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強迫障害と発達障害の長女。「泥遊びを嫌がっています」という連絡から全ては始まった

OTONA SALONE / 2024年3月10日 18時0分

ひろみさん(仮名・41歳)は、一度目の結婚をした時に長女を出産。その後離婚して再婚。二人目の夫との間に長男、次男、次女をもうけました。長女のすみれちゃん(仮名)は、3歳の時に泥遊びを嫌がるようになったのですが、それが最初の異変でした。精神科を受診した方がいいのかどうか悩むひろみさん。保育園のカウンセラーから「考えすぎ」と言われたこともあり躊躇していましたが、やがて……。

精神科に行った方がいいの?

ひろみさんが長女のすみれちゃんに異変を感じたのは、すみれちゃんが3歳の時のこと。

「ある日、保育園の先生から『泥遊びを嫌がっています』と言われました。『えっ?』と思ったのですが、『泥遊びをして手が汚れるとママに怒られる』と言っていたそうです。私はそんなこと言ったことがなかったのですが、保育園で服を汚さないような過ごし方をしたり、他の子よりも手洗いが多かったり、着替えが多かったりすると聞きました。それが強迫性障害の始まりでした。」

言われてみれば、確かに手洗いが頻繁で、潔癖症と言うにはやり過ぎている。ひろみさんは、精神科を受診した方がいいと思いました。

「でも、精神科のハードルが高くてなかなか行く気にはなれませんでした。よくよく観察して、ある程度まとまった状態で診断してほしいと思いました。保育園のカウンセラーにも相談してみたのですが、『ちょっと早いんじゃないいの?まだ就学前だし、5、6歳で考えすぎですよ』と言われました。」

ひろみさんは、内心「考えすぎじゃない、そんなはずないでしょ」と思いましたが、しばらく様子を見ることにしました。

 

 

診断名は強迫性障害とADHD

その後、すみれちゃんは名門小学校に入学。ひろみさんは、すみれちゃんが1年生の時に、改めて小学校のカウンセラーに強迫性障害について相談しました。その時、「よくこんな状態になるまで放っておけましたね」と言われ、ショックを受けたそうです。

「やはり精神病院を受診した方がいいのかなと思い、関東地方の児童精神科のクリニックを受診しました。そこでは、強迫性障害だけではなく、ADHDだと診断されました。強迫性障害は『やっぱりね』と思いましたが、まさかADHDだったとは。その時初めて気づきました。」

診断名が付き、医師は、すみれちゃんだけではなく、ひろみさんも治療に参加するよう促しました。

「本人の治療だけではなく、家族も一緒に治療をしよう!しなくてはだめだという方針でした。そのため、私はペアレント・トレーニングの受講を勧められました。『私?私がいけなかったの?』と思ったのですが、3万円払って受講することにしました。そこではADHDの子どもとの接し方とかを教えてもらいましたが、かなり違和感を感じました。」

 

 

親も治療に加わるペアレント・トレーニングに参加

実際のペアレント・トレーニングには6〜8人が参加して、親同士ペアになって進められました。

「子どもの言っていることをおうむ返しにしてみたり、『すみれちゃんがスイカを食べています』と実況中継をしたりして、子どもに『ママはあなたに注目しているよ』と実感させるのです。熱心なお母さんもいらしたのですが、私は、『こんなこと本当に効果があるのかな』という不安を感じ、引いてしまいました。でも、1〜2ヶ月、週に1回、わりときちんと通いましたし、勉強にもなりました。」

ひろみさんは、ペアレント・トレーニングで学んだことを実際に家でもやってみました。その時すみれちゃんは2年生でしたが、実況中継をすると、「ママ、ちょっとうるさいよ」と言われることもあったそうです。ひろみさんは、「これは、もう少し年下の子向けではないか」と感じました。

