【逆説の日本史】第二次満蒙独立運動の「主役」に躍り出た武闘派の内モンゴル人
NEWSポストセブン / 2024年9月7日 7時15分
あたり前のことだが、「まったく実現不可能」と誰もが考えることなら、奸智に長けた袁世凱が実行に移すはずがないではないか。袁世凱は、ひょっとしたら「日本と戦っている英雄である自分がナポレオン・ボナパルトのように皇帝となってなにが悪い」と思っていたかもしれない。多くの人が忘れているが、「共和国を成立させたリーダーが自ら皇帝に即位し国家を帝国に変える」という前例は存在したのである。
ただ、袁世凱のやり方はあまりにも古色蒼然としていた。人は常に新しいものを求める。実質的な皇帝制であってもなにか新しい形を取っていれば、その野望は実現したかもしれない。こう言えば、現在の中華人民共和国の習近平主席がめざしているものが見えてくるだろう。「赤い皇帝制」である。
それに対して香港などはともかく、中国本土からは大きな反撥の声が起こっていない。それは必ずしも中国共産党の言論および思想統制が成功しているからだけでは無い。そもそも中国には、万人平等の思想がいまも昔も根付いていないからだ。この点、「戦前」の日本人のほうがこうした中国人の民族的特質を理解していた。中国を統治するには、皇帝制のほうが多くの民衆の支持を得られる、ということだ。ならば、日本の手強いライバルである「成り上がり」の袁世凱を潰すためには、「本物」の皇帝を担ぎ出して対抗させればよいことになる。
ここに至って、辛亥革命のときには「プランB」として封印された満蒙独立運動が再び脚光を浴びることになった。なぜなら、「プランA」つまり孫文の主導する民主的国家の中華民国と付き合っていけばいいという方針が袁世凱によって潰されてしまったからだ。ただし、その「第二次満蒙独立運動」のキーマンは「第一次」と同じ大陸浪人川島浪速、清朝皇族粛親王善耆、内モンゴルのハラチン右旗長のグンサンノルブだけでは無かった。もう一人、バボージャブという内モンゴルの「軍人」が加わった。いや、こちらのほうがむしろ「主役」だった。
もちろん、それには理由がある。簡単に言えば、辛亥革命のときには無かった内モンゴルと日本の絆が生まれていたからだ。清朝が滅ぼされた辛亥革命の時点では、内モンゴルは清国に完全に取り込まれていた。グンサンノルブの妻が清皇室出身の愛新覚羅善坤であったのがその象徴で、こうした例は他にもある。だから、この時点での「満蒙独立」とは「清」を「内モンゴル」が助けて中華民国に対抗するというものであった。
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