レイセオンの極超音速巡航ミサイル計画にノースロップ・グラマンのスクラムジェットエンジンが参加

おたくま経済新聞 / 2019年6月19日 15時0分

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外気吸入型極超音速巡航ミサイルHAWCのイラスト(Image:Raytheon/Northrop Grumman)

 レイセオンはフランスで開催中のパリ・エアショウで2019年6月18日(現地時間)、開発中の外気吸入型極超音速巡航ミサイルHAWC(Hypersonic Air-breathing Weapon Concept)の動力源として、ノースロップ・グラマンのスクラムジェットエンジン採用を決定し、共同開発に合意したと発表しました。今後両社は2億ドル(約217億円)を上限とした予算の中で、アメリカ空軍とDARPA向けにマッハ5以上で飛翔する巡航ミサイルの研究開発を進めるとしています。

 音速(マッハ1)以上の速度領域を超音速(スーパーソニック)といいますが、その中でもマッハ5以上を極超音速(ハイパーソニック)といいます。物体の速度が音速に近づくと、その物体の前にある空気が圧縮されて衝撃波(音の壁)が発生します。超音速の領域では、その衝撃波を押しのけるように物体は進みます。

 身近な例では、自転車などで走っている時、体に風の圧力を感じますが、これは自分の前にある空気が圧縮され、その重みを感じているわけです。音速から超音速で発生する衝撃波と飛行する物体の関係は、自分の前に薄い布を置いて、それが落ちないように走った場合で想像するとわかりやすいかもしれません。この場合の布が衝撃波に当たるわけですが、走るスピードを上げると、布(衝撃波)はより体に沿ってまとわりつくようになります。これがマッハ5以上の「極超音速」と呼ばれる速度領域で発生する現象です。

 布の場合はヒラヒラとするだけですが、衝撃波は違います。マッハ5以上の極超音速になると、空気が非常に高い密度で圧縮される(断熱圧縮)ことで、大きな熱が発生してしまうので、高い耐熱性が要求されます。

 また、それだけの速度を出すための動力源も問題となります。一番簡単な方法は、宇宙ロケットや弾道ミサイルのようにロケットエンジンを使うことですが、上昇するだけの数分間燃焼すればいい宇宙ロケットとは違い、何十分と水平飛行を続ける巡航ミサイルでは実用的な大きさに収まりません。できれば、本体には燃料だけを搭載し、燃焼に必要な酸素は外部から取り込むジェットエンジンが理想的です。とはいえ、通常のジェットエンジンではマッハ3程度が限界で、それ以上の速度を出そうとするとタービンや圧縮機の回転数が上がりすぎ、そこで音速を超えて衝撃波が発生し、効率が落ちてしまいます。

 これを解決するエンジンが、スクラム(SC-Ram)ジェットエンジンなのです。超音速で飛行する際の空気の吸入圧力(ラム圧)で空気を圧縮し、水素など超音速で燃焼する(Supersonic-Combustion)燃料を使用して極超音速飛行を実現します。スクラムジェットエンジンはJAXAをはじめ、各国でスペースプレーン実現のためにも研究されていますが、NASAのX-43シリーズ(2004年11月16日に最高速度マッハ9.6のギネス世界記録達成)やX-51(2013年5月1日に最高速度マッハ5.1を記録)に搭載されたものが知られています。

 ノースロップ・グラマンは、スクラムジェットの速度記録を持つX-43のエンジンを開発したゼネラル・アプライド・サイエンス・ラボラトリー(GASL)を傘下に持っており、スクラムジェットエンジンのパイオニアともいえる存在。レイセオンはこの点から、極超音速巡航ミサイルの開発パートナーとして同社を選んだというわけです。

 レイセオンの先進ミサイルシステム担当副社長、トーマス・バッシング博士は「この合意によって、レイセオンの戦術ミサイルに関する長年の経験と、ノースロップ・グラマンの優れたスクラムジェットエンジン開発経験が融合し、最適な兵器を生み出すことができます」と、今回の共同開発について語っています。

 ノースロップ・グラマン副社長で、防衛システム部門のゼネラルマネージャー、マイク・カーン氏は「レイセオンと協業することで、我が国の高速兵器システム開発に大きな一歩となることでしょう。これは我が国の作戦機において、素晴らしいスタンドオフ性とより短時間で目標に到達させる能力を大きく拡大する、重要なものとなります」と、この新しい巡航ミサイルがもたらす未来についてコメントしています。

 アメリカ空軍とDARPAが研究開発を進める極超音速で飛翔するミサイルは、このレイセオンとノースロップ・グラマンが共同開発するHAWCだけではありません。ロッキード・マーティンは、AGM-183A ARRW(Air-Launched Rapid Response Weapon=空中発射型即応兵器)という極超音速ミサイルを開発中で、2019年6月12日に実物大のモデルをB-52に外部搭載し、飛行中の空力特性などのデータ収集をカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で行ったことを6月13日にアメリカ空軍が発表しています。こちらは2022年の初度作戦能力獲得を目標としているとのこと。

 マッハ5以上の極超音速で飛翔するミサイルは、検知から弾着までの時間が短く、迎撃が非常に難しいものとなります。攻撃の確実性を上げ、しかも目標から離れた場所から発射できる極超音速巡航ミサイルは、攻撃側の安全を確保し、育成に時間がかかる貴重なパイロットの損耗を避けるため、アメリカで重要視されている兵器のひとつなのです。

<出典・引用>
レイセオン ニュースリリース
ノースロップ・グラマン ニュースリリース
アメリカ空軍 ニュースリリース
Image:Raytheon/Northrop Grumman/USAF Edwards AFB

(咲村珠樹)

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