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発達障害の娘は壮絶ないじめに遭い、母親はママ友から爪弾きに。乗り越えられた理由とは

OTONA SALONE / 2024年3月10日 18時1分

保育園の時に強迫性障害が始まり、手を頻繁に洗うようになったすみれちゃん(仮名・現在12歳)。小学校に入学後、精神科で診てもらうと、発達障害も発症していることが分かりました。母親のひろみさん(仮名)は、なんとかして治したいと思い、病院のペアレンツ・トレーニングに参加したり、友人に教えてもらった食事療法を試してみました。しかし、なかなか思うようにいかない毎日。ひろみさんは、すみれちゃんがいじめられていたことを知りました。

 

▶この記事の【前編】を読む▶3歳のときに保育園の先生の指摘がきっかけで、強迫性障害とADHDであるという診断がついたすみれちゃん。投薬やペアレントトレーニングなど、親子で“生きやすさ”のための訓練をはじめることに。

壮絶ないじめ

発達障害と強迫性障害を併せ持つすみれちゃん(12歳)は、クラスになかなか馴染めずにいました。ある日、同級生の女の子たちに囲まれて、殴る蹴るという暴行を受けました。

「強気な女の子に目をつけられて、その子が『みんなで一発ずつ殴ろう。殴らない子は、私、嫌いになるからね』と言ったそうです。当時はそんなことがあったと知らなくて、1年後にすみれがスクールカウンセラーに相談した時に発覚しました。本人に聞いても『そんなことない』と言うし、先生にもないと言う。でも、考えてみたら絶対におかしいと思うことがありました。友達と待ち合わせをしても、すみれだけ違う待ち合わせ場所を言われたり、遊びに行くと言って出かけたのにすぐに帰ってきたりしました。半べそで帰ってきて弟や妹に当たることもあり、すると下の子たちも荒れて、我が家はカオスになりました。」

ひろみさんは、すみれちゃんがクラスに馴染めない原因を、「走るのは早いけど競技が苦手、ダンスも苦手、算数や国語が他の子よりできない、ぼーっとしていることが多い」などと考えています。すみれちゃんは時に大胆になり、図工の時間に、ひろみさんが飼っているトカゲの絵を描くこともありました。

「そうしたことも『ちょっと変わったやつ』という目で見られる一因なのではないかと心配しています。勉強もスポーツもできる、可愛い子は友達も多いでしょう。すみれのように個性的な子はどうしても浮いてしまって仲間外れにされます。5年生の時にも指を蹴られて骨折しました。でも私は、『すみれはすみれのままでいいと思う』と本人に言っています。ヘアドネーションのために髪を長くしている男の子も、すみれと同じように仲間はずれにされているらしくて、小学生の残酷さを思い知りました。こうしたことは小6になって、やっとなくなりました」

 

 

ママ友からもつまはじきに

ひろみさんは、ママ友からの偏見を感じることもあるといいます。

「長男のクラスの新一年生のママ会があった時のことです。『クラスの中に一人発達障害の子がいるらしいよ。授業とか絶対に遅れないで欲しいよね』という話になりました。その時に、『うちの長女は発達障害だよ』と言ったら、パッと引かれてしまいました。授業に遅れる子は飛ばして置いていかれるので、迷惑をかけるわけではありませんが、やっぱそうだよね、発達障害ってマイナスに思われると、ひしひしと感じました。それまでママ友たちと結構連絡を取っていましたが、それ以来、多分、私は仲良くなれるママリストには入っていません。」

すみれちゃんは普通の子どものように授業についていけないし、暴力性もあります。ひろみさんは、『あの子と遊んじゃダメよ』と言われるのではないかと危惧していて、想像すると悲しい気持ちになるそうです。

 

 

私はそんなに弱くない

すみれちゃんはなかなかクラスに馴染めなかったのですが、日本人2人くらいと中国人やイラン人、アメリカ人の友達ができました。

お母さんのひろみさん(41歳)は、すみれちゃんの変化について語ります。

「以前は、キラキラした女の子たちのグループに入れたらいいなと思っていたようです。しかし、すみれ自身が『私は違う』と気づいたのか、自分のことを理解して受け止めてくれる子を選んで付き合っているようです。みんな違っていいという言葉がありますが、全員がそれぞれ輝いていたらいい。同じ学舎で育ったのだから、将来同窓会をした時に、お互いを認め合うような関係でいてくれたらいいなと思います」

すみれちゃん自身も強くなりました。小5の時にすみれちゃんのことを友達と囲んで殴った子は転校したのですが、すみれちゃんは、「次に会ったら、絶対に負けない自信がある」と言っているそうです。

「中学は学校を選択できたのですが、いじめが多いと言われている学校をすみれが選びました。なぜなのか聞いたら、『近いから』と。『いじめが多くない?』と言ったのですが、『私はもうそんなに弱くない、大丈夫』と言っていました。何があっても乗り越えられるという自信が芽生えたのかもしれません。何かにつけて他の子よりできないことが多いので、舐められなければ余計な問題に巻き込まれなくて済むのに……」

 

 

かわいそうだとは思わない

ひろみさんは、すみれちゃんのことを「かわいそう」だとは思わないと言います。

「多分、私も重度の障害を持つお子さんを見たら、かわいそうだと思うでしょう。でも、私の親に『子どもを何人も育てて、一人目は発達障害でしょう。ひろみちゃん、どうしてこんな人生になったの?』と言われると腹立たしくて。」

