1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「プレ金」導入企業ほどブラック化する

プレジデントオンライン / 2017年4月13日 9時15分

「月末金曜は、少し早めに仕事を終えて、ちょっと豊かな週末を楽しみませんか?」――。こんなキャッチコピーを掲げて、経済産業省が進めているプレミアムフライデー(「プレ金」)。経団連もその趣旨に賛同し、榊原定征会長の名前で会員企業に対し、「プレミアムフライデー実施期間における柔軟な働き方の推進へのご協力のお願い」という文書を送っている。
しかし、3時終業に向けた動きは一向に盛り上がってはいない。マクロミルが「プレ金」1回目の2月24日について実態調査(会社員・公務員1万5000人)を行っている。その結果は「今のところ導入される予定はない・わからない」が91.6%を占めた。導入されていると回答した人は6.5%だが、そのうち早帰りの対象の人は3.5%。そのうち実際に2月24日に早帰りできた人は半数強の55.5%にすぎなかった。結局、「プレ金」の狙いが、働き方改革よりも消費喚起にあることが、バレてしまっているのだろう。
2月24日、年度末の3月31日の2回、「プレ金」が実施されたことを受け、今回、医療機器メーカー、食品メーカー、住宅設備メーカー3社の人事部長による匿名座談会を開催した。3社はいずれも「プレ金」を導入していない。その理由とは――。

■ビジネス上の損失が大きいから導入しない

――「プレ金」を導入しましたか。導入しないとしたら、その理由とは何でしょう。

【医療】導入していません。一応会社として働き方改革の一環として導入を検討しましたが、結論はやらないことに。商売の相手は病院が中心ですが、病院は基本的に土日が休みになるので金曜日は検査機器類の納入業務でとくに忙しい。こっちとしては取引先の病院などが「プレ金」なので早帰りされたら逆に困ることになるし、ビジネス上の損失が大きいということで導入しませんでした。

【食品】同じくうちも導入していません。やろうと思えば事務方の社員は早帰りできるでしょうが、販売・飲食店舗も持っているのでそこの社員は逆に忙しくなる。「早帰りするなんてふざけている」という批判が飛び出すのは必至。それこそ現場の営業マンは、飲食店から「3時に帰るなら店舗の手伝いに来い」といわれかねません。

2月の「プレ金」は給料日だったので居酒屋さんにとってはかき入れ時ですが、聞いた話では「3時に仕事が終わったら、そのまま飲み屋に行くよりも帰ってしまうんじゃないか」と怒っていたそうです。3時は個人の小さな居酒屋さんはまだ仕込みなどの準備時間。大手のチェーン店と違ってそんなに早く開店することはできません。

――3時に開店するにしても、その分アルバイトなど人の手当をしないといけないし、それこそ客が来なかったら赤字ですね。

【住宅】うちも結局導入しませんでした。社長はやりたかったらしいのですが、営業本部から「月末の締めの時期に早帰りすればお客さんに迷惑をかけるし、営業的に損失だ」という批判が出たのが理由です。「プレ金」を導入して短縮した就業時間のしわ寄せは、他の日に必ず残業としてはね返ってきます。

■「プレ金」は有給休暇消化の手段となっている!

――働き方改革の観点で、導入の意義はありますか。

【医療】やる意義はあると思いますが、うちの管理職がそこまでマネジメントできる能力はないだろう。残業時間削減の取り組みはこれまでやってきて月の平均残業時間を20時間に収めているので労基署に踏み込まれても怖くはない。ただ、今も定時退社日を設けて、早く帰るように働きかけているが、なかなか定着するまでには至っていない。まずそういうことを定着させてから次のステップとして「プレ金」を考えるのはありだと思います。

【食品】その通り。むしろノー残業デーをしっかりと定着させるという地道なやり方が一番いいと思う。経団連は働き方改革の一環として推奨していますが、実際にやるとなるとそんなに簡単な話ではなく、ハードルが高い。結局、「プレ金」を導入できるのは大企業と公務員だけで、多くの企業では導入できません。無理に導入すれば、それこそブラック化するはずです。

【住宅】働き方の意識改革をするのであれば、定時退勤日を設けるのがまだいいやり方だ。社員に対して「時間は有限です。8時間の中で効率的に仕事をしてください」というのが大事なメッセージだと思っている。働き方を社員に考えてもらう機会としてはそれで十分です。最初、「プレ金」の話が出てきたときはどこの業界の差し金かと疑ったくらいですよ(笑)。

――「プレ金」導入をメデイアに取り上げてもらったり、就活中の学生にアピールしたりする企業も出ています。

【食品】あまり意味はないと思う。しかし政府主導ということで、「プレ金」の導入を自社のホームページで謳っているような企業もある。あたかも企業のブランド価値を高める証のように扱われてしまうと、いっそう誤解を招くのではないでしょうか。

【住宅】しかも導入企業のほとんどが有給休暇を使うようにと指示しているが、有休を使う、使わないは個人の自由意思。強制的に取得させることはできないはずです。もちろんうちも有休取得を奨励するために計画休暇を実施しているが、それも年間たったの2日間。それ以上は強制できないし、「プレ金」のために上司が有休消化を指示するというのはやり過ぎだと思います。早帰りを実施している会社の中にも、仕事が終わらないのにどうするんだ、はた迷惑だと感じている社員も多いのではないでしょうか。

■「プレ金」商戦にかり出させる社員は早帰りとは無縁

3社の人事部長は「プレ金」導入について総じて否定的だ。一方、経産省に「プレ金」のロゴマークの使用を申請した企業は6000社を超える。その多くは百貨店、飲食、旅行・金融などサービス・小売業だ。サービス供給側にとっては商売のチャンスかもしれないが、当然「プレ金」商戦に駆り出される社員にとっては3時の早帰りとは無縁だ。
日本企業の過剰なサービスが長時間労働を生んでいる原因と言われるが、労働人口の多くを占めるサービス業従事者が「プレ金」によって労働時間が延びることになればそれこそ「働き方改革」にとって本末転倒だろう。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください