【#婚外恋愛8】結局は妻を選ぶ。いびつな40代独女の結末
OTONA SALONE / 2018年3月18日 17時30分
どれだけバッシングされても、決してこの世から消え去らない不倫。
お互い籍を入れないままの恋愛。パートナーが複数存在する恋愛。
恋愛相談家・ひろたかおりが従来の「婚姻」の外にある恋愛と、その心理を傾聴する。
突然の終わり
— 「ダメだったのよね、もともと」
H子(36歳)はうつろな表情でつぶやくと、両手に包んだマグカップに視線を落とした。
細かい雨が降る平日の午後。いつものカフェで待ち合わせる約束をしたとき、H子は珍しく外のテーブル席に座りたいと言った。
喫煙をしないのにどうして、と思ったが、顔を合わせてみるとその理由がわかった。
「これで良かったんだよねぇ」
下を向いたまま、H子が続ける。普段はニットにスカートのような女らしい格好で過ごすことの多いH子が、今日はパーカーを着ていた。ジーンズは長いこと足を通していなかったことがわかるようにくたびれていて、それはまさに今のH子の心境を表しているようだった。
「まぁ、続いたのがおかしいよね」
そう答えると、H子はゆっくりと顔を上げた。薄いメイクしか施していない顔は、目の下を縁取るようにできたクマのせいで老け込んだ印象を与え、そっと視線を外した。
H子は、既婚者の彼と別れたばかりだった。確か2年は付き合っていたはずだが、その交際は順調で、独身であるH子はその関係を気楽に楽しんできた。
周りにバレず、仕事やプライベートに影響することもなく続けることができたのは、ひとえに彼の奥さんのおかげだったと思う。ふたりの仲は”奥さん公認”だったのだ。
だが、その彼から突然「もうやっていけない」と宣言され、H子は捨てられた。
”奥さん公認”のいびつな関係
H子の彼は、会社の取引先の担当者だった。出会ったときの彼は覇気がなく、H子は「やる気のない男だな」と思ったが、実はその頃彼のほうは妻の浮気が発覚したばかりで、家庭が混乱しているさなかだった。
共同で進めていたプロジェクトが終わり、打ち上げの席でH子は彼から妻との不和を聞いた。妻が浮気をしたのは自分が忙しくて家を空ける日が多かったせい。「寂しかった」と言われて何も返せなかった、という彼に、
「寂しかったならあなたに言えばいいじゃない。浮気に走るなんて筋が違う」
とH子は妻を切り捨てた。そこから彼の悩みを聞くようになり、「離婚したいが専業主婦の妻を捨てられない」という彼の甘さも、「もとに戻るのは難しいと思うけど」と言いながら応援した。
彼は優柔不断な男だった。妻に泣いてすがられれば慰謝料のことも持ち出せず、別れたら妻の親族から責められることを恐れて離婚も切り出せなかった。
「ほんと、ダメな男なんだから」
以前、H子は笑いながらそう言った。だが、気がつけばその彼とホテルに行く関係になっていたのだ。
最初は遊びのつもりだった。彼の苦しみを聞いているうちに自分も甘えたくなり、肉体関係を持ったのもこちらから誘ってのことだったが、「これじゃ俺も嫁と同じだ」とうなだれる彼の姿に同情しながらもH子の良心がとがめることはなかった。
H子の気持ちが変わったのは、彼が妻に「好きな人がいる」と打ち明けたことを聞いてからだった。
「馬鹿正直なのか何なのか、バラしちゃったら続けられないのにね」
そう言いながら、H子は嬉しかったのだ。彼にとっての自分が「好きな人」であることが。
肉体だけでなく心でも求められる存在なのだと知って、H子は彼との関係に固執した。何とか隠れて続けられないかと思っていたが、このまま終わると思われた状況は予想外の流れになる。
彼の妻は、彼とH子の関係を許したのだ。
それは、妻にとって罪ほろぼしの意図はなく、ただ夫が自分と同じ立場になったことを喜んだだけではないか。そう言ったが、H子は彼との関係が”奥さん公認”になったことのほうに関心を奪われた。
「これでコソコソしなくていい」
彼もH子の前では別れずに済んだことを喜んでいた。それから2年ほど、ふたりは不倫の後ろめたさから解放された時間を過ごしてきた。
H子はストレスなく彼との時間を楽しめたかもしれない。先に浮気をした妻が悪い、その妻が関係を許しているのだから、不倫であっても許されるはず。
「でも、不倫には違いないよ」
”奥さん公認”になるくらいなら、いっそ彼も離婚すればいいのに。何度かそう言ってみたが、彼はこれ以上の決断はできなかった。
そのいびつな関係の結末は
「不倫なのにね、続いたほうが確かにおかしいんだよね」
H子は何度めかのため息をついた。
軽い気持ちで始めた関係だったのに、2年の間にH子は彼を深く愛するようになってしまった。優柔不断で、妻にも自分にもいい顔をしてしまい、隠し事のできない臆病な男を。
離婚をけしかけても、どうせ彼にそんな勇気はない。それなら”奥さん公認”のもとで楽しむほうがマシ。そう思ってきたのだ。
だが、そんな彼がいま下す「決断」が、まさか自分と別れる道だとは、思いもしなかった。
「奥さんとよりを戻すんだってさ」
自分はもう十分反省した。だからあなたも戻ってきて欲しい。それが、妻の言葉だった。
「だって夫婦だもの」
そう言うと、一瞬H子の口が大きく歪んだ。
「その可能性は今までもあったでしょ」
浮気した妻を捨てることもできず、自分の不倫を続けてもいいという言葉に踊らされて現状維持を続けてきた男の選択など、こんなものだ。それが正直な感想だった。
「……」
もともと、ダメだったはず。
それを理解しているのは、何よりH子自身なのだ。
配偶者が認める不倫も、世の中には確かにあるだろう。
だが、そんないびつな関係が独身女性にとって幸せなのかは大きな疑問だ。
結局、自分との関係を選べない男性とのつながりはどこか脆い部分があり、ともすれば家庭に戻っていく可能性は十分にある。
そんな人間と過ごすことを選択したのもまた自分自身なのだと、覚悟を決めて現実を見る勇気がH子には必要だった。
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