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『君の名は。』実写版は絶対にヒットする

プレジデントオンライン / 2018年1月4日 9時15分

『君の名は。』公式サイトより

新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』は、日本だけでなく、海外でも歴史的な大ヒットになっている。すでに実写版がハリウッドで制作されることも発表された。アニメ史に詳しい岡田斗司夫氏は「実写版は絶対にヒットする」と断言する。その理由とは――。

※本稿は、岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■宇宙と人間の多重的な「結び」

1月3日に放映された『君の名は。』はご覧になったでしょうか。

『君の名は。』の劇中では、「結び」というキーワードが頻繁に使われ、これが映画全体のテーマになっています。細い糸を撚(よ)って組紐をつくるシーンが出てきますが、いろいろな事件や時間軸が撚り合わさって、話が紡がれていくという構造になっているんですね。

例えば、ティアマト彗星。この彗星は1200年に一度、太陽系外から地球に接近し、太陽の近くを通って、また太陽系外に帰っていく。このティアマト彗星が割れて、破片が地球に落ちると、大災害になります。

三葉の住んでいる糸守町には、巨大なクレーターがあって、その真ん中に神社があります。このクレーターは、1200年前に落ちた隕石によって生まれたものです。隕石の落下は、過去に何度もあったことなのでしょう。

なぜ、こんなに繰り返し隕石が落ちるのか?

それは、かつて地球に落ちた隕石が、太陽系の外を回っている彗星に「会いたい」と思ったからでしょう。

つまり、この物語全体が七夕なんです。2つに分かれてしまったものたち、人間や星がお互いに会いたいと願うから、奇跡が起こる。ただし、星たちの願いは人間界にたいへんな迷惑を引き起こしますから、彗星は三葉たちの一族に超能力を与え、土地の人間が逃げるだけの猶予を作れるようにきっとしているんでしょうね。

もう少し、この構造を大きな視点から見てみましょう。ティアマト彗星は太陽の周りを回っているわけですが、太陽自身も銀河のなかを公転しています。ティアマト彗星や惑星が太陽の周りを回り、その太陽も銀河系のなかを移動しているわけですから、銀河平面の上方からティアマト彗星の軌道を眺めれば、すごく複雑な形状になっているはずです。それこそ、組紐のように。

銀河や太陽、彗星の軌道が複雑に撚り合わされ、そのなかで、別れた相手ともう一度会いたい人間同士、心と身体が入れ替わる。そんな人と人を結ぶ奇跡が、代々受け継がれていく。

こんなふうに、全体が「糸を撚って紐を組む」という構造でできているんですね。時間軸と空間軸において、多重的に「結び」が行われています。

これまでSF作品をつくり続けてきた新海誠の集大成というべき作品でしょう。

ところが、複雑な構造とテーマをもった作品であるにもかかわらず、劇中ではそのことをほとんど説明していません。説明をあきらめてでも、泣かせるドラマに集中した。そのことに、僕は「よく割り切った!」と感心しました。

新海誠のデビュー作『ほしのこえ』(2002年)は、男の子と女の子が何光年も離されて、女の子は銀河の果てで宇宙人と戦い続けている。お互いいつか会えるんだろうか……と考える、救いようのないほど切ない話でした。彼の作品は評価されて熱心なファンもいましたが、その彼が一念発起して感動ドラマのエッセンスを取り込んだのが『君の名は。』であると思います。

これまでの新海誠作品がカカオ90%のビターチョコだとしたら、『君の名は。』は砂糖を入れ、ミルクもちょっと加えてなめらかにしたダークチョコというところでしょうか。

現実の風景よりも美しい「ルック」、宇宙的な規模で織りなされる壮大な構造、それを誰でも感動しやすいドラマとしてきっちり落とし込んだ。それが『君の名は。』の大ヒットにつながったのでしょう。

