【逆説の日本史】第二次満蒙独立運動の「主役」に躍り出た武闘派の内モンゴル人
NEWSポストセブン / 2024年9月7日 7時15分
そして「孫文の中華民国」が一度は成立したので、日本は「満蒙独立」という「プランB」は捨てた。しかし、内モンゴルとの交流を絶つのも惜しいと考え援助は続けた。そこで結果的に、辛亥革命以前には存在しなかった内モンゴルとの絆が生まれた。
そうした積み重ねのあとに、袁世凱が「孫文の中華民国」を破壊し「中華帝国」をめざすという暴挙に出たのである。ならば日本の後押しする「満蒙独立運動」においては、一方では清朝の復興を援助するとしても、内モンゴルまで清朝に渡すことはない。むしろ内モンゴルとの絆を生かし本当に中国から独立させればいい。そうすれば、日本は中国大陸に新たな拠点を得ることができる。
そういう観点から言えば、日本のパートナーとしてよりふさわしいのは、清朝をあくまで尊重するグンサンノルブでは無く、もっと民族意識つまり中国からの独立志向が強い武闘派の内モンゴル人がよい、ということになる。
それがバボージャブだった。
精鋭部隊の長から厄介者に
〈巴布扎布 バボージャブ 1875-1916
モンゴルの独立運動家。
内モンゴルの出身。辛亥(しんがい)革命後、全モンゴル独立をめざすボグド=ハーン政府の運動に参加。1915年キャフタ協定で外モンゴルにのみ自治がみとめられると、約3000の騎兵をひきいて独自行動をとる。川島浪速(なにわ)らの満蒙独立運動と連携するかたちで内外モンゴルの統一をめざすが、1916年10月8日中国軍との戦闘により戦死。42歳。バブチャプ、パプチャップとも。〉
(『日本人名大辞典』講談社刊)
バボージャブは、そもそも日露戦争のときは馬賊の首領としてロシア軍の後方攪乱を担当するなど、その姿勢はきわめて「親日的」であった。なぜそうなったかと言えば、子供のころ彼が育った内モンゴルの「旗」に、清朝の政策によって漢人(=農民)が大量に移住してきたからである。内モンゴル人は羊のエサ場である草原を奪われ、困窮した。だから彼らは馬賊となって反清国のゲリラ活動に従事し、当然日清戦争で清国と戦った日本ともよしみを通じるようになった。
ちなみに馬賊とは民間の騎兵集団で、もともとは集落の自衛のために生まれた組織だった。中国大陸は広く、清朝の末期は警察や軍隊もまともに機能せず、治安は乱れに乱れていたからである。この点、平安時代末期の武士が生まれたころの日本と似ているが、騎兵中心になったのは彼らが遊牧民で馬の扱いには慣れているからだ。また、そういう集団は完全な自由競争で出自は関係無く、優秀な人間がリーダーとなる。
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