《東京五輪汚職で226日勾留》KADOKAWA元会長・角川歴彦氏が体験した“人質司法”の真相 小説『人質の法廷』著者・里見蘭氏と対談
NEWSポストセブン / 2024年11月3日 7時15分
里見:大川原化工機事件もプレサンス事件も、同じ構造です。捜査機関は証拠となる自白を得るために、逮捕して身柄を拘束しました。裁判所や裁判官がお墨付きを与える令状を出した。裁判所が検察の暴走を抑える歯止めの役割を果たせていない。そして検察の暴走に拍車をかけるのが、メディアです。
角川:里見さんの『人質の法廷』では、検察と裁判所が冤罪を生み出す仕組みだけでなく、メディアがどう加担するのかも描いている。さらには検察、裁判所、メディアに対し、刑事弁護士がどう闘うのか、複雑な構図を的確に記しています。
里見:ありがとうございます。過去の冤罪事件でも、メディアは警察や検察の発表をもとに報じるだけで独自の検証をほとんどしませんでしたから。
角川:戦中の大本営発表と一緒ですよ。そこは、僕自身も被疑者になって痛感しました。逮捕された直後、「ワンマン経営者」「KADOKAWAはガバナンスが利いていない」と散々批判された。
興味深かったのは、僕の逮捕と時を同じくしてスタートした袴田さんの再審の報じられ方。メディアは僕を批判した同じ紙面で「我々が袴田さんを犯人扱いした結果、冤罪が生まれた」と反省している。皮肉なものです。
生きて拘置所を出た者の使命
里見:6月に会長は、人質司法を憲法違反だとして、損害賠償を求めて国を提訴しました。
角川:前例のない訴訟に踏み切ったきっかけは、友人たちの言葉だったんですよ。先程の佐藤さんには「生きて拘置所を出られたあなたには社会的な使命がある」と言われました。「人質司法は憲法違反です」と語った著名な高野隆弁護士や、「憲法と国連に訴えなければダメです」と話す弘中惇一郎弁護士にも勇気づけられました。人質司法によって、国内の最高法規であり、ほかのすべての法令に優先されるはずの憲法で定められている基本的人権が侵害されている。だから世界人権宣言を採択した国連に訴えるしかない、と。
里見:厚労省の村木さん、プレサンスの山岸さん、そして会長……。みな個人の問題ではなく、人質司法を、もっと言えば日本の刑事司法の改革を目指して活動している。会長の言葉を借りれば、その点にもシンクロニシティを感じました。
角川:仮に代用監獄と呼ばれる留置場や、僕が過ごした拘置所に1年間で10万人が勾留されるとします。すると10年で100万人。人質司法は一般の人にとっても他人事ではないんですよ。
里見:会長の体験を知れば、社会人、経済人としての権利をすべて奪う人質司法の恐ろしさが多くの人に伝わるはずです。
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