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本谷有希子氏、約10年ぶりの長編小説『セルフィの死』インタビュー「昔は勘違いしても糾されなかっただけで、全て比較できる今は勘違いさえできない」

NEWSポストセブン / 2025年1月24日 7時15分

〈店員に横柄にすると世界が少しだけモリッとする〉〈しょうもないマウントを取るために、私は今日も私の生を無駄にする〉〈どうして私はあらゆることが全て自分を貶めるための策略、という妄想から逃れることができないのだろう〉

 またある時は自然食系の会合で知り合った先輩女性〈マッスーさん〉がSNSにあげていた文鳥の写真を、抗鬱剤の服用中に無意識に流用。指定された謝罪場所に向かう道中、正しい謝り方をSNSで検索した私が、結局はそれも見透かされて土下座する羽目になるなど、全てがよくできた喜劇にも生き地獄にも思えてくる。

「実は私も発売日の1週間前にXを始めたんです。ヤバい、もう本が出ちゃうって、大慌てで(笑)。だから彼女達の気持ちは今はまだわからないかもしれない。でも、理解したいとは思っている。特にこのフォロワーが欲しいというような、あらゆる物事がタグ付けされる中でどこにも分類してもらえず、軽視されがちな個人の苦しみを、私はひたすら描写を積み重ねることで理解し、できるだけ偽善的じゃない形で肯定したいんです。

 傍目には下らない悩みに見えても本人達は切実で、自分なんか要らないとすら思ってしまう。そうやって自分や人間について考えてしまうのが人間らしさだとしたら、その人間らしさを手放して、数字だけが真理だって割り切れるソラみたいな子が、たぶん現代では社会的強者なんです」

今SNSによって何が起きているか

 その後も誰かに期待しては失望することを繰り返し、〈私の玉ねぎはとても繊細な玉ねぎです〉〈社会に無理矢理迎合するような真似をすると皮が剥け、鍋の中で溶け始めます〉と、ソラにすら言えずにいる私は思う。〈誰かと関係を持ち、その摩擦で玉ねぎを傷つける〉〈私は一体何がしたいのだろう〉〈玉ねぎを捨てることでしか拓けない世界というものが、あるのだろうか?〉

 そんな中、完全機械化が売りの回転寿司店を訪れた私は、子供客の迷惑行為を動画で告発するソラの姿が〈憤っている人のコピー〉にしか見えず、思わずスマホをレーンに流してしまう。

 だがそんなデトックス状態も長くは続かず、ソラが投稿した唐あげや餃子といった〈変わり種〉寿司を私が爆食する動画が国内外でバズり、念願のフォロワー1万超えを果たしたことで、再び自撮り生活に戻るのだ。

「人間は自分を変えてまで環境に適合する節操のない生き物で、SNSによって私達の感覚や考え方に今、何が起きているかを記録しておきたかったんです。

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