更年期って「ひとりじたく」がはかどるかもしれない!はじめて一人で「尾瀬」へ行きました【更年期50代のアフタヌーンエイジ日記】♯37
OTONA SALONE / 2023年9月17日 21時0分
「子どもを生む前までは『ママ友』ってすごいネガティブな言葉で、正直めんどくさいなと思ってたけど、生んでみたら、なにこんなのサイコーじゃんて感じだよね」。
保育園時代のママ友、ユミコさんの言葉です。たまたま運よく面倒な人がいなかった偶然も大きいけれど、私の場合も同様に保育園、小学校とも完全にママ友サイコー!です。
「ママ友」「公園デビュー」は90年代後半に登場した言葉。この先いっそう少子化が進むのに、せっかくの育児を互助できる新しい出会いに延々ネガティブな先入観を持たせ続けるのはもったいないなと思います。人間同士のトラブルなんてどんな集団でも起きるものだし。
さて、この夏の初めに私はママ友のお世話でスキューバのライセンス取得に出かけて「耳が弱かった」ことに気付きましたが(こちらから)。夏の終わりはまた別のママ友のご縁で山にきて「一人の気楽さ」に開眼するお話です。*以下すべて2023年9月現在です。最新状況は各オフィシャルサイトでご確認ください。
【更年期50代のアフタヌーンエイジ日記】♯37
秋の1週2週めの山は「ねらい目」なのだそうです
個人的に、日本の2大高山避暑地は「上高地」「尾瀬」だと思っています。どちらも標高1500mほど、制限のある自然保護区域のため自家用車では入山できません。
上高地は明治25年に英国人宣教師ウェストンが北ア登山のため入山、日本近代登山の礎となったことで知られます。日本初の山岳ホテル、上高地帝国ホテルの存在でもその格式がよくわかります。いっぽうの尾瀬も、明治23年に平野長蔵氏が開山し、終戦直後には「苔か電気か」で知られる日本初の自然保護運動の舞台となったシンボリックな土地です(こちらから)。
その平野家の4代目が営む尾瀬沼湖畔「長蔵小屋」がたまたまママ友のお家なので、子ども4歳から夏に家族で2泊3泊とお世話になってきました。そしてこの9月2週、子どもが学校行事で3泊不在になるので「ひとりで尾瀬に行ってみよう」と思い立ったのでした。9月上旬は紅葉前の静かなシーズン、予約も取りやすい。
尾瀬はちょっとだけ「登山」モードになる必要がある
さて、自家用車から低公害バスに乗り換えてそのまま入山できるカジュアルな上高地に対して、尾瀬は高度経済成長期の林道計画中止運動が実り、いまでも自動車での入山はできません。駐車場で低公害バスに乗り換えたあと、4つの峠のどれかを徒歩で越えて入山する必要があります。そもそも「尾瀬ってどこにあるの?」というわかりにくさがありますが、尾瀬国立公園が新潟・福島・栃木・群馬4県の県境にあたり、「どこの観光地」とも言い難い点も影響しているのでしょう。
尾瀬内は、いわゆる「はるかな尾瀬」の広い湿原「尾瀬ヶ原」と、静かな湖畔の「尾瀬沼」2つのエリアでできています。尾瀬ヶ原側には至仏山、尾瀬沼側には燧ケ岳という日本百名山が位置し、本気の登山客から湿原散策のカジュアル客までが混在します。
外から入る4つの峠のうち、会津側まで電車とバスを乗り継いでから歩き出す「沼山峠」は整備された木道なので雨でなければスニーカーでOK。高低差もあまりなく、歩き出しから60分ほどで「尾瀬沼」に出られるため、子どもが小さい間はみんなでここを越えていました。
ですが今回は私一人なので手軽さを優先、新宿バスタからバス1本4時間で入れる「大清水」でシャトルバスに乗り換え「一の瀬」下車で90分歩くことに。この道は岩もあるため、トレッキングシューズが推奨されます。なお、尾瀬ヶ原側へは新宿バスタを同じバスで出て、途中乗り換えて「鳩待峠」から入ります。いちばん入山数が多いメジャーな入口です。
WIFIがつながり、仕事が持ち込める世界になった!
尾瀬が「よくわからない」もう一つの理由が、「行った人の写真があまり流れてこない」点にあると思います。若い世代はそもそも尾瀬の存在を知らないんですって。これは、長らく携帯の電波が入らなかった影響でしょう。コロナ前までは宿の公衆電話も衛星電話でしたが、au、docomoはつながるようになり、2018年には尾瀬域内の全山小屋にフリーWIFIも整備されました。電波状況は場所によりけりですが、少なくとも尾瀬沼「長蔵小屋」ではビデオ会議含めたテレワークが可能です。
ちなみに今日、私は明け方から3時間かけて尾瀬沼と尾瀬ヶ原の間の白砂峠を越え、尾瀬ヶ原側の見晴までお散歩にきてこの原稿を書いていますが、見晴エリア弥四郎小屋のカフェでもWIFIが拾えています。場所を選べば尾瀬はテレワーク可能な地となりました。
弥四郎小屋のプレスコーヒー550円、お水のよさもあって猛烈に旨いです。そして私の着席から20分に1回は、暑い中に尾瀬ヶ原をてくてく歩いて横断してきた人がカフェ前の湧き水に手を浸し、「うわあ、めっちゃ気持ちいい」と叫んでいます。
山小屋の質実剛健さと少しの不自由さ、24時間すべて美しい自然を全どりできる尾瀬
話が前後しますが、尾瀬・上高地に共通するのは「山小屋とは思えないほどの利便性」です。山小屋とは基本的に登山客が利用するために存在し、一般的な旅行とは異なる「山のルール」のもとに運営されます。どの山でも水・電気・トイレは「ない」「あっても強い制限がある」、ごみは100%持ち帰り、朝は4時ごろから起床し朝食6時、夜も8時9時には完全消灯。救難の性質を持つ施設ですから、緊急のお客を断らない方針も維持されています。生と死が隣り合わせの、基本的には不自由な場所と言えます。
尾瀬の場合も、すべて物資は人が背負って持ってくる「歩荷」、またはヘリでの搬入出ですが、山小屋としては極めてレアなことに、どこも電気と水が比較的豊かです。正確には尾瀬内もエリアごとに事情が違い、電気も電線経由も自家発電もありますが、どの小屋でも電気がついてお風呂に入れるのは素晴らしいこと。どこも建物は簡素剛健で豪華さは期待できませんが、いずれも清潔は保たれています。お部屋も個室ベースで、相部屋が可能な小屋のほうが少ないそう。国内山小屋界では奇跡的なバランスのラグジュアリー山域というわけです。
そしてどういう理屈かわかりませんが、コロナ前からものすごくグルメ化が進んでいます。もともと長蔵小屋はお料理がおいしいことに定評があったそうですが(ママ友なのでわかるのですが、彼女が女将なら当然美味しいだろうと思います)、今日は尾瀬ヶ原側まできてみてびっくりしました。見晴エリアに4つある山小屋のうち尾瀬小屋という山小屋は完全にカフェになっています。
本当に歩荷&ヘリ搬入でこのメニューこの価格なのでしょうか。驚きながらもシカ肉のボロネーゼをいただきましたが、普通においしかった。付け合わせのパンひとつとってもも甘みのある、月に1回2回程度であろうヘリ搬入でこれをどう維持してるのかなと魔術感のある美味しいパンでした。さすがに山なのでアクセントのハーブが乗っていませんが、違いはそれくらい。
先ほども若い男女集団が尾瀬小屋カフェの看板を見て「マジ」「やば」を連発しながら吸い込まれてきて、いまビールのジョッキをどんどん空けています。私の隣ではボロネーゼとフレンチトーストを頼んだご夫婦がワインを優雅に飲んでいて、とってもステキ。
一人で訪れても「山のルール」だと「一人ぼっち」にはならない
一人できてみて気がついたことです。ここはリゾートではなく山であるため、とっても一人に向く場所だったみたい。まず、意外なくらいにソロ女性客がいる。毎日いる。
