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【佐藤優氏×片山杜秀氏・知の巨人対談「天皇家の昭和100年」】「天皇なき右翼」が力を持つようになった現在地 「革新のほうこそ天皇を必要としている」

NEWSポストセブン / 2025年1月13日 6時59分

片山:ご指摘されたような日本を解体する理屈を、一生懸命ナショナリズムと呼んでいるわけですね。

 昭和100年は、明治以来続いた天皇制の分岐点に差し掛かっている印象を受けます。

佐藤:天皇制を維持したいのであれば、私は女系天皇、女性天皇といった議論は危ないと思います。なぜなら、天皇制というそもそも非合理性を孕んでいるシステムに、部分的に合理性を持ち込もうとしているからです。キリスト教も、非合理なシステムをそのまま受け入れているから存続しているのです。

片山:生前退位というタブーが解けた今、第2のタブーである皇位継承者の条件変更も現実味を帯びています。その一方で私は、日本ではいくら理屈を考えても、共和国的な政体でまとまることはできないと思っているのですが……。

「菊のタブー」とニヒリズム

佐藤:いわゆる「菊のタブー」の変化も見ておくと、人間宣言直後の「プラカード事件」が“最後の不敬事件”となった後、昭和36年に起きた「風流夢譚事件」は言論界を揺るがしました。

片山:作家の深沢七郎が『中央公論』掲載の小説のなかで──夢という設定で──天皇・皇后が処刑される場面を描いたところ、右派の反発を呼び、中央公論社社長宅でお手伝いさんが刺殺された事件です。犯人は少年でしたが、当時はまだ戦後16年で、タブーも根強く生きていました。

佐藤:その8年後(昭和44年)には、元陸軍兵の奥崎謙三が天皇をパチンコ玉で狙う事件が起きました。暴行罪で懲役刑に服しましたが、出所後は『ヤマザキ、天皇を撃て!』と題した書籍を出版した。こちらはとくに右翼勢力からのお咎めはなかったようです。

片山:右翼の抗議に対する井上ひさしの反撃は有名ですね。「君は歴代の天皇全部言えるのか、俺は言える」と言い返してやる、すると「恐れ入りました」とおさまってしまう(笑)。

佐藤:当時の右翼は小説も読んだし、歴史に対する畏敬の念を持っていました。国家の存亡を宗教的な領域でとらえる必死さからくる、ある種の怖さとダンディズムがありました。今の右翼や右派的な面々からそういうものが感じられないのは、世界的な潮流であるニヒリズム的な価値観が浸透しているせいでしょうか。

片山:右翼は歴史と伝統をうまく使ってこそですが、それを忘れて現在で熱狂するだけになるとファシズムに転化する。そこにニヒリズムがはりつくのですね。

佐藤:昭和の日本は様々な側面で欧米に学んできましたが、ニヒリズムの時代である昭和100年以降の、エマニュエル・トッドの言う『西洋の敗北』にまで付き合うべきではないと思います。

(前編から読む)

【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。元外交官、作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主著に『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)、近著に『賢人たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)など。

片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年、宮城県生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。主著に『未完のファシズム』、近著に『大楽必易 わたくしの伊福部昭伝』(ともに新潮社)など。

取材・構成/前川仁之(文筆家)

※週刊ポスト2025年1月17・24日号

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