「先生、また陸上がやりたいです」走り幅跳び澤田優蘭が仲間のために跳んだ!
パラサポWEB / 2021年8月30日 11時46分
2008年、日本選手団最年少の17歳で北京パラリンピック出場を果たすも、その後、パラリンピックの舞台に立つことがなかった陸上女子の澤田優蘭(うらん)。30歳、13年ぶりの出場となった今回は走り幅跳び、100mの2種目のエントリーに加え、ユニバーサルリレーメンバーとしても選出されている。8月29日、最初の種目の走り幅跳び(T12・視覚)に出場した。
「チームウラン」で挑んだ東京大会跳躍3回目、澤田は、コーラーを務めた塩川竜平さんの声に導かれて力強く走って踏み切り、5mジャストをマーク。6位から5位に浮上し、4回目には5m15を跳んだが、その後は順位を上げられずに5位のまますべての跳躍を終えた。自己ベストの5m70を出せば金メダルという状況だっただけに悔やまれるが、それでも北京大会での記録4m93を上回る“パラリンピック自己ベスト”で足跡を残した。
13年ぶりにパラリンピックに戻ってきた澤田優蘭photo by kyodo「もっと納得のいく跳躍をしたかった」と悔しがった澤田だが、これまで支えてきてくれた人たちへの感謝は忘れなかった。とりわけ「チームウラン」のメンバーたちへの思いは強い。
「チームウラン」とは、東京2020パラリンピックで澤田を金メダリストにすべく2017年8月に結成されたプロジェクトチームで、メンバーには100mコーチも務める前出の塩川さん、跳躍コーチの宮崎利久さん、そして澤田を総合的に支える三浦真珠さんがいる。
中学時代、視野の中心がほぼ見えない網膜色素変性症という病が悪化した澤田は、東京都立文京盲学校に入学した2007年にパラ陸上を始めた。澤田に「本格的に陸上をやってみない?」と誘ったのが、盲学校で教諭をしている三浦さんだった。
華やかなデビューから一転、味わった挫折中学では視力の悪化とともに、「人とぶつかる恐怖があって」陸上部をやめてしまった澤田。しかし三浦さんの言葉をきっかけに、彼女の運命は大きく動き出した。練習中に支援者がつく盲学校では、見えるときと同じような感覚で安心して走れた。そのおかげもあって、1年後には17歳という若さで北京パラリンピックへの出場を果たした。
「今思うと気持ちが追いついていなかったんですけどね。海外の選手と戦えた手応えもなかったです。そのぶん、次は、きちんとメダリストという立場で立ちたいと感じました」
ただ、この後は伸び悩んだ。ロンドン大会の出場を逃した澤田は、視覚障がい者としてどう技術を積めばいいか答えを見つけられず、立教大学卒業とともに競技の第一線から距離を置くことを決めた。大きな挫折だった。
恩師は戻ってくるのを知っていた競技から離れた場所で社会人生活を送っていた澤田だったが、再び心が奮い立つ日がやってきた。「もう一度、陸上をやろう」と決めたのは、2014年。飲料メーカーで働くかたわら、かつての仲間たちがアジアパラ大会で記録を伸ばしているのを知り、刺激を受けた。
「私もまたやりたいです」
この思いを真っ先に伝えたのが、恩師の三浦さんだった。当時を振り返ると、澤田は今でも涙ぐむ。
「『待っていましたよ、そういう日が来ると思っていました』とお返事いただいたんです。私は競技をやめるとも、待っていてくださいとも言えなかったのに。今度はこの人のために結果を出したいと思いました」
それからの約2年間は三浦さんとの二人三脚。仕事が終わったあと、夜10時まで開いている競技場へ行き、三浦さんの支援を受けながら、基礎的なトレーニングを地道に続けた。
photo by X-1体の土台づくりがようやく整った2017年には、宮崎さんと塩川さんに出会った。競技をいったんやめる前、澤田は健常者のチームの中で、視覚情報から技術を獲得できないジレンマを抱えていた。コーチの2人が見えない澤田に合わせた指導をしたことで、パラ競技の基本が初めて理解できたという。
コーラーの塩川竜平さん(写真左)は100mでガイドランナーも務めるphoto by kyodo 一人では強くなれないその成果が顕著に現れたのが走り幅跳びだった。2017年に5m03だった自己ベストは、2018年にはアジア記録まであと4センチに迫る5m70に伸ばした。そして迎えた東京パラリンピックという大舞台。 大会前、澤田はこんなことを語っていた。
「支えてもらったことで、自分が不可能だと思っていたことが可能になっていることを実感しています。一緒に戦ってくれる人がいることが、私を強くしてくれました」
そんな思いがあるからこそ、声を大にしてチームウランへの感謝を伝えたかった。
自己ベストには届かなかったが楽しく跳べたphoto by kyodo「今シーズンはケガでプラン通りに練習を進められず、『パラを迎えられるのかな?』というときもあった。 でも今日は、ベストコンディションで臨むことができ、メダル争いも楽しめた。メダルでの恩返しはできなかったけど、無事に6本楽しめたことを報告したいです」
13年ぶりの大舞台に立った澤田は、仲間とともに“挑戦”できた日々をかみしめた。トラック競技にも期待したい。
text by TEAM A
key visual by Kyodo
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