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なぜこんな選挙が始まったのかを思い出せ

プレジデントオンライン / 2017年10月17日 15時15分

読売新聞(10月12日付、手前)と朝日新聞(同じく10月12日付、奥)の1面トップ。

衆院選の選挙情勢は、自民党が単独過半数を大きく上回る勢いだ。それに比べて「希望の党」は失速している。週刊誌などのメディアは、手のひらを返したように同党の小池百合子代表(東京都知事)をたたきはじめた。だが、今回の選挙の原点は、安倍晋三首相が突然解散に打って出たところから始まった。その原点が忘れられているのではないか――。

■「小池劇場」には次の展開なく……

衆院選の選挙情勢は、自民党が単独過半数を大きく上回る勢いだ。それに比べて「希望の党」は失速している。原因は代表の小池百合子氏の不出馬にある、と沙鴎一歩は考える。

小池氏は「リセット」という言葉を巧みに使って、自ら党の代表に就任した。それ以来、メディアは“小池魔力”に浮かれ、報道を過熱させてきた。しかし、小池劇場には次の展開がなく、魔力にも陰りがみえている。いまメディアにとって大切なのは、原点に戻ることである。

そもそも今回の衆院選は、安倍晋三首相が突然解散に打って出たところから始まった。安倍首相の狙いは、「森友・加計問題」の追及をかわして与党の勢力を挽回することだとみられている。

「森友学園」や「加計学園」をめぐる疑惑は、国会での論争も不十分に終わっている。メディアはそこを忘れてはならない。

■どこも「自民優勢」「希望劣勢」

「自民 単独過半数の勢い」「希望 伸び悩み」「衆院選序盤情勢 本社調査」。10月12日付の読売新聞(東京本社発行の最終版)1面トップの記事の見出しである。

そのリードは「読売新聞社は衆院選について10、11の両日、全国の有権者を対象に世論調査を行い、序盤の情勢を探った。自民党は小選挙区選、比例選とも優勢に戦いを進め、単独で過半数(233)を大きく上回る勢いだ。希望の党は、公示前の57議席をわずかに超える程度で伸び悩んでいる」などとまとめている。

同日付の朝日新聞(東京本社発行の最終版)も1面トップで衆院選の情勢調査の結果を掲載している。見出しは「自民堅調 希望伸びず」「立憲に勢い」と読売と同様の分析だ。毎日新聞や産経新聞、日経新聞も自社の世論調査の結果を掲載し、その分析はどこも「自民優勢」「希望劣勢」である。

■「『緑のたぬき』の化けの皮を剥ぐ」

週刊誌は一斉に小池たたきを始めている。その記事の見出しはどれも痛烈だ。

たとえば10月19日号の週刊新潮。「傾国の『小池百合子』」という見出しに続けて「ユリノミクスは『ユリコのミス』」「倒幕が『応仁の乱』に変質」「小池政治の正体見たり」と続く。

「傾国」という表現は何だろうか。「デジタル大辞泉」によれば、傾国とは「君主が心を奪われて国を危うくするほどの美人。絶世の美女」とある。「絶世の美女」かどうかはともかく、小池氏の希望の党の立ち上げ自体が「国を危うくする」と強調したいのだろう。

同じく10月19日号の週刊文春はもっと過激で、「小池『緑のたぬき』の化けの皮を剥ぐ!」と大きな見出しを新聞広告に出した。見出しはさらに「衆院選出馬に『リスクが大き過ぎる』と尻込み」「リベラル『排除』発言には「早かったわね」と後悔」「都合が悪くなると『リセット』」「22日投票日はパリに高飛び」などと小池氏を揶揄している。

雑誌は新聞と違い、見出しで買わせないといけない。だからその見出しは強烈になる。だからといって、手のひらを返すように一斉に「小池たたき」に走るのはどうだろうか。相手が弱くなると、とことん攻撃する。真のジャーナリズムとは、ときの権力に立ち向かうべきものではないだろうか。

■朝日社説「指摘しておかねばならないことがある」

「森友学園」や「加計学園」をめぐる疑惑の解明は、今回の衆院選の大きな争点であり、原点だ。いまメディアにとって大切なのは、各党が選挙戦を通じて森友・加計問題の解明をどう有権者に訴えているかを点検することではないだろうか。

