ラジオの魅力、そして人間愛、情熱……朗読劇「太陽のかわりに音楽を。2022」初日観劇レポート Go! Go! Go! and goes on!
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年5月12日 22時15分
2022年5月9日、オールナイトニッポン55周年記念公演 朗読劇「太陽のかわりに音楽を。2022」が 銀座・博品館劇場にて初日を迎え、“81プロデュース”所属の声優たちによる夢の共演がスタート!多くの来場者を迎え、感動を与えた初日公演をレポートする。
受験勉強の友として……仕事現場で……眠れない夜に……様々なシーンで放送を耳にしたニッポン放送の「オールナイトニッポン」の制作現場の朗読劇と聞き、観劇前からワクワク感が止まらなかった。この番組名を聞けば誰もが何かしらの思い出が蘇るはず。 昭和・平成・令和……年号は変わっても、今もなお愛され続けているオールナイトニッポンの熱い制作現場を描いたこの作品は、2017年に上演された 舞台『太陽のかわりに音楽を。』が朗読劇として生まれ変わったもの。大手声優事務所 “81プロデュース”に所属する声優たちが日替わりでタッグを組み、色んな味で魅せてくれるなんとも贅沢な公演。声優の組み合わせにより、同じ舞台でも毎回全く違う面白さを楽しめると聞き、何度でも劇場に足を運びたくなってしまった。
初日に登壇したのは、金光宣明(パーソナリティー 糸居役)、米内佑希(ミュージシャン・トロイ役)、比留間俊哉(AD三雲役)、小田柿悠太(ディレクター 倉本役)、田中あいみ(ニッポン放送アナウンサー 青葉役)、山下七海(リスナー・アキコ役)の6名。全員が胸にこの朗読劇の時代背景である「1967 ・ 2022」と大きく書かれたTシャツを身に着け、チームの絆を強めてこの朗読劇に臨んでいた。
ミュージシャンであり「オールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティーを務めるトロイは、やりがいを見いだせないラジオの仕事が好きではないが、今日の番組もなんとかオンエアを終えエレベーターに乗る。 扉が開いた瞬間、何やら異変を感じる。なんとそこは1967年のニッポン放送。ディレクター倉本、伝説のパーソナリティー糸居四郎、ADの三雲、アナウンサーの青葉と出会う。こんなスピード感ある始まりは、一体これからどんな展開が待っているのかドキドキ感を高めてくれた。
肩にセーターをかけファッションも言動も”いかにも……“なディレクター倉本を小田柿悠太がパンチのある声で表現する。ディレクター倉本という人間は、 虚勢を張るものの長いものにはしっかりと巻かれてしまう、ちょっと滑稽な部分を持ち合わせていることを声の強弱で表現し、「いるよね。こういう調子のいい人!」と観る側を思わずうなずかせた。
トロイ役の米内佑希は、トロイがやる気のない状態でDJを行う様子や、周囲の異変に気付いた時の驚く様子、糸居という伝説のパーソナリティーとの出会いによりどんどん心が変化していく姿、そんな静と動を、シーンごとに見事に演じ分けていた。
戦争を経験したベテランパーソナリティー糸居の言葉や考えかたはトロイの心を少しずつ変化させていく。
「 “リスナーのために番組を作る”をポリシーに、朝や夕方は通勤している人、午前中は主婦、昼は自営業、そして深夜は若者の解放区に……。それぞれのターゲットに向けて番組を組む方式はニッポン放送が初めて取り入れた画期的なチャレンジだった。聞いている人のために番組を作るのがラジオマン。深夜は一番リスナーの多い若者世代が聴きたい音楽をかけ、彼らの言葉に耳を傾けるのが“オールナイトニッポンの理想」と語る糸居を演じた金光宣明は、ベテランパーソナリティー糸居の何ごとにも動じない冷静さと数多くの人生経験による厚みのある人間性を、おおらかで包み込むようなあたたかい声で丁寧に伝えていた。
