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【失敗の法則】「予算内、期限内、とてつもない便益」は実現可能か 高速増殖原型炉もんじゅから紐解く「巨大プロジェクト」が成功しない理由

NEWSポストセブン / 2024年9月2日 16時15分

(エクスペリリはラテン語の動詞で2つの英単語、エクスペリメント(実験する)とエクスペリエンス(経験する)の語源で、「試みる」「試す」「証明する」などの意味がある)

 第二に、エクスペリリの残り半分の、「経験」についても問題がある。原子力発電所を建設する人は、経験をあまり積んでいない。なぜなら過去に建設された原発は少ないし、1基を建設するのにとてつもなく時間がかかるからだ。だが実験ができず、経験が乏しいにもかかわらず、一発で成功させなくてはいけない。これは不可能ではないにせよ、きわめて困難である。

 それに、たとえ多少の経験があったとしても、この特定の原発を建設したことはないはずだ。わずかな例外を除けば、それぞれの原発は、実際の立地に合わせて、時代とともに変わる技術を用いて設計される。もんじゅと同様、唯一無二のカスタム品だ。

 カスタム化されたものは、仕立てのスーツと同様、つくるのにコストと時間がかかる。たとえばスーツづくりの経験がほとんどない仕立屋が、オーダーメイドのスーツを一発でうまく仕立てる必要があるとしたらどうだろう? よい結果に終わるはずがない。

 ただのスーツでもこれなのだから、数十億ドル規模の複雑きわまりない原発の難しさは計り知れない。

巨大だと「完成」するまでお金を生まない

 実験と経験が不十分だと、プロジェクトを進めるうちに、予想以上に困難で高くつくことがわかってくる。思わぬ問題にぶつかり、うまくいくはずの方法が失敗する。

 おまけに、試行錯誤することも、計画を修正してやり直すことも許されない。これはオペレーションの専門家が「ネガティブラーニング(負の学習)」と呼ぶ現象である。学習すればするほど問題が見つかり、それに対処することがますます困難になり、コストもかかる。

 第三が、経済的負担だ。原発は100%完成するまでは電力を生産できない。9割方完成していても、まったく使い物にならない。つまりこの原発につぎ込まれた莫大な資金は、除幕式を終えるまでの間は、何の便益も生まないのだ。

 そして、カスタム性と複雑性、実験と経験の不足、ネガティブラーニング、一発ですべてを成功させる必要性を考えれば、それは非常に長い年月になる。こうしたすべてが、原発建設の惨憺たる実績のデータに表れている。

 そして最後に、ブラックスワンを忘れてはいけない。どんなプロジェクトも予測不可能で衝撃的なできごとの影響にさらされやすく、その可能性は時間の経過とともに高まっていく。したがって、完成に膨大な時間がかかる「1つの大きいもの」は、不測の事態に翻弄されるリスクが必然的に高い。

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