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《「ほぼ裸」ポスターや立候補しない女性格闘家も》都知事選の選挙ポスター問題 「おそろしい時代」「恥ずかしい」と嘆く大人に「あたおか」と笑う小学生たち

NEWSポストセブン / 2024年6月23日 16時15分

 冒頭の彼女に訪ねる。「じゃあ都知事選は行きませんか」と。しかし彼女は「それでも、選挙には行くものです」ときっぱり言った。「それでも、選挙には行くものです」。そうだ、選挙は理屈じゃなく「行くもの」なのだ。「あの時代」を知る人にとって、選挙に行かないことは何をされても構わないと同義語だ。昭和の時代に70%を超えていたこの国の国政選挙の投票率は令和の現在50%がやっと、都知事選も前回選挙で投票率55%である。

お願いだから選挙には行ってください

〈国民が政治を嘲笑している限りは、その嘲笑に値する政治しか行なわれないし、国民はその程度に応じた政府しかもちえない〉

 松下幸之助の言葉だが、国民を「都民」、政府を「都政」に替えてもいいだろう。「俺は違う」「一緒にするな」は個人の勝手だが、筆者自身はそう思わない。この東京都知事選のポスター掲示板を都民として恥ずかしく思うし、やり場のない怒りもこみ上げてくる、と同時にどうにもできない自分の力のなさに情けなくも思う。

 それでも、声は上げるべきだ。

 だってそうだろう、誰を選ぶにしろ、都知事選は私たち都民の生活がかかっているはずだ、日本全体と言ってもいい。地方税収は一部国税化されて地方法人税などは国が全国に割り当てているため、東京の稼ぎがなければ多くの地方は成り立たない。その一極集中の是非はともかく決して東京だけの問題ではない、その東京の知事を選ぶ選挙がこの有り様だ。候補者がみなそうではないことは承知だが、やはり寄付名目で選挙ポスター枠を販売したり、撤去したとはいえほぼ裸の候補者でもない女性の写真を掲載したり、やはりそれはおかしい。おかしいものはおかしい、シンプルな話のはずだ。自由と平等の目的外利用はいずれ、私たちから自由と平等を奪う。

 ネット上では「都知事選掲示板ジャックに反対します」とする有志による批判運動と署名も展開されている。すでに2万8千人(6月21日時点)が賛同した。

 個人で面白がる分には構わない、ネットでネタとして楽しむのも自由だ。それでもこうした流れにどこかで「それはおかしい」と声を上げなければ、失われた三十年は四十年どころか五十年、ずっと続くことになる。

「恐ろしい時代」――80代の彼女の記憶、その感覚は正しいと思う。筆者も一都民として「恐ろしい」と思う。この東京都知事選のポスター掲示板、ちっとも面白くなんかなく、恐ろしい。筆者はこのコラムを起こすにあたり彼女から頼まれた。「どうか『こんなことはおかしい』と伝わるように」と。また「お願いだから選挙には行ってください」とも。

 そう、都民は選挙に絶対行こう、都民の半分しか行かない選挙、それもまたおかしい。そしてもう一度、嘲笑でなく政治というものをみんなで考え直そう。「その程度」しか持ち得なかった私たちだが、「おかしい」と誤りを正すための声を上げることはできるはずだし、私たちそれぞれの一票は無駄なんかじゃない。もう左右の問題でなく、すでに上下の問題である。

 東京都知事選のポスター掲示板の有り様──これは都民の、いや私たち日本人の危機である。その端緒である。大げさでなく私たちが本当の意味で苦しむことになるであろう、恐ろしい時代に向かう、その象徴になりかねない「恐ろしい」有り様である。 

日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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