お金持ちはなぜバーゲンで買い物しないか
プレジデントオンライン / 2017年11月3日 11時15分
■1%の超富裕層と99%の一般人
現在の世界は、1%の超富裕層と99%の一般人との差が拡大する「格差社会」です。この超富裕層は、大邸宅に住んで執事を雇い、運転手付きのリムジンで外出する、といった昔ながらのイメージのお金持ちではありません。
現代の富裕層の多くは成功者であり、(1)既存産業でアイデア起業、(2)プロフェッショナル職業で成功、(3)金融や投資で成功、(4)IT関連やネットなど新分野で起業、という4つのパターンにわけることができます。
どのパターンの成功者も、働くことを楽しみ、合間に人生もしっかり楽しむ「ワーキングリッチ」です。彼らにインタビューをすると異口同音に「自分がやりたい仕事に熱中して、気づいたらこうなっていた」と言います。チャンスをつかんで事業や投資で成功し、一瞬で財産を形成している。その後も大きな失敗をせず、財産を維持するか、増やし続けているのです。
■「投資」はしても「消費」はしない
超富裕層の多くは「ポジティブ思考」の持ち主で、常に「どうすればもっとうまくいくか」を考えています。辛いことがあっても明るい材料を見出せるから、前進することもできる。例えば、クラウドソーシングの最大手、クラウドワークス代表取締役社長兼CEOの吉田浩一郎氏は何度も失敗を経験し、同社を立ち上げる際には、車を売り、妻の実家に身を寄せ、貯金をはたいて退路を断ったそうです。
そして彼らには、仕事と遊び、オンとオフの区別はありません。お金持ちになったのも、「儲けよう」としたからではなく、みんなが喜ぶことを考え、提供した結果です。富裕層の行き着くところが慈善事業であるのは、ごく自然なことなのかもしれません。
生活習慣の面では、お金持ちほど「朝型人間」が多い。ワタミ創業者の渡邉美樹氏に取材を申し込むと、「会社へ行く前に取材を受けたいから、朝7時に」と言われたものです。厚生労働省が2010年に実施した調査によると、富裕層ほど朝食は取り、野菜をよく食べ、よく運動して体形を保つ努力をしています。お酒は飲むものの、たばこは吸わない傾向があるようです。律儀な人が多いことも確か。約束は必ず守り、メールにはすぐに返事を出す。
ダイエー創業者の中内功氏やソニーを創業した盛田昭夫氏は、大変な働き者で、しかも律儀でした。いまの日本があるのは、彼らが徹底的に技術を磨いていい製品を作ったからこそ。でも、彼らはほとんど贅沢などしていません。
徹底した合理主義者で、無駄なお金や自分の目的以外に時間を使うことを嫌います。だから、「投資」はしても「消費」はしない。高級外車や高級ブランド品を好みますが、それは資産性があるからであり、ビジネスの現場で、商談相手や交渉相手に対して有利になれるからです。要するに、お金をどう使えば、目的とするリターンが得られるかを常に考えている。「価値がある」と考えれば、高いほうから買う。バーゲンで買い物などしません。不動産も値崩れしない一番高いものから買っていく。ちなみに、税金対策でヨットを買い、週末に有明のヨットハーバーで乗り回し、シャンパンを飲んで喜んでいるのは、資産が10億より下のクラス。超富裕層ではありません。
■ネットの情報は信用しない
豪邸を構えるのも、超富裕層同士のつきあいのためです。ビクトリアズ・シークレットのCEO、レス・ウェクスナー氏が、コロラドのアスペンに建てたチロルスタイルのコテージは、車が18台収容できるガレージと、同数のゲストルームがある大豪邸だそうです。社交場ですから、呼んでも人が来ない場所には建てません。日本人にもオアフ島の最高級住宅地に豪邸を構える富豪が3人いましたが、メディアに明かさない。メディアに出て見せたがるのは、富裕層でも下のクラスです。
ITのリテラシーが高いことも富裕層の共通項です。ただし、ネットに溢れる情報は、信用していないので見ない。本当に有用な情報は、富裕層の間だけでしかやり取りされないからです。
