ツイッター警部が教える年末年始の防犯あれこれ
おたくま経済新聞 / 2020年12月31日 15時0分
中村健児さん
警視庁の犯罪抑止対策本部公式Twitterを「甲」として担当していた経験から、いつもなら「年末年始、こんな犯罪や事故が増えますよ!」というお話をしたいところです。ところが新型コロナウイルスの大流行で、2020年~2021年の年末年始は今までと大きく違うものになってしまいました。それでも、気をつけるべき点を挙げていきたいと思います。
まず、年末年始に増加しがちなもの。それは「交通事故」です。
これは変わらないでしょう。忘年会や大勢で集まって飲酒する機会がぐっと少なくなっていると思いますから、飲酒運転による事故は減るかもしれません。いえ、減って欲しいですね。自分自身が起こさないことはもちろんですが、被害者にもならないよう、交通安全に留意して過ごしてほしいと思います。
そして定番の「ひったくり」「スリ、置き引き」「空き巣」ですが、実はここ数年、というか刑法犯の認知件数は平成14年に戦後最多を記録したのを頂点に、翌平成15年からなんと17年連続で減り続けているのです。特にひったくりは、もう根絶と言っていいくらいに少なくなっています。
警察白書によると、ひったくりは検挙率が6割を超えています。そして、得られる利益が「やってみないと分からない」犯罪です。場合によっては金目のものにありつけないことだってあるという、ハイリスクローリターンな「割に合わない犯罪」だということが周知されたのでしょう。
では、逆にローリスクハイリターンな犯罪というものはあるのでしょうか。振り込め詐欺や還付金詐欺などといった特殊詐欺がこれに当たります。
特殊詐欺は組織的に行われる犯罪で、警察も主犯格にはなかなかたどり着けずに苦心しています。ただ、末端の受け子や出し子は別です。受け子や出し子は使い捨てで逮捕されることが前提という惨めな役割です。
一時的には、普通のアルバイトなんかとは比べものにならない収入が得られることがあります。ですが、末端は必ず逮捕されます。いま、検察庁や裁判所は特殊詐欺に対して、ことのほか厳しい姿勢で臨んでいます。初犯でも執行猶予が付かない実刑判決が出ます。
特殊詐欺の受け子や出し子は、学校(特に卒業中学校)の先輩から誘われて足を踏み入れるケースが多くなっています。次に多いのはパチンコ屋で、リクルーターに声を掛けられて仲間に加わってしまうことです。
一度仲間に加わってしまうと、学生証や免許証のコピーを取られ(場合によっては取り上げられ)仲間から抜けられなくなります。抜けたくても脅されて警察に逮捕されるまで抜けられなくなるのです。
さて、事件事故に巻き込まれることなく無事に新年を迎えました。いよいよ仕事始め、気持ちも新たに仕事を始めるあなたをトラップが待っています。
お正月休み明け、たくさんのメールが溜まっていることでしょう。どんどん返信していかないといけませんね。中には添付ファイルがあったり本文中にリンクが張られているものもあるかもしれません。
添付ファイルを開かないでください。
リンクをクリックしないでください。
「え、でも取引先から送られてきているメールだから大丈夫でしょ?」
そう思うかもしれませんが、取引先から送られてきたメールも決して安全ではありません。
現在「Emotet」というマルウエアが密かにばらまかれています。これに感染したパソコンは、そこに保存されているメールを使います。だから、自分が送ったメールが引用されている返信といった形でEmotetが届けられることもあるわけです。
「そんなこと言ったって自分のパソコンには抜かれて困る機密情報もないし……」
2020年は企業に対する不正アクセスが、本当にたくさんありました。顧客情報の流出も毎日のようにありました。あれはどこから流出したのでしょうか。
攻撃者は、いきなり宝の山に対してアタックを仕掛けてくるわけではありません。まずはセキュリティの弱い端末を狙って攻撃してきます。つまり「うっかりリンクを踏む」ような人のことです。
リンクを踏んだり添付ファイル(主にオフィス製品で生成されたもの)を実行して「コンテンツの有効化」を承認するとマルウエアに感染します。そして、感染した端末を足がかりにしてそのネットワーク内の他の端末へと「横展開」していきます。首尾良くファイルサーバーやデータベースサーバーを見つけると、そこから情報を盗み出していきます。
いいサイトをご紹介しましょう。
「Virus Total」というサイトです。ここは、ウイルスに関する情報が毎日世界中から寄せられ、それをweb上で検索することができるというものです。メールに添付されていたファイルをアップロードしたり、リンクのURLを貼り付けたりして検索できます。ほとんどの場合、すでに報告されている検体になると思います。まだ報告がないという結果だとしたら、あなたが世界で最初の報告者になるかもしれません。
来年はもっと楽しい記事を書きたいなあ。
■ 中村健児
警視庁犯罪抑止対策本部のTwitterアカウントを2012年~2016年に担当。当時は複数人で中の人を担当していたため「甲」と名乗る。
2020年9月に警視庁を退職。同年10月にTwitterに特化したアカウント運用請負業「合同会社フォルクローレ」(@FOLCLORE_LLC)を設立し、現在は代表および“中の人職人”として活動している。
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