「怒るまで5秒待てと教えてもらいましたが、実際の現場では、5秒も待てません。わーっと怒ってしまう。ですから、教えてもらったことを全て実行していたかというと、そうではありません。できないこともありました。」

一方、強迫性障害は、こだわるものが年齢と共に変わっていきました。小1の時は頻繁に手洗いをしていましたが、次第に机の汚れを気にするようになり、3、4年になるとかさぶたを気にするようになったそうです。今は小6ですが、爪が伸びる時になるようで深爪になっているといいます。

 

 

何もかもうまくいかない

ひろみさんは、仲の良い友人にもすみれちゃんのことを相談しました。その人は美容や健康に詳しく、ひろみさんも信頼していました。

「すみれのことを心配してくれて、『そんな小さいのに早くから薬を飲んじゃだめだよ』とか、『食事を変えたら治るよ』とアドバイスしてくれました。小麦粉を使ったパンを食べるのをやめて米粉パンを食べろとか、醤油はどこそこの大豆を使ったものがいいとか言われたので、もったいないと思ったけど、使っていた醤油を捨てておすすめのものに変えました。パンも好きだけど3日に1度にしたり、お菓子もだめだと言われたのであげなかったりしました。病院でもらっていた薬も飲んでも飲まなくても同じだから、『すみれちゃん、3日に1度にしよう』とか、勝手に減らしたのです。でも、それを機に地獄の日々が始まりました。何もかもうまくいかなくなり、育てづらいってこういうことなんだと実感しました。」

すみれちゃんは朝起きられないので、ひろみさんが布団から引っ張り出して学校に行かせる日々が続いていました。毎日のように遅刻が続き、ひろみさんが先生から怒られる。宿題はやらない、弟とは喧嘩する、手洗いが止まらない。情緒の安定のためにいいと言われている演技を習わせても逃げ出してしまう。

「すみれのためにいいと思ってしたことが全部裏目に出て、あんな高い月謝を払ったのに逃げ出す!?と怒りも湧いてくるし、全て!24時間生活の全てがだめでした。」

 

 

薬を使うことにためらいも

すみれちゃんは、小1の時から薬物療法もしています。ジェイゾロフトという抗うつ薬を使っているのですが、医師からは、「ADHDと強迫性障害を持っているのに、よくやっていけるね。もう少し薬を増やしましょう」と提案されています。

「ずいぶん前からそう言われているのですが、断っています。怖いという気持ちを拭いきれません。これから初潮がくるし、成長過程なのにこんなにいっぱい薬を飲んでいいのかと気掛かりです。ジェイゾロフトは、私の中では最小の薬。先生には、『それはお母さんのエゴじゃない?辛いのはすみれちゃんです。よく出す薬だから大丈夫。薬を増やして様子をみませんか』と言われています。でも、寝起きも悪いし、これ以上眠り姫になられても困ります」

 

 

生きやすくするため、心のトレーニングをしたい

すみれちゃんは療育にも通っていましたが、6年生の夏にやめてしまいました。「私、普通級だし、なんでこういう子たちと一緒にいなきゃいけないの?」というのがすみれちゃんの言い分でした。今、ひろみさんは、個別の療育プログラムを受けさせてみたいと考えています。

「ただ、個別の療育は、遠方だったり席が埋まっていたりして、なかなか入れません。待つこともできるのですが、『本当に入れるかどうか確約できません。大丈夫ですか』と言われています。すみれのコミュニケーション能力を鍛えられるなら、療育に代わる習い事でもいいと思っています。生きやすくなるように、心のトレーニングを受けさせたいのです。」

普通の療育は肌に合わなかったすみれちゃんですが、5年生になってから大学生が9教科教えてくれる塾に通い、そこは姉貴や兄貴分ができた感じ。勉強にはなかなかついていけないけど、気に入っているそうです。

 

 

