【記憶を刻む街、ベルリンを歩く】 この時代この場所で生きていたらと自問する ベルリンの「テロのトポグラフィー」
OVO [オーヴォ] / 2024年3月27日 13時30分
ウクライナやガザの報道に毎日接する一方で、コロナ禍が明けて大勢の観光客が詰めかけている日本にいると、まるで世界の両極を見ているような不思議な気持ちになる。日々戦場の映像を見ていても、「戦争」という二文字はとても遠い。同じような感覚に襲われたのは、ベルリンの街中。ナチスの歴史を展示する情報センター「テロ(恐怖)のトポグラフィー」を訪れた時だ。ナチスの突撃隊や親衛隊(SS)の制服を着た人々、虐殺の被害者たちの写真が数多く展示されているが、まるで戦争映画を見ているようで現実感がない。あまりにも残酷で、受け止めるのを心が拒否しているようでもある。同じ地平でつながる場所の悲惨さが容易に想像できない今の状況を重ねながら、ベルリンの街を歩いた。
この「テロのトポグラフィー」があるのは、ナチスの恐怖政治の中心地、ゲシュタポ(秘密警察)やSSの本部があった跡地。目の前はベルリンの壁の跡地で、ナチスと冷戦という20世紀のドイツが詰め込まれた場所だ。
情報センターの中には、ナチスの歴史と、欧州各国でユダヤ人が集められ、絶滅収容所に送られたジェノサイドの歴史などが、写真パネルと説明とともに展示されている。1933年にヒトラーが首相となり、ナチ党が唯一の公認政党となって独裁国家となっていく過程の、ある意味静かで政治的な写真。次第に粛清されていく反対派やはがされる街中のポスター、代わりに貼られるナチのプロパガンダ、集会ではナチ式敬礼でヒトラーを歓迎する民衆、街中を闊歩(かっぽ)する親衛隊や突撃隊の写真へと進んでいく。短期間に雪崩をうつようにナチズムに吸い込まれていくドイツ社会が、パネルを見ていると客観的によく分かるが、もし自分がこの時代を生きていたら、この社会の中にいたら、この変化にどれくらい敏感になれるだろうかと考えさせる。
その先の展示には、思考がゆるやかに止まっていくのを自覚できる。ナチ式敬礼をする子どもたち、公衆の面前で反対派の首にプラカードをかけて屈辱を与える様子、不審火に燃えるシナゴーグ。そしてフランス、ベルギー、ポーランド、ハンガリー、ベラルーシ、ロシアなど、各国から収容所に“輸送”されたユダヤ人の写真。こうなってからではもう何も変えられないという無力感が、思考停止の理由かもしれない。あとは「なぜ」と問うのも無意味なほどの悲惨な歴史の証言が続く。戦後の解放とナチ党員の追及まで見学し終えてようやく現実感が戻ってくる。入場は無料だ。
(text by coco.g)
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