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悲しくも誇り高き遊女たち 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

OVO [オーヴォ] / 2024年4月13日 10時0分

©️2024 Nameko Shinsan

 東京藝術大学大学美術館(東京都台東区)で始まった「大吉原展」。女性の悲しい歴史にまつわる場所をキャッチーにPRしていたことでネットで物議を醸していました。内覧会に行って解説などを聞くと、現代では法に反する売買春が江戸の経済の基盤だったという事実と、文化的な側面の両方に着目していて、見応えがある展示でした。

 吉原独特の年中行事があり、桜の時期だけ数百本の木を植えたり灯籠で茶屋をライトアップしたり、芝居のセットのような虚構の街だったそうです。全てはお芝居、虚構であって、ひとときの夢幻と思うことで、女性たちは吉原での暮らしを生き抜いていったのかもしれません。

 独特の行事では、三つ布団(三枚重ねの敷布団)を新調する「敷初(しきぞ)め」という儀式も気になりました。布団ができると三カ月ほど茶屋に飾り、敷初めの日には蕎麦(そば)を振る舞う風習があったとか。ものを大切にする江戸時代の価値感が表れています。

 吉原は文化の発信地で、人気の太夫(たゆう)や花魁(おいらん)はファッションリーダーでもありました。絵師が描いた遊女の着物の柄も印象的でした。打ち掛けは竹林と虎が配されたものや、鯉(こい)の滝登りが大胆な構図で入っているもの、帯では唐獅子(からじし)柄など。それぞれ魔よけのパワーも感じられます。以前、別の展示で蜘蛛(くも)の巣柄の着物も見ました。吉原の遊女は〝おしゃれ上級者〟です。蜘蛛の巣柄には良縁祈願の意味があるようです。

 男性たちの性的欲求に応える場所というだけにとどまらず、遊女は格式を重んじ、教養を培っていました。遊女をモデルにした絵の中でも、水墨画を描いたり、生け花をたしなんだり、書物が積まれた部屋にたたずんでいたり、文化レベルの高さが感じられます。半端な客では相手が務まりません。過酷な仕事をしながらも、自分を高めていた吉原の遊女たちに尊敬の念が湧き上がります。

 手が届かない存在の吉原の遊女に、時代を超えて親近感が芽生えたのは、喜多川歌麿による「松葉屋内(まつばやうち)瀬川 市川」(相撲人形)という作品です。人気の瀬川と市川という2人の遊女が手にしているのは、なんと力士の人形。遊里の女性たちの間で相撲人形が人気だったとか。これは現代のフィギュアと同じです・・・。約200年前に、推し文化を先取りしていた遊女たち。逆に推される存在になって、遊女のアクリルスタンドも売られていました。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 15からの転載】


辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「無心セラピー」(双葉社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。

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