【骨になるまで・日本の火葬秘史】上皇ご夫妻は400年ぶりでも「火葬」を望まれた 新時代の「送り方・送られ方」を考える
NEWSポストセブン / 2024年6月18日 11時15分
都を追われた後醍醐天皇は1339年に亡くなる。陵は遺言に基づき、奈良の如意輪寺に京都の方角である北を向いて造られた。
後醍醐以降、天皇は皇居にいて武家に官位官職を与え、天変地異を鎮めるために祈り、即位の大嘗祭、葬儀の大喪の儀、そして折々の神事をこなす存在となる。
使い勝手はいいが権力を持ってもらっては困る江戸幕府は、「天皇は御芸能の事、第一御学問他」を第一条とする「禁中並公家諸法度」(1615年)で活動を縛った。芸と学問に励んで余計なことは考えるな、というわけである。
天皇の葬儀は、室町時代の後光巌天皇(1352〜1371年)以降、京都東山36峰のひとつ、月輪山(つきのわやま)のふもとにある泉涌寺(せんにゅうじ)で執り行われた。真言宗泉涌寺派の総本山で天皇家の「御寺(みてら)」である。
隣接する月輪陵、後月輪陵には四条天皇から仁孝天皇までの14の陵がある。
仏教の浸透とともに長らく火葬が一般的となっていた天皇家の「弔い」だが、江戸時代初期の後陽成天皇が最後になる。次の後光明天皇(1633〜1654年)が仏教を「無学の用」と称するほど嫌って遠ざけていたことで、火葬も否定され、ふたたび土葬の慣習が復活したのだ。
同じく泉涌寺に土葬で葬られた幕末の光格、仁孝、孝明の天皇3代は、日本が近代国家に向かい明治維新で躍進を図るための布石を打つ役割を果たすことになる。
光格天皇は、紫宸殿と清涼殿を古儀に則り再建、神嘉殿を造営し新嘗祭を復活させた。そうした動きと古代の天皇政治を理想とする本居宣長、平田篤胤(あつたね)ら国学者の思惑が連動し反幕運動が活発化する。
光格天皇の子の仁孝天皇も、天皇復権の思いを同じくするが早世したことで、遺志は孝明天皇に引き継がれる。ペリーの浦賀来航(1853年)などに強い危機感を持った孝明天皇は外国陣を排斥する攘夷(じょうい)を強く祈願した。それが維新の志士の思いと重なって尊皇攘夷運動が活発化する。しかし孝明天皇は1867(慶応2)年に死去。鎖国の遅れを取り戻し欧米列強と渡り合う近代国家の構築は、翌年に即位した明治天皇が担うことになった。
しかし即位時に16才だった明治天皇に国家体制を確立する器量は期待できず、明治政府を樹立したのは薩摩の大久保利通、長州の木戸孝允、公家の岩倉具視らだった。
政府は欧米列強への対抗策として殖産興業、富国強兵を成し遂げるために、天皇の権威を存分に使った。古代から継承されてきた皇室祭祀や神宮祭祀、神社祭祀の復興をもって神道国教化へ向けて動き、日本は千年以上にわたる万世一系(一つの系統が続く)、皇祖皇宗(天照大神以下の天皇が支配)の国であるとして神性が高められ、明治天皇は主権を持った存在であるとともに現人神となった。
明治天皇は31の儀式を経て土葬された
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