■ハリウッドは実写版『君の名は。』に本気

さて、世界的なヒットを受けて、『君の名は。』はハリウッドで実写化されると発表されています。

監督が誰になるかわかりませんが、脚本がエリック・ハイセラーというだけでもかなり期待できそうです。彼が脚本を担当した最近の映画といえば、異星人とのファーストコンタクトSF『メッセージ』(2016年)。

原作はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』という名作短編ですが、「映像化は不可能」といわれていたんですね。それをちゃんと仕上げた手腕がすごい。

『メッセージ』のような映画をつくるとき、普通に優秀なシナリオライターなら、内容と画面のどちらを優先するか選ぶんですよ。ハリウッドの場合は、画面を優先してテーマ性を捨てることが多いんですが、『メッセージ』は原作のテーマ性を残しつつ、「この世界の美しさ」をきちんと描いています。

ハリウッドによる実写化と聞いて、『ドラゴンなんとか』のような作品を思い浮かべる人もいるでしょうが、『君の名は。』はまったく違うものになると思いますね。

『スター・ウォーズ』の新シリーズも手がけるJ.J.エイブラムスが「まず、エリック・ハイセラーを押さえた」というところから、ハリウッドの本気度が伝わってきます。

■実写版の舞台を妄想してみる

新海誠監督の『君の名は。』の舞台は、大都会の新宿と田舎の飛騨高山です。映画に描かれた新宿の街並みを見て、「僕らはこんなきれいな世界に住んでたんだ!」と驚いた人も多いんじゃないでしょうか。田舎の風景の美しさも見事でした。

それをハリウッドはどうやって実写化するか。

岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)

ありがちなのは舞台をアメリカにして、ニューヨークかロサンゼルスの都会と、オレゴン州とかモンタナ州の山奥にするというところですか。でもエリック・ハイセラーはメッセージ性を入れたがる脚本家だから、そういうふうにはしないんじゃないかな。

もうこれは僕の完全な妄想ですが、実写版の舞台は「イロコイ連邦」がいいんじゃないかと思っているんです。

イロコイ連邦は、ニューヨーク州北部とカナダにまたがるインディアン部族の居留地で、Wikipediaによると「6つのインディアン部族により構成される部族国家集団」だそうです。

イロコイ連邦が成立したのは1600年代で、すごく歴史をもった「国家」です。言語も信仰も違う部族が集まり、優れた仕組みで運営を行っていました。どれくらい優れていたかというと、アメリカ建国の父の1人、ベンジャミン・フランクリンがイロコイ連邦を参考にして合衆国の運営の仕組みを考えたという説があるほどです。

イロコイ連邦は、「アメリカの原風景」であり、同時に「アメリカ人が抑圧してきたもの」の象徴です。ニューヨークやロサンゼルスのような都市とイロコイ連邦を舞台にして、それぞれに暮らす男女の話にする。そこに隕石が落ちてという話にすれば、うまく回るんじゃないかな?

もしかすると舞台は日本のままで、中国人の俳優を使ってつくるかも。あるいは舞台は中国、北京と田舎にするかもしれません。中国は農村と都市の住民は別の戸籍制度になっていて、両者のあいだにはたいへんな格差がありますから、これを描いても面白くなりそうです。

ただ、僕としてはやっぱりイロコイ連邦を推したいですね。エイブラムス監督、この記事を読んだらぜひご検討ください!

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岡田斗司夫(おかだ・としお)
社会評論家
1958年大阪府生まれ。1984年にアニメ制作会社ガイナックスの創業社長を務めたあと、東京大学非常勤講師に就任、作家・評論家活動を始める。立教大学や米マサチューセッツ工科大学講師、大阪芸術大学客員教授などを歴任。レコーディング・ダイエットを提唱した『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)が50万部を超えるベストセラーに。その他、多岐にわたる著作の累計売り上げは250万部を超える。

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(オタキングex社長、作家、社会評論家 岡田 斗司夫)

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