こんなことを考えていたら、「衆院選 安倍首相」「説明になっていない」という見出しの朝日新聞の社説(10月12日付)が目に付いた。

「安倍政権の5年が問われる衆院選である」と書き出し、「安全保障関連法やアベノミクス、原発政策など大事な政策論議の前にまず、指摘しておかねばならないことがある」と指摘する。

「指摘しておかねばならないこと」とは何か。朝日社説は「森友学園・加計学園をめぐる首相の説明責任のあり方だ」と答え、「首相やその妻に近い人が優遇されたのではないか。行政は公平・公正に運営されているか。一連の問題は、政権の姿勢を問う重要な争点である」と訴える。実に分かりやすい主張である。

■安倍首相自身の指示がなければ問題ないのか

この後、朝日社説は森友・加計問題の中身に言及する。

加計問題については「首相の友人が理事長の加計学園の獣医学部新設問題では『一番大切なのは私が指示したかどうか』『国会審議のなかで私から指示や依頼を受けたと言った方は1人もいない』という」としたうえで、「首相自身の指示がなければ問題ないと言いたいのだろう。だが、それでは説明になっていない」と指摘する。

次に森友学園については、「(妻の)昭恵氏の説明責任については『私が何回も説明してきた』と言うばかり」と指摘し、「昭恵氏はなぜ学園の小学校の名誉校長に就いたのか。8億円以上値引きされた国有地払い下げに関与したのか。昭恵氏が渡したとされる『100万円の寄付』の真相は――」と疑惑を並べる。

なるほど。安倍首相は10月8日の日本記者クラブ主催の党首討論会でも、朝日社説が指摘するように「首相自身の指示がなければ問題ない」と受け取られても仕方がない返答を繰り返していた。

朝日社説は昭恵氏を参考人などとして国会審議の場に呼ぶべきだと主張している。たしかに疑惑解明のためには、参考人招致が必要かもしれない。

■読売の主張も珍しく朝日と同じ

読売新聞の社説も翌日の13日付で「国民の疑念には真摯に答えよ」(見出し)と安倍首相の政治姿勢を質している。

読売社説はその冒頭で「国民の信頼がなければどんな政策も円滑に推進することはできない。疑念が生じたら、常に真摯に向き合い、誠実に説明を尽くすべきだ」と主張を的確に書いている。 

そのうえで「衆院選では、安倍首相の政治姿勢も問われている。首相は臨時国会で審議に入らないまま、衆院を解散した。野党は、森友・加計学園問題の疑惑隠しと批判する」と指摘する。

さらに「7月の東京都議選での自民党大敗後、首相は、疑惑で国民の不信を招いたことについて『深い反省』を示し、丁寧に説明すると約束した。選挙中も、その後も、言葉通りの対応に努めねばなるまい」と主張する。

読売新聞は「安倍政権擁護」の論調が目立つが、今回の社説については前述の朝日社説と同じくまっとうな内容である。

安倍首相をはじめとする自民党の議員は、選挙戦の情勢にかかわらず、朝日や読売の社説の主張や訴えを謙虚に受け止めてほしい。

■なぜ有権者は政治家にばかにされるのか

もうひとつ気になる記事がある。10月12日付の東京新聞夕刊に掲載された高村薫氏のインタビューだ。高村氏は『マークスの山』で直木賞を受賞し、その後、直木賞選考委員に名を連ねている小説家である。

高村氏は今回の衆院選に対し、「四十年以上、投票をしてきましたが、今回ほど頭を抱えたくなる選挙はありません。有権者はなめられたものです」と語る。

臨時国会冒頭で解散を決めた安倍首相には「『国難』と言うだけで北朝鮮の問題への非難決議もなく、所信表明演説や代表質問すらしなかった」と批判し、さらに小池氏の政治姿勢に対しても「都知事選での公約を何ひとつ実現していない」と酷評する。

そのうえで、高村氏は「政治家がこのように国民をばかにした態度をとり続けるのは、有権者が、政治を軽く見ていることの裏返し」と強調する。

高村氏の訴えは理解できる。選挙となればメディアは報道を過熱させる。有権者は、そうした風潮に流されず、一つひとつの政党、一人ひとりの政治家をしっかり自分の目で分析し、選挙で正しい選択をすることが必要だと思う。「手のひら返し」を繰り返すメディアの責任は重い。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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