好奇心が旺盛な人も多く、リムジンも呼べるのに敢えて自動車配車アプリ「Uber」を使ったり、5つ星ホテルに泊まらず、民泊サービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」を利用したりする。人間に関心がある点も富裕層に共通しています。とはいえ、少々変わった人も多い。ある人は「入り口を背にすると入ってくる人が見えないからイヤだ」と言い、店では常に一番奥の席にしか座りません。オラクル会長のラリー・エリソン氏は、戦闘機好きで、本物の戦闘機を集めて空中戦をやることで知られています。
■子や孫が“不肖”だったら
そんな超富裕層にとって最大の関心事のひとつが子や孫の教育です。子や孫が“不肖”だったら、安心して事業を承継させられません。現代は「格差社会」と言われますが、その最たるものがIQでしょう。競争に勝ち抜いてお金持ちになった人のIQが高いのは当然です。そのIQは遺伝的要素も強い。にもかかわらず、不幸にして自分の子や孫のIQが高くなかった場合は、世間に知られないよう、早い段階で海外に留学させるのです。ハーバード大学やコロンビア大学などのアイビー・リーグや、セブン・シスターズと呼ばれる名門女子大学には、同窓生の師弟や高額所得者を優遇する「レガシー枠」が定員の10~20%程度存在します。
また、欧米のスーパーリッチは、早くから子どもを寄宿学校に入れ、金銭面や集団生活での苦労を経験させることで社会性を身につけさせる。そのため、「ル・ロゼ」のような、世界の王侯貴族や富裕層の師弟が集まるスイスの名門寄宿学校に子や孫を入れる人も多い。近年は日本の超富裕層の間でも一般化しているようです。その理由として、日本では英語、IT、金融経済の教育が遅れていることがあります。グローバル資本主義の時代は、富裕層と庶民の二極化だけでなく、グローバルに活躍する人とローカルな世界だけで生きる人との二極化も進むと言われます。前者には、英語、IT、金融の知識が不可欠ですが、日本の学校教育では学べない。だから、子や孫を海外に行かせるのです。
富裕層の間に「人生は旅」という考え方が根付いているように思います。庶民は「旅」といった場合、東京からニューヨークへ行く場所の移動、つまり「横軸の旅」だけを考えます。ところが、成功者である富裕層は、貧しく生まれたら上に上がって豊かになる“階層”という「縦軸の旅」の存在も本能的に知っている。だから、一番上に到達してもさらに上を目指し、宇宙船を開発して個人宇宙旅行に挑戦したりもする。要するに、教育が「縦軸の旅」であることを理解しているから、教育を重視するのです。
■稼いだお金はドルに替える
最後に、超富裕層のお金とのつきあい方ですが、普段は現金を持たない人も多い。資産運用では、株や債券、不動産などに分散投資することが基本です。その際、資産のほとんどを米ドルで保有する。米ドルが世界通貨だからです。カンボジアでもメキシコでも米ドルは使える。株式も債券も原油も金もドル建てでの取引が最も多い。だから、世界中の富裕層は、自国通貨で稼いだお金をドルに両替して保有します。
この考えは日本の富裕層にも浸透していて、例えばファースト・ハワイアン・バンクに預金している日本人のうち最も多い人は30億円を預けています。経済評論家などが「外国人投資家が安全資産の円を買っている」と言いますが、あれは嘘です。単に、日本株が相対的に割安だから、外貨を日本円に替えて日本株を買っているだけのこと。日本株が売られたら円も売られます。資産を保全するなら、庶民も富裕層を見習って、米ドルで保有し、必要なぶんを日本円に替えることを考えたほうがよさそうです。
(ジャーナリスト 山田 順 構成=大山弘子 写真=PIXTA)
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