1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「東京五輪」決定を1番喜ぶのはだれか

プレジデントオンライン / 2013年9月3日 8時45分

五輪後は経済成長率が落ちやすい

■外国人のお目当てはハコモノより日本食

9月7日、ブエノスアイレスでのIOC総会で2020年の五輪開催都市が決まる予定だそうです。名乗りを挙げた我らが東京も、猪瀬直樹さんの幾多の面白発言にもめげずかなり善戦しているようで、猪瀬さん以外の東京の底力に感動する毎日であります。

私は東京生まれ、東京育ちの40歳です。留学や海外出張はあれど、人生の大半を東京で過ごしてきました。やっぱり、東京は馴染みがあるし、私には住みやすい。これからも東京で暮らし、東京にたくさん税金を納め、そして東京で死ぬと思います。ああ、私の話はどうでもいいですね、すみません。

首都東京には海外の主要都市に比べてさまざまな良さがあります。安全な道路、便利な公共交通網、ほとんどない停電においしい水道水……。しかし、こうしたインフラは必ず老朽化していきます。果たして首都圏は私の老後まで、いまのような安全で華やかで素晴らしい町でいてくれるのだろうか。こんど生まれる私の第3子も含めた子供たちもまた、私と共にこの町で暮らしていくことを選択してくれるのだろうか、と悩むわけですね。

そういう長い目線で今回の「五輪招致とは何ぞや」と考えると、違った測面が見えてきます。オリンピックを東京で開催したとして、果たしてどのようなメリットがあるのか。私自身はいまいちピンときていません。戦後の経済成長を経験した日本人は良く分かっているはずです。無理に引き上げた経済効果という「祭」のあとには、ゴミしか残らないということを。

ただ、都知事の猪瀬さんは、やるんでしょうね。都民に選ばれてトップに立っている以上、彼の声が都民の総意であるというのが民主主義です。やる以上は、是非もありません。五輪反対派の意見にも耳を傾け、その主張の中で本当に障害になりそうな要素をどう取り除き、すぐに潰える経済効果だけでなく、長く東京で暮らしていく人たちのメリットに繋げていくのかを考えなければなりません。

もちろん、五輪招致には短期的な経済効果はあります。期待ができるのは主に2点です。ひとつはテレビを中心とした家電の買い換え需要。もうひとつは「観戦ツアー」による外国人観光客の訪日です。

これは直接にオリンピック期間中の需要を増やすというだけでなく、東京に来た人がついでに箱根や軽井沢など東京近郊のリゾート地、あるいは奈良や京都、北海道といった観光地を訪れることも考えられます。政府は2030年までに訪日外国人数を年間3000万人とする目標を掲げています。昨年の訪日外国人数は837万人で目標にはかなり遠いわけですが、五輪招致は目標達成への足がかりになるかもしれません。外国人観光客には、日本の真の姿に触れて、何度でも再訪してもらえるような仕組みが必要になります。

それは、日本という文化やソフトウェアをどのように磨くのかという話でもあります。あまり知られていませんが、日本に来る外国人観光客の動機の1位は、実は「日本食」を堪能すること(※1)。世界で大ブームを巻き起こしている寿司の本場であり、牛丼にラーメンやカレーといった大衆食から、刺身、懐石、しゃぶしゃぶといった日本ならではの健康食は、非常に高く評価されています。今後、検討が進むといわれる「カジノ法案」も含めて、オリンピックを契機に、安全で快適で楽しい観光地・日本というイメージを作っていくにはどうすれば良いのか、ということでもあります。

■官民一体の神風祈願「祭の後」を見据えよ

そういう「凄い日本」を実現するためのインフラは老朽化が進んでいます。推進派の人々は、このような節目に大規模な改修工事を進めたいという気持ちはあるのでしょう。実際に、64年の東京オリンピックでは一般道路の拡幅と立体交差道路の推進が行われ、この結果、諸外国の大都市に比べて東京は渋滞が割と少ないという評価を一応は得ることに到りました。

運用面でも、地下鉄、空港、モノレールなどの交通機関の24時間運行化も含めた試案が出ているようですし、輸送キャパシティの維持・増大は喫緊の課題とも言われています。同じく、老朽化が進む首都高の改修に、環状道路のさらなる拡幅、一時的に増大するであろう電力需要に対応するために東京近隣でLNG発電を行う施設の増設も検討されるなど、見渡す限りの公共投資の山ができることになります。