「次男の剛(仮名)は、すみれと喧嘩をすると、『ああ、かわいそう。発達障害だからな』と、すみれに言うことがあります。私は、『すみれには、何か光る天才的なものがあるんだよ。剛は凡人だから努力しなきゃダメなんだよ』と返すのですが、すると、剛はすごく悔しそうな顔をして、『俺、今日は算数100点取った』とか負け惜しみを言います。発達障害児と健常児ですが、お互い競争して生きていて、同じように生活しています。そう考えると、みんな一緒じゃないの?と思います。」

 

 

心のよりどころ

だんだん母子ともに成長してきた親子。ひろみさんの心の拠り所は何だったのでしょうか。ひろみさんは、区の相談員に小さなことでも相談するようにしていたと言います。

「相談員には、電話で療育や施設のことを相談していました。例えば、『療育の施設でもらったクッキーを噛んで歯が折れたことがあるのですが、言うべきでしょうか』とか。友達に、『発達障害は神様からの贈り物。障害ではない』と教えてもらったことも心に響きました。その人に、『勉強ができない』と言った時も、『学習障害じゃない。頭悪いだけでしょ(笑)』と言われたこともあります。周りに相談できる人がたくさんいたことに助けられました。意識的に一人で抱え込まないようにしているのではなく、もわっとあふれ出してしまう。スピーカーなんだと思います。」

一方、夫は、すみれちゃんのことを楽観的に受け止めているという。

「私が、『やっぱ勉強できないわ、すみれは……』と落ち込んでいても、『全然心配することない。こんなかっこいい作品を作れるのはこの子だけ』と、すみれが工作で作った作品を褒めてくれます。でも、すみれには『感性を磨け、受けを狙うな』と言っていますし。何が正解か分からないので、あまり型にはまらないで、自由にやっています」

ひろみさんが相談した相談員は、「お母さんの中には、子どもと一緒に死のうと考えたり、急に連絡が取れなくなってしまったりする人がいる」と言っていたそうです。ひろみさんが相談の電話をした時は、「電話をくれて有難うございます。一緒に考えましょう」と声をかけてくれました。今でもトライ&エラーを繰り返すひろみさんとすみれちゃん。温かい人たちが親子を守ってくれています。

 

 

児童精神科医 岡田俊先生のアドバイス

子どもは、純粋無垢でけがれのない美しい心をもっているなどということは幻想です。ここまでの壮絶ないじめをしてしまう子どもたちの心のほうが荒んでいますし、本当はこの子たちこそケアを必要としているのかも知れません。しかし、周囲にこのようないじめに同調せざるを得なかった子どもたちもいるようです。集団心理の残酷さに身の毛がよだつ想いです。

このようななかすみれちゃんが傷ついていたことはいうまでもありません。ひろみさんにいえなかったのは、心配させたくないという思いがあったり、こんなことを知ったら、お母さんが許すわけはないから学校の先生へ話に行くだろう。そしたら、この子たちに恨まれてもっとひどい目に遭うかも知れない、という恐怖心があったかも知れません。でもすみれちゃんは、スクールカウンセラーに話をすることができました。すみれちゃんが強くなれたのは、一緒に考えてくれる人が身近に現れたからでしょう。

子どもがいじめにあっている、という事実に直面したとき、養育者も同じように傷つきます。また、もっと早く気づいてあげるべきだったのに気づいてあげられなかったことを責めてしまったり、いじめられていた頃、子どもの様子がおかしかったのに、家でのやつあたりなどのほうを叱ってしまっていた自分を悔やんでしまったりします。
子どもの傷つき体験は、親の傷つき体験でもあります。ですが、養育者の方の多くは、子どもの傷つきの心配はしても、ご自身の心に苦しみは後回しにしてしまいがちなのです。すみれちゃん同様に、ひろみさんにも悩みを打ち明ける相談員が現れました。ひろみさんがあせることなく、ちょっぴり自信を持って子育てできるようになった秘訣はそこにあるでしょう。

お子さんには、多くの子たちと比べると、少し要領が良くなかったりするところがあるかも知れません。だからこそ、いじめられて当然でしょうか。そんな世の中であっていいはずがありません。発達障害のある子の養育者だからといって、みんなに友達になってあげてね、という必要があるでしょうか。誰もが等しく尊重されて当たり前のはずです。そんなことがわからないママ友は、「ママ友リスト」から「とんでもないママリスト」に移しておきましょう。

外国籍のお子さんがいるのも、文化や価値観のいろいろな学びにつながったようですね。発達障害の子の特性も、物事の感じ方や考え方の(ちょっぴり強すぎな)個性の一つに過ぎません。そんな個性の強みやかけがえのなさなどにも、誰もが気づいてあげてほしいものです。ですが、仮に世の中に理解者が少なかったとしても、すみれちゃん自身やひろみさんはその大切さを大事にしていただきたいのです。誰にも等しく光が降りそそぐように、誰にも魅力有る未来がひらかれていることを信じています。

 

 

 

岡田俊(おかだ・たかし)先生プロフィール

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授

1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。

著書「発達障害のある子と家族によりそう 安心サポートBOOK 小学生編」「親の疑問に答える 子どものこころの薬ガイド」「もしかして、うちの子、発達障害かも!?」など。

 

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