声優・津田健次郎さん「相手と距離を縮めるのに、社交辞令はいらない」
PHPオンライン衆知 / 2024年3月25日 7時0分
声優や俳優として活躍する津田健次郎さん。かつては周囲に馴染めず、違和感を抱いていたそうですが、芝居を始めたことで「周囲とつながる感覚」を持てるようになったと語ります。津田さんが人づきあいで大切にしていること、そして孤独との向き合い方とは? お話を聞きました。(取材・文:髙松夕佳)
※本稿は、月刊誌『PHP』2024年3月号より、一部編集・抜粋したものです。
自分の足で立つ
インドネシアのジャカルタで幼少期を過ごした僕は、小学2年生の終わりに帰国してからも、いつもどこか周囲としっくりこないという違和感を抱いていました。幼いころから映画が好きで、表現の道へ進むことにしたのも、自分の内側にたまっていた鬱屈したエネルギーを出せる場を欲していたからではないかと思います。
芝居を始めてから、より自己と他者を俯瞰的に見つめることが習慣になりました。若いころは「自分」と「世界」に線引きしがちですが、芝居は僕にとって、両者の間をつなぐパイプのようなものでした。役の言葉を借りることで、世界とつながれるような感覚が確かにあった。
以前、激しい暴力描写を含む小説を書く覆面作家の方が、「自分はペンネームさえあれば、どんなに不謹慎な描写でも書ける」とおっしゃっていたのを読んで、わかる気がしました。
僕にとっては、自分「対」世界ではなく、両者の間に「役」をはさみ、自分の言葉ではないセリフがあることが重要です。演じるときは役になりきるというより、自分の抱えているものとキャラクターの内面を融合させていく感覚があるのも、そのせいかもしれません。
人づきあいに必要以上の気遣いは意味がない
声優やナレーション、俳優など、つい多方面の仕事に手を出してしまうので、多忙になりがちです。でもそんなときこそ、仕事の合間に空き時間ができれば、喫茶店に入ってひとりの時間を持つようにしています。何かを書いたり読んだりもしますが、何もせずぼうっとすることも多いです。
演技をしたりインタビューに応えたりと、仕事は常に目的と成果が明確です。一方、喫茶店でコーヒーを飲みながらぼんやり過ごすときは、すぐ役に立つこととは違う、より曖昧でどうでもよさそうだけど長い目で見ると重要なことを、頭の中で巡らせます。
人づきあいについては、ある時期からマイペースがきわまり、お互いの琴線に触れないような会話は激減しました。必要以上の気遣いは意味がなく、過度な社交辞令は相手との距離を縮めることにはならないと気づいたからです。
たとえば現場で、共演者に「最近寒いですね」と声をかけたとします。そこまではいいのですが、「冬ってどう過ごされていますか」と表面的な社交辞令で話を続けたとして、相手との距離が縮まるわけではありません。お互い疲れますし、距離は逆に遠ざかってしまう。
期せずしてよい会話のフックが生まれることがあっても、それはやはり他力本願、運まかせです。それよりは、「なぜ芝居をやっているんですか」などと、その方の核心に触れそうなところにグッと踏みこんだほうが、おもしろい話ができるし、意味のある会話が生まれていく気がするのです。
孤独から逃げずに受け入れる
孤独とは、回避するものではなく、対峙するものだと肝に銘じています。
芝居の仕事って、言い訳を探しやすいんです。うまくいかなかったとき、脚本や演出のせいにもできれば、相手役との相性が悪かったからと思うこともできる。でもあるとき、そういう言い訳をやめて、すべては自分のせいだと考えてみたら、芝居の本質が見えてきました。
役者はいろいろな意味で他人と関わり合う職業なので、ともすれば人に依存してしまったり、馴れ合ったりしがちです。でも、たったひとりで板(舞台)の上に立つというのが芝居の大前提です。
だとしたら、まずは「誰にもどこにも依らずに自立する」ということがものすごく重要なのではないか。自立した者同士が舞台で言葉を交わし、演出を通して絡んでいくことからしか芝居は始まらないのだ、と思い至りました。
すべては自分が考え、決定し、行動するところから始まるのであって、孤独から逃げている限り、いい芝居は決してできないのです。
これは、生きること全体にも通じると思います。人はひとりで生まれて、ひとりで死んでいく存在です。たとえ心中したとしても、死のタイミングはきっと違うから、その孤独性から誰も逃れることはできない。
だとしたら、孤独をいったん受け入れてみればいい。その上で、自立した孤独な他者と手を取り合ってつながることは充分できる。それこそが、真に人と人とがつながることなのではないかと思うのです。
孤独から逃げ続けてどこかに依存し、言い訳ばかりが積み重なっていくと、最終的に死ぬ間際に、本当の孤独が襲ってくるかもしれない。それほどきついことはありませんよね。
お互いの孤独を認め合いながらつながる──そうしてできたつながりは、かけがえのないものになる気がします。
しんどくてくじけそうなときには、自分はいつか確実に死ぬ、今この瞬間は二度と来ないのだと意識するようにしています。
生と死は同義語。僕らは生まれた瞬間から、死に向かって全力疾走している。そして、人生はそんなに長くない。それなら今できることを一生懸命やってみよう。
「こけたら立ちなはれ」という松下幸之助さんの教えがあるように、失敗したらまたやればいいのです。与えられた環境で今できることは山ほどある。そう思うと、ポジティブなエネルギーがわいてきます。
【津田健次郎(つだ・けんじろう)】
声優、俳優。1971年、大阪府生まれ。95年、テレビアニメ「H2」で声優デビュー。声優業、俳優業を中心に、映像監督や作品プロデュースなど幅広く活動。ドラマ「グレイトギフト」、「映画 マイホームヒーロー」など出演多数。
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