糸居の番組を、2022年を生きていたトロイも かっこいいと感じ、トロイは、自分はラジオを知ろうとすらして来なかったということに気づき始める。そんなトロイの固まっていた心が、ラジオに愛と情熱を注ぐ糸居によって、どんどん柔らかくなっていく過程を、トロイ役・米内佑希はすみずみまで意識の届いた細やかな声色の変化で表現していた。
e-mailやFaxが無かった時代、番組へのリクエストやおたよりを書くのは、手書きのハガキや封書。書くのは決して楽では無い一方、様々な思いを馳せながらしたためることが出来た。 簡単にすぐ言葉を伝えられる便利な現代ではあるがちょっと味気ない。利器が無かったこの時代は、手間や時間こそかかるが、書く文字にその時の心が映し出される。この朗読劇を見ながら、改めて何も無かった時代の趣を感じ、愛おしく感じられた。
ある日、糸居の番組に、自分の気持ちのやり場がない悩める一人の少女 (アキコ)からハガキが届く。このハガキに書かれた数行の手書きの文を見て、糸居は何かを感じる。そこからこのストーリーは大きく展開していく。そしてみんなの心を動かしていく。アキコを心配しながらも番組のことも考える田中あいみ演じる青葉は、人への思いやりにどんどん心を動かされていく姿をしっかりと演じ、大きな印象を残していた。
大きな悩みを抱えた孤独な少女アキコを演じる山下七海は、たった一人で思い悩み苦しんでいた、はかなげな姿から、糸居やトロイたちにより自分は一人ではないことに気づき生きる価値を見出していく過程を繊細な声と声の強弱で表現していた。
家族や友人は寝静まり、孤独を感じる深夜の時間帯、ラジオはいつもそばにいて音楽や言葉で楽しませ、元気にしてくれる。インターネットなどが普及していなかったこの時代は特に、リスナーとラジオが寄り添い、人同士の気持ちを通わせるあたたかい場所だった。
この朗読劇ではオールナイトニッポンのジングルや当時流行っていた楽曲が沢山流れて来る。この時代を知る者にとってはたまらなく愛おしい。また、この時代を知らない世代にもきっと何か心に響くはずだ。
どこでも聞ける、いつでも聞ける、何かをしながら気軽に聞ける……これがラジオの魅力。一見すると気軽に話しているように思えるDJたちだが、実はどんなにとりつくろっても話し手の本性が出るラジオ。1対1で向き合ってくれるリスナーに本気で、本性で向き合わないといけないと常に考えている。そんなことからオールナイトニッポンでは DJのことをパーソナリティーと表現した。今ではDJを当たり前にパーソナリティーと呼ぶ言葉の誕生秘話もこの朗読劇で知ることが出来た。
この朗読劇は出てくるセリフに心に響く言葉がとても多かった。中でもかつて戦争を経験した糸居の言葉「戦争は本当に自由を奪います。流したい音楽も流せない。しゃべりたいこともしゃべれない。そして……生きたくても生きられない。死にたいなんて誰も思っていなかったでしょう。もっともっと自由に生きていたかったでしょう。けれど戦争はそんな人たちから無残に自由や命を奪うのです。」は今も世界で起きている戦争へのメッセージにも感じたまらなくせつない気持ちになった。
「若者には無限の可能性がある、沢山の夢を叶えるチャンスがあることを、音楽を通じて伝えていきたい」と生き生きと語る糸居の言葉に当時の番組制作現場の熱い思いを感じる。その思いが受け継がれたからこそ、今もなお 「オールナイトニッポン」は愛されている。
声優事務所 “81プロデュース”所属の声優たちによる朗読劇は圧巻だ。大きな動作が無くとも言葉だけで、状況も感情も言いたいこと全て伝わってくる。 時に優しく、時にチカラ強く、時にせつなく…… 声だけで1967年にも1977年にも2022年の世界へも誘ってくれる。さすがとしか言いようのない見事な声の演技に約1時間40分、惹きつけられた。初日を観て全ての組み合わせで見てみたいと本気で思った。そしてラジオっていいなと改めてラジオの良さを思い出した。
ラジオの魅力、そして人間愛、情熱を感じることが出来る朗読劇『太陽のかわりに音楽を。2022』は5月17日(火)まで 銀座・博品館劇場にて上演される。
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