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川本三郎氏、幻の掌編集についてインタビュー「バブルの頃から現在に至るまで、東京と波長がどんどん合わなくなってきた」

NEWSポストセブン / 2024年10月27日 7時15分

 いちばん好きな映画、イングマル・ベルイマンの『野いちご』を意識して書いた文章もあるそうだ。

「老人が朝起きて学位授与式に行く一日の映画なんですけど、これまでの人生を思い起こして、授与式を終えて眠りにつくときふっと少年時代を思い出す。あの手法をいくつか真似ています。なかなかベルイマンのようにはいきませんが」

 たしかに、収められた文章はどれも、映像がつよく喚起される。発表時には「詩小説」という言葉が使われていた。固有名詞がほとんど省かれているのは、できるだけ抽象的にしたかったからだそう。

 人間関係を描いた小説はあまり好みではない、と川本さん。

「太宰治は苦手、夏目漱石もどちらかというと苦手です。荷風が好きなのも、彼が『見る人』に徹しているから。『人間対人間』よりも『人間対風景』を書いたもののほうが好きですね」

 つげ義春から受けた影響も大きく、観光地でもなんでもない土地を1人で旅するようになったのも、つげから学んだことだという。

「私は東京の人間ですけど、バブルの頃から現在に至るまで、東京と波長がどんどん合わなくなってきています。今の渋谷なんかを歩くのも嫌で、東京でも神保町は古書店や個人の店があってまだいいんですけど、ここ数年はローカル線に乗って地方の小さな町ばかり歩いています。

 あとは台湾ですね。台湾の人にそう言うと、『台湾は東京よりもっとモダンです』と怒られちゃうんですけど」

【プロフィール】
川本三郎(かわもと・さぶろう)/1944年東京生まれ。新聞社勤務を経て評論家に。1991年『大正幻影』でサントリー学芸賞を、1997年『荷風と東京『断腸亭日乗』私註』で読売文学賞を、2003年『林芙美子の昭和』で毎日出版文化賞と桑原武夫学芸賞を、2012年『白秋望景』で伊藤整文学賞を受賞。近著に『ひとり遊びぞ我はまされる』や『映画の木洩れ日』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』、ブラッドベリー『緑の影、白い鯨』、ロンドン『ザ・ロード アメリカ放浪記』など。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2024年11月7日号

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