長蔵小屋ではソロ客はお食事を同じテーブルで相席でいただきます。不思議とソロ山女さんたちは例外なく「適度な距離」をわきまえていて、お話をすれば話が盛り上がり、黙っていてもお互いの黙り感を尊重してくれます。そして、いろんなエリアからいろんな経験の人たちが集まっているので話がどう転んでも面白い。
1日目は北アルプスソロ縦走をバンバンしているベテラン女子2名と相席でした。東北の山には営業小屋がないねというお話や、初心者も谷川岳おすすめよ、営業小屋があるから泊まれば明け方の雲海がとてもすてきよいうお話を聞かせてもらいました。
2日目は全部で3人しかお客さんのいない日で、相席は山歴3年目の女子1名。明日は燧ケ岳に登って大清水から帰りますという彼女には「なんでここまできて山登らないの???」と驚かれました。なんででしょうね。朝食は80代男性といただきましたが、大きな食品メーカーにご勤務だった方で、高度経済成長にあわせた業態転換のお話を伺えました。
3日目は逆に「もう登らず帰ります」の女子4名でした。1人は30代からご主人の渓流釣りに付き添って沢を続けてきたベテラン、1人は京都からの遠征で至仏山に登ってきた人、もう1人は動物観察メイン。このうち沢の方が「今日くる途中でオコジョを見たの!」と動画を見せてくださいました。オコジョ、びっくりするほどかわいい。他の皆様も普段はもりもり登るので、ライチョウを見た話しや、シカ、タヌキ、テンなど動物の話で盛り上がりました。
4日目は私だけ。5日目は年に一度富士山に登って10年の女子、ツアーから登山をはじめてソロに転向した女子、男性が2人。富士山女子から「須走口を下ってくると、あまりの砂埃のひどさにタライにお水を張って売っていて、顔を洗える」「7月の梅雨明け前の天気がいい日を見計らって登れば空いている」など富士の知恵を教えてもらいました。男性のうち1人は新人商社マンで、お仕事がとっても忙しいという話に転向女子が「3年は頑張ってみて」とアドバイスしていたり。
「おひとりさま初心者」に尾瀬はとってもいいと思いました!
宿の方、行き会う方との雑談も含めて、一人できたはずなのにこうして一日中喋っているいっぽう、仕事の合間に一人でぼーっと尾瀬沼を歩いていると、自分は「ひとが立てる音」がまったく聞こえない環境にいるのだということにふと気付きます。いまこの瞬間、ただ虫の羽音や、霧雨が草の葉っぱに触れるかすかな音や、水鳥が水に潜る音、そんなものしか聞こえません。きっと私が死んで、あるいは人類が滅んでずっとずっと時間がたっても、この音はこのまま地上に残るのだろう。ひとが命を持って過ごす時間のなんと短い、儚いことか。なんてことも考えてしまいます。
この状況をLINEでママ友らに送ると「いいなーーーー!!!私も一人になりたい!!ぼーっとしたい!!!」という反応が間違いなく戻ります。下の子がいるとまだまだ泊りがけで一人は難しいかもしれませんが、でも更年期を迎えた女性らはこれから子どもの手もどんどん離れていくでしょうから、やがて1泊、2泊と子どものいない旅行にも出られるようになるのだと思います。
「一人で旅行なんてしたことない、寂しそう」という方。今回私は、山って「おひとりさまがたくさんいる前提」の場所だと気づいてしまいました。絶対いいですよ山。なかでも尾瀬は、ルートによっては登山の準備が必要ですが、下調べさえしておけばちょっとルールのあるリゾートの感覚のままで来られる絶好の場所。今季は10月末で閉山、あとしばらく楽しめます。私はおすすめします!
≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫
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