かつてはパラリンピック競技だった! 「ローンボウルズ」って?
パラサポWEB / 2024年1月17日 10時13分
パラリンピックの競技ではないものの、アジアパラ競技大会で過去3度実施され、イギリス連邦に属する国や地域などで人気のローンボウルズ。ボッチャやカーリング、ペタンクなどと似ているが、一体どんな競技なのか。ボッチャとの違いを中心に、歴史やルールを紹介する。
エジプトに起源、イギリスなどで発展ローンボウルズのルールを一言で説明するならこうだ。「自分の球を目標球に最も寄せた方が勝ち」。
自分の投げたものを目標に近づける類の遊びは、諸説あるが約7000年前、古代エジプトですでに行われていたようだ。このルールを起源とするスポーツは多い。パラリンピック競技では、ボッチャと車いすカーリングがあり、それらはローンボウルズと“きょうだい”といっていいだろう。
健常者が行うローンボウルズは13世紀以降、主にイギリスで発展を遂げた。一時は治安対策などの観点から国王や議会から禁止されたこともあったが、19世紀になると禁止が解除され、堂々とこのスポーツを楽しむことが許された。禁止令が解かれたことで、ルールが整備され、組織が立ち上がると、オーストラリアなど当時のイギリス植民地にも伝播し、世界に認識されるようになった。
白い球が目標球。ボッチャと異なり、ローンボウルズは停止したボウルの方向がまちまちだローンボウルズは緻密な戦略が必要となるメンタルのスポーツ。一方、運動強度は高くないので、高齢の競技者も多い。年齢、性別にかかわらず楽しめる特徴がある。
障がいのある人にも親しまれ、“パラリンピックの父”と呼ばれるルートウィヒ・グットマン博士は、リハビリテーションにローンボウルズを取り入れていた。この取り組みは、障がいのある人にローンボウルズを広めるきっかけになったはずだ。
イギリス連邦に属する国や地域が参加して4年ごとに開催される総合競技大会「コモンウェルスゲームズ」では、健常者のローンボウルズも、障がい者のローンボウルズも人気競技の一つである。また、パラリンピックでは1968年のテルアビブ大会から1988年のソウル大会まで実施されたなどの歴史があるが、参加国の不足により、パラリンピック競技からは除外された。
ボッチャとは似て非なる競技ローンボウルズの国際大会では、視覚障がい4クラス(B1~B4)と身体障がい4クラス(B5~B8)の8クラスに分かれているが、国や地域によっては、知的障がいなど独自にクラスを設けているところもある。
ここでルールが似ているボッチャとローンボウルズの主な違いを見てみよう。
①経緯
両競技とも古代エジプトに起源を持つスポーツといわれるが、ローンボウルズは健常者から障がい者スポーツへ発展、ボッチャは重度脳性まひ者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツという違いがある。
②コート(リンク)、球
両競技の大きな違いはコート(ローンボウルズはリンクと呼ぶ)の形と球の素材だろう。
競技を行う場所は、ボッチャは縦幅と横幅の比率が約2:1に対して、ローンボウルズは約6:1と長細く、イメージはカーリングのリンクに近い。すなわち、ボッチャのほうが左右に動く展開が見られ、シチュエーションもさまざまだ。
ボッチャは室内(体育館の木目の床やボッチャ用のタラフレックスのコート)で行われるが、ローンボウルズは野外が多く、競技名の通り必ず「芝(ローン)」の上で行い、室内でプレーする場合は芝のマットなどが必要となる。投球する位置は両競技とも決まっているが、ボッチャはボックス内、ローンボウルズは既定サイズのマットを持参してその上からボウルを投げる違いがある。
広いコートを分割して試合を行う点は、カーリング(アイスリンクのシート)に近い球は、ボッチャは縫い目のある牛、羊などの天然皮革製、人工皮革製、フェルト製で、硬さも選べる。ローンボウルズのボウルは、表面は滑らかで、素材の主流はプラスティックやゴムだが木製も使われ、メーカーごとにサイズや重さの違うさまざまな種類が展開されている。何より特徴的なのが、重心がずれた偏心球であること。そのため、勝手に曲がるボウルの特性を理解して転がさなければならない。
重心が偏っているローンボウルズの球。この偏心球をいかにコントロールできるかも勝敗を分けるポイントになる③種目
個人戦、ペア戦、チーム戦などがあるのは両競技共通だが、ローンボウルズには3対3もあり、チーム戦では「リード、セカンド、サード、スキップ」の役割がある。これはカーリングと同じで、スキップはボウルの配置などの配球の指示を出してゲームをコントロールする。
④投球方法
ボッチャは球を投げる、転がす、蹴るほか、障がいの程度によって競技アシスタントのサポートを受けながら、「ランプ」と呼ばれる勾配具を使ってボールを転がす。
一方、ローンボウルズは転がすことが基本。投球スタイルはボウリングに似ていて、体の重心を低くしながらアンダースローで転がす。動作が難しいときは、体を支える杖、ボウルを掴むためのボウリングアーム、ボウルを押し出すためのランチャーなどを使うこともできる。また、立位選手は底が平らな専用シューズを着用し、車いすの選手は競技仕様にカスタマイズしたものを使う。また、視覚障がいのあるボウラーには、ボウルを手渡したり、ボウラーを投球位置に連れて行ったりするヘルパー(コーチ、ダイレクターと呼ぶこともある)をつけることが認められている。
パラの選手は障がいに応じて用具を使用する場合があるが、基本的には健常者と同じルールで実施される⑤試合の進み方
ボッチャは、まず先攻が目標球を投げ、そのまま先攻側が続けて自球を決められた範囲内に投げる。第1エンドは常に先攻側が赤いボールを使用。それぞれ6球を投げて自球をより目標球に近づけた側に得点が入る。得点の数は、相手側のボールよりもどれだけ目標球に近い自球があるかによって決まる。
ローンボウルズも、先攻側が目標球を投球後、自球を投げ合う。勝敗は先取制か、決められたエンドを戦った後に、得点の高い方が勝ちとなる。
国内には常設ボウルズ場や大会も!国内にはローンボウルズ場を常設している施設もあり、体験会や体験教室などイベントを実施していることがある。やってみたいという人は各施設のホームページやSNSをチェックして情報をゲットしよう。また、「ローンボウルズ日本」のホームページでも行事カレンダーを確認できる。
<ローンボウルズ場を常設している主な施設> 国営昭和記念公園(東京都立川市) YC&AC(神奈川県横浜市) 神戸しあわせの村(兵庫県神戸市) 兵庫県立明石公園(兵庫県明石市) 長崎総合運動公園(長崎県長崎市)
<主な大会> (国内)ウィンターインドアローンボウルズ大会、障がい者ファミリー大会、のじぎく杯室内ローンボウルズ大会、全日本障害者ローンボウルズ選手権大会 など (国際)世界ローンボウルズ選手権大会(健常者と同じ大会でパラ部門を実施)、アジアパラ競技大会、IBBA世界選手権大会(視覚障がい) など
2023年10月の杭州アジアパラ競技大会には、日本代表として児島久雄と松本節子(写真)が出場したなお、オーストラリアにおいてローンボウルズを取りまとめている組織は、国際障がい者ボウルズ(IBD)などと連携を図っており、2032年に予定されているブリスベンパラリンピックで、ローンボウルズを競技に加えるよう動いているというニュースもある。ローンボウルズに今から注目しておこう。
text by TEAM A
photo by Atsushi Mihara
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