児童精神科医 岡田俊先生のアドバイス

ADHD(注意欠如・多動症)のある子は、同世代の子どもたちと比べて、思いつくとすぐに行動してしまったり、待つことが苦手であったり、感情のコントロールが苦手な子どもたちです。「子どもはみんなそうじゃないの?」と感じられたでしょう。そのとおりです。ただ、同年代の子どもと比べても、特にそういった傾向が顕著な場合にADHDの診断がつきます。学童期の子どもでは3−7%、特に男の子のほうが女の子より2倍多いとされています。およそ半数の子どもでは大人になるまでにこうした特徴が軽減しますが、特定のことに注意や集中が持続しにくいといった症状は継続しやすいとされています。

ご本人や親御さんによって、診断がつくというのは重大なことです。にもかかわらず、なぜ診断名があるのでしょう。それはADHDが養育者の方の育てにくさにつながったり、お子さん自身が生きづらさを感じることがあり、そのことで傷付きを抱えがちだからです。そうしたADHDに伴う負担を最小限にとどめるためには、それを軽減するための工夫があります。それを学ぶ一つの方法がペアレントトレーニングなのです。

ペアレントトレーニングでは、子どもの行動を好ましい行動(増やしたい行動)と好ましくない行動(減らしたい行動)、危険であったり許しがたい行動に分け、子どもの行動を変えていくためにはどうすれば良いかを学びます。
しかし、ADHDのお子さんの行動は気になることだらけ。思わず怒ってばかりで、養育者のほうがへこんでしまいます。なかには養育者の気を引くために余計なことをしたりするものですから、いやになってしまいます。
褒めることを見つけて褒める、気を引くためのちょっかいには反応しない、というのはペアレントトレーニングでは基本ですが、その基本が実は難しいのです。お子さんが自分のやっているよいことにも気づかないことがあります。お名前を呼んで振り向いてくれたとします。「あっ、お名前を呼んでくれたら振り向いてくれたね。ありがとう」というわけです。ひろみさんが「実況中継」というのはこれのことです。
こんなやりかたを聞くと、うちの子には幼すぎるやり方ではないかと感じるかも知れません。ペアレントレーニングは小学生年代で使用される治療で、実況中継はペアレントレーニングだけではなく、2−6歳を対象とした親子間相互交流療法(PCIT)でも使用されます。思ったよりは年齢の幅が広いとお感じになられたかも知れません。
ADHDの子どもは、褒められる機会が少なく、褒められることで思いのほか、行動が変化します。反面、親は褒めることになれていません。ついつい焦りがちですが、子どもの変化のためには親の鍛錬も必要になります。だからこそ、ペアレン「トレーニング」というわけです。すぐに効果が見えなくても、じっくりと取り組むことが大切です。治療者もそのプロセスを支えてくれます。

何が「普通」なのか、何が発達「障害」か、というのは難しい問題です。というのは、みんな違うのが当たり前で、養育者は誰でも子どもがとびきり特別な子であってほしいと思っています。しかし、診断がついた途端に、少しでも「普通」に近づけようと思ってしまいがちです。みんな違って当たり前です。歩み方も輝き方も違って当たり前で、そこに優劣などはありません。重要なことは診断の有無にかかわらず、その子らしい生き方ができることをどう大切にできるかということです。最初は一喜一憂してしまいますが、慌てない取り組みでこの子の育ちを支えていきましょう。

 

【前編】ではすみれちゃんの発達障害への気づき、それ以降に親子で模索したトレーニング等についてお伝えしました。
▶【後編】では、小学校入学後に待ち構えていた学校での様々なトラブルについてお伝えします。引き続き、岡田俊先生にも学童期の発達障害についてもアドバイスをいただきます。__▶▶▶▶▶

 

 

岡田俊(おかだ・たかし)先生 プロフィール

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授

1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。

著書「発達障害のある子と家族によりそう 安心サポートBOOK 小学生編」「親の疑問に答える 子どものこころの薬ガイド」「もしかして、うちの子、発達障害かも!?」など。

 

 

 

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