これらの事業は何があろうが生活都市東京を考える上では必要なものですが、オリンピックの開催が決まればそれらの事業は前倒しになり、また実需もそれなりに見込まれることから、世界的にも東京に投資しようという機運は大きくなるかもしれません。オリンピック後も、私たちが住み続ける東京がより良い環境を維持するための事業に繋げ、また日本に来たいと外国人観光客に思ってもらえるような都市設計にしなければ、すべてが「過剰な無駄銭」になってしまいます。

今回、猪瀬さんが提唱する新・東京五輪のコンセプトである「コンパクト五輪」は、選手村のできる晴海を中心に半径10キロ程度で競技と式典を完結させる、という話だそうです(※2)。人口減の状況の中でまた副都心エリアを作ってしまうのかと思うと不安ですが、湾岸エリアの開発ラッシュは加速することでありましょう。

一方で、高齢都市東京が直面する問題は、オリンピック向けの公共投資を拡大してもカバーできない分野を多数残します。まあ、老人介護や老朽団地のゴーストタウン化などは、いくらオリンピックが盛り上がろうが無関係に沈没するのは仕方がありませんからな。華やかなイベントを基点に都市開発を促進させようとしても、そういう手のひらから零れ落ちる水のような部分に東京都民の生活の本質があることを忘れてはならなかろうと考えるわけです。

そこには、治安を担う警視庁をはじめ、JR・地下鉄や空港などの輸送機関、道路整備事業、清掃事業、電気、水道、ガスといったインフラに医療施設など、都民の生活を充足させることが第一です。猪瀬さんは「首都高には10万件近い補修必要箇所がある」とか7年後のオリンピック招致でインフラ投資の必要性を説いていましたが、そもそも副知事に就任されたのは6年半前の2007年じゃないですか。それまでいったい何をしていたんだという話になりませんかね。

正直、64年の東京五輪は世界に「成長する東京」をアピールしましたが、20年の東京五輪は「衰退する東京」の墓標として振り返られないことを祈るのみです。それは、「五輪後」に東京の抱える本当の難題をどう着地させるのかでありましょう。大きいイベントをやって解決する問題じゃないでしょ、独居老人の孤独死や、増大する地域の社会保障、それを支えるインフラの老朽化って。晴海で五輪をやって、町田や調布や福生や青梅や三鷹など都下の生活環境改善に追加予算は回ってこないですよね。盛大に宴会をやってお客様を歓待した後にゴミを始末するのは東京都民の手と財布だということを忘れずに、未来を見据えた「オリンピックとは何か」をいまからでも真剣に考えて欲しいところであります。

その意味では、前回の2016年招致より少ない予算ながら、国内世論の反発も少なく、官民一体となった招致活動が実現できているようにも思います。オリンピックで景気高揚といった下世話な神風祈願だけではなく、トヨタのような老舗企業から楽天に代表される新興企業まで、かなり幅広く招致に参画しているのも印象的です。盟友とも言われるテレビ局関係者のほか、五輪招致や湾岸再開発に理解を示す有力者の努力の賜物と言えましょう。その点では、前知事の石原慎太郎さんから上手く事業を引き継いだ猪瀬直樹さんの手腕とも言えるのかもしれません。

開催地発表まで泣いても笑っても後1週間足らず。都民としては「特別税増税は特等席チケット代の強制徴収だ」というぐらいの気持ちで生暖かく見守りたいと思います。とりあえず、東京に当選したら猪瀬さんのはしゃぎっぷりを堪能したいです。

※1:観光庁「訪日外国人の消費動向」(2012)によると、今回実施した活動は「日本食を食べること」(95.0%)、「ショッピング」(76.8%)の順で、次回実施したいことは「日本食を食べること」(49.5%)、「温泉入浴」(47.3%)の順だった。
※2:東京都の招致委員会がIOCに提出した「立候補ファイル」によると、メーンスタジアムは1300億円をかけて建て替えを進めている新宿区の国立競技場。選手村は中央区晴海地区に新設。東京圏の33競技会場のうち28会場(85%)を半径8km圏内に配置する計画となっている。

(投資家・作家 山本 一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください