1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

【失敗の法則】「予算内、期限内、とてつもない便益」は実現可能か 高速増殖原型炉もんじゅから紐解く「巨大プロジェクト」が成功しない理由

NEWSポストセブン / 2024年9月2日 16時15分

 もんじゅの廃炉コストは、30年間で約34億ドルと推定されている。もしこの見積もりがほかの見積もりよりも正確だとすれば、プロジェクトは60年の歳月と150億ドルの資金を費やしたあげく、生み出した電力はほぼゼロ、ということになる。

 もんじゅは極端な例だが、例外ではない。いや、例外にはほど遠い。原子力発電は私のデータベースで最もパフォーマンスの悪いプロジェクトタイプの1つで、コスト超過率は実質ベースで平均120%、工期の超過率は平均65%である。おまけにコストと工期の両方にファットテールのリスクがある──つまりコストと工期の見積もりを20~30%どころか、200~300%、ときには500%以上超過する可能性がある。もんじゅが華々しく証明したように、生じ得る損失に上限はほぼない。

 問題は原子力だけではない。ほかの多くのプロジェクトタイプも、これよりいくぶんましというだけだ。もんじゅのような巨大プロジェクトが一般に設計、実行される方法にこそ、問題がある。この問題を理解すれば、矛盾するようだが、大きいものを小さくつくることができる。小さいどころか、レゴのブロックのようにささやかなものを使って、驚くほど大きなことができる。

1つの大きいもの

 莫大な規模のプロジェクトを設計し、実行する方法に、1つの大きなもの、あるいは巨大なものをつくる方式がある。

 もんじゅは1つの巨大なものだ。ほとんどの原子力発電所がそうだ。巨大な水力発電ダムや、カリフォルニアなどの高速鉄道、巨大ITプロジェクト、高層ビルもだ。

 こういうつくり方をすると、1つのものだけをつくることになる。そしてそれは定義上、唯一無二のもの、仕立て用語で言えばオーダーメイドになる。標準の部品や既製品は使わず、前例を単純にくり返すこともしない。

 すると必然的に時間がかかり、複雑になる。たとえば原子力発電所は無数のカスタム化されたパーツやシステムでできていて、発電所全体が機能するためには、その1つひとつが単体としても、全体としても機能しなくてはならない。

 複雑なカスタム性一つとっても、この方式がいかに困難かがわかる。だがそれをさらに難しくしている要因が、ほかにもある。

 第一に、原子力発電所をすばやく建設して、しばらく運転し、何が機能するのかしないのかを確かめてから、その教訓を活かして設計を変更する、などということはできない。そんなことをしたらコストもリスクも高くなりすぎる。つまり、「実験」──優れたプロジェクトを特徴づける「エクスペリリ(実験+経験)」の半分──ができない。となれば、一発で成功させる以外に選択肢はない。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください