受け、さまざまな混乱を招いたオリンピックの要因について解説した。
IOC総会開幕~菅総理が「安全安心の大会を実現」と宣言
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東京オリンピックに先立つ国際オリンピック委員会(IOC)の総会が7月20日、東京都内のホテルで開幕した。トーマス・バッハ会長、菅総理大臣、橋本聖子組織委員会会長、JOCの山下泰裕会長らが出席し、菅総理が冒頭の挨拶と開会宣言を務めた。
飯田)23日からいよいよ東京オリンピックが始まります。
佐々木)東京都の1日の新型コロナウイルスの感染者数が1000人超えで増えていて、3000人を超えるのではないかとも言われています。東京i CDC専門家ボードという、コロナ対策の有識者委員会があって、座長には賀来満夫先生という、有名な感染症専門医の方がいます。
東京都の感染状況で1日の感染者3000人超の可能性~そうなるのであれば有観客でもよかったのでは
佐々木)20日のNHK NEWS WEBに、
『東京都の感染状況「最大の危機 1日の感染者3000人超の可能性」』
~『NHK NEWS WEB』2021年7月20日配信記事 より
……という記事が出ています。そこでいちばん注目したのは、賀来先生曰く、大会そのものはバブルという、一般人と大会関係者は接触しないという方式でやっているので、外に感染拡大する可能性は高くない。しかし、東京都民の気分が高揚することによって、スポーツバーや路上でマスクなしで酒を飲み、大声で応援する人が出て、感染者が増える可能性があるのではないかと言われています。
飯田)気分が高揚して。
佐々木)確かにそうなのだけれども、それであれば「有観客でもよかったのではないか」とも思うのです。当初は有観客でやると言っていたのだけれども、メディアを中心に批判が巻き起こって、それに引きずられるように「無観客にします」となった。無観客にしているのだけれども、「路上飲みで感染が増える可能性があるから3000人を超える」という話になると、一体何を基準に無観客にしたのか、よくわからないということになりませんか?
飯田)そうですよね。
佐々木)賀来満夫先生は感染症の専門医なので、とにかく感染者を減らさなければいけない。そうすると、とにかく徹底的に対策するしかない。「だから有観客も路上飲みもやめて欲しい」ということは、論理としては成立するのです。
飯田)感染症の専門家としての見識ですよね。
感染症の専門家の意見に対して各方面からの意見を持ち寄って調整するのが政治の仕事なのだが~世論の空気に押し流されてしまう
佐々木)ただ、それに対して経済の専門家から、「それをやると経済が潰れてしまう。経済を何とかしないといけないので、もう少し緩めた方がいいのではないか」、またはオリンピックの側から見ると、「それをやるとみんな楽しめないし、アスリートも応援があった方がいいから、有観客にして欲しい」というように、いろいろな意見があちこちから持ち寄られて、それを調整するのが政治の仕事であるはずなのです。
飯田)政治の仕事として。
佐々木)しかし世論の盛り上がり、結果的にメディアの盛り上がりなのですが、それに引きずられるように右往左往してしまう。小山田圭吾さんの問題も、当初は「辞任させない」という話であったのに、昔のいじめ発言を受けてメディアが盛り上がり、海外メディアまで報道したものだから、「やはり辞任させる」という方向に移った。常に世論に引きずられてしまう。
理念がないから決断ができない
佐々木)もちろん、世論を伺うのは大事だけれども、一方で世論に右往左往してしまうと、一体、理念はどこにあるのですかということです。「このくらいまでの感染であれば有観客ではやりません、無観客でやります」、「ただしこの程度で抑えられるのであれば、有観客は実行します」と、そこの線引きをきちんと政治が示す。そして、なぜその理由で判断するのかというのは、「感染症の専門医からこういう意見があり、組織委員会のこういう意見、アスリートのこういう意見があり、メディアなどの世論があり、それらを勘案した結果、我々はこうやるのだ」ときちんと決断を示すところが大事なのですが、それができないでいる。
政治決断をしたイギリスのジョンソン首相
佐々木)イギリスは、いいか悪いかは別として、ボリス・ジョンソン首相がリーダーシップを取って、「決して感染者ゼロにはなっていないけれども、開くのだ」と。「マスクなしでOKだ」と決めて実行しています。実際はそれでも1日1万人ほど感染が増えていて、「大丈夫なのか」と言われているけれども、それは政治決断なわけです。
空気の抑圧で押し流されて戦争を始めてしまった第二次世界大戦
佐々木)日本はそこを許さない。その背景には、片山杜秀さんが『未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命』という本で指摘されていますが、日本は政治がリーダーシップを取ると、すぐに「独裁だ」と大騒ぎして、結局リーダーシップが取れないまま、空気の圧力で押し流されて行く。それこそ山本七平が『「空気」の研究』という本で、第二次世界大戦が何で始まったかと言うと、ヒトラーやムッソリーニというファシストがいたからではなく、何となく誰も「やめよう」と言えなくなってしまい、空気の抑圧で押し流されて戦争を始めてしまったということを指摘されていたけれど、いまはそれと同じ状況になってしまっているわけです。
飯田)あのときも総力戦研究で、「これは勝てない」ということはデータとして示されていたのだけれども、それに基づいた意思決定ができなかった。
佐々木)会議では「やるしかない」と言いながら、家に帰ったら奥さんに「俺はこの戦争は無理だと思うんだよね」とコソコソ言っているような。いまと同じですよ。本当であれば、政治家がリーダーシップを取って、「もうやります、やりません」と言えればいいのだけれど、それができずに空気の抑圧で流れて行ってしまう。みんな、心の底では「これではまずいよね」と言っている。そういう状況になってしまっていることは、問題があると思います。
日本の混乱を招いている最大の要因は「曖昧模糊とした判断基準でとにかく評価しない」という日本社会の空気感
飯田)先ほど、小山田圭吾氏の話がありました。いろいろな見識や意見があるなかで、辞めさせるのであれば即座に切るべきだったし、そこで辞めさせないという決断をしたのであれば、火だるまになってでもやれよということですよね。
佐々木)結局、何事も空気に押し流されて決まるとみんなが安心するという、これは政治家の責任というよりも、リーダーシップを独断専行と呼び、政治決断をファシズムと呼ぶ、日本社会のある種の空気感のようなもの、文化のようなものが引き起こしてしまっている部分もあると思います。
飯田)日本の文化のようなものが。
佐々木)実際に、これで組織委員会や首相が「有観客でやる」とか「無観客だ」と言った瞬間に、みんな袋叩きにするではないですか。政治決断をある程度評価し、その評価の軸がある種の理念に基づいた評価や、理念に基づいた反対であればいいのだけれど、そうではなく、「リーダーシップを取ること自体がけしからん」という、よくわからない曖昧模糊とした判断基準でとにかく評価しない。そこに行ってしまっているのが、日本の混乱を招いている最大の要因ではないかと思います。
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