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感染症の流行は「出会い系」が原因なのか

プレジデントオンライン / 2018年5月20日 11時15分

名古屋で最初にはしかに感染した男性が受診した「名古屋第二赤十字病院」(通称・八日赤)。(写真=時事通信フォト)

■「はしか」の感染者はあっという間に100人超に

沖縄県での感染をきっかけにはしか(麻疹)が流行している。

感染力が非常に強く、インフルエンザの何倍ものスピードで次々と、感染していく。感染すると、風邪に似た症状が出て発熱し、全身に発疹が出る。脳に炎症が生じると、後遺症のまひが残る。1000人中、1人の割合で死者も出る。決して侮れない感染症である。

日本は2006年から小児を対象にワクチンの2回接種を行って免疫力を上げた。その結果、3年前にWHO(世界保健機関)から国内にはしかの土着ウイルスが存在しない「排除状態」と認められた。

ところが今回の流行である。台湾人観光客が沖縄県にウイルスを持ち込み、それが発端となって沖縄県だけでなく愛知県にまで広がり、免疫の不十分な人々が感染した。感染者はあっという間に100人を超えてしまった。台湾人観光客はタイで感染したらしい。

この事態に一部の新聞が社説で取り上げ、警鐘を鳴らしている。

日本国内にはしかのウイルスが存在しないからといって安心してはならない。はしかだけではない。2014年の夏には熱帯の東南アジアで流行するデング熱も都内で発生している。航空機によって世界中を手軽に移動できる現代は感染症は海外から持ち込まれる。

■多くの研究者が「感染症は克服できる」と考えた

人類は感染症を制圧できるだろうか。

ここで過去の感染症を振り返ってみよう。水疱性の発疹ができて高熱を出し、古くから「悪魔の病気」と恐れられてきたあの天然痘(疱瘡)は根絶することはできた。

牛痘ウイルスによって人の体に抗体を作り出す方法、つまり種痘ワクチンが大きな効果を発揮したからだ。

1958年、WHO(世界保健機関)は世界から天然痘を根絶する計画を採択する。アフリカや南米などの熱帯地域の高温に耐えられるように種痘ワクチンを改良してその質を上げるとともに量を確保し、65年から根絶作戦をスタートした。

その結果、77年10月26日に発病したアフリカのソマリアの青年を最後の患者として天然痘は姿を消した。2年半後の80年5月、WHOは天然痘根絶を宣言し、83年にはこの10月26日を「天然痘根絶の日」と定めた。

この成功で多くの研究者が「感染症は克服できる」と考えた。

■「天然痘根絶」はレアケースだった

しかしちょうどこのころ、エイズウイルス(HIV)が出てきた。

1981年6月にエイズの最初の公式報告が米国疾病対策センター(CDC)発行の報告書に掲載され、その後エイズが全世界に広がっていった。

天然痘の制圧成功はレアケースだったのである。

沙鴎一歩は、感染症を制圧することはできないと考えている。制圧できないならばどうすればいいのか。日頃からの予防はもちろんのこと、ワクチンや抗ウイルス薬を使いながらウイルスや細菌などの病原体をうまくコントロール(制御)して感染症と付き合っていくしかない。

はしかも同じである。

■産経はワクチン2回接種を強調する

このあたりで新聞の社説を取り上げよう。

まずは5月13日付の産経新聞の社説(主張)。見出しで「『ワクチン2回』の徹底を」と訴えて書き進めていく。

「日本では、世代によって免疫に差がある。50代以上の世代にとってはしかは『かかる病』だった。一度感染すると、免疫は生涯続くとされる」

産経社説は「免疫は生涯続くとされる」と、「される」という表現を使って断定をさけている。慎重なのか、それとも取材が足りないのか。書いている論説委員(社説は論説委員たちの議論を経てひとりの論説委員が執筆する)に自信がないのだろう。

今回のはしかの流行の重要な要因として、日本国内に土着ウイルスが存在しないことが挙げられる。自然界に存在する土着ウイルスに感染してこそ、終生免疫を獲得できる。

■はしか流行は土着ウイルス排除の反作用

それがたとえ生ワクチンであっても、ウイルスの毒性などをぎりぎりまで弱めたものである以上、どうしても免疫獲得の効果は弱くなる。

だから厚生労働省はワクチンの2回接種で免疫力を強めることを呼び掛けているのだ。

果たして産経新聞の論説委員はそこを理解しているのだろうか。疑問である。

「40代以下の世代にとっては、ワクチンで『防ぐ病』である。平成18年度に、それまで1回だったワクチン接種が2回になった」
「初回は1歳で、2回目は小学校入学前に行う」
「今回の流行は、30代の感染が最も多い。それに20代、40代が続く。2回接種が徹底されていない世代で広がったようだ」

産経社説は2回接種の不徹底こそが、流行の原因だと考えているようだが、流行の原因は土着ウイルスの欠如にあるのだ。はしかを排除した反作用なのである。

■世界ではデング熱やジカ熱、マラリアも多発

読売新聞は産経新聞より早く、はしかを社説のテーマに選んでいる。その社説(5月6日付)の冒頭は「訪日客が持ち込む感染症への対策を徹底しなければならない」と書く。見出しは「最強の感染力に万全の備えを」だ。

産経社説同様、ワクチンの2回接種を呼び掛ける。「同様」というよりも産経社説が読売社説を読んでその書きぶりをまねたのだろう。社説は早く書いたほうの勝ちである。

「唯一の予防手段がワクチンだ。確実に免疫を得るには、2回の接種が推奨される。1回では免疫が十分に備わらない人もいる」
「幼少期などに定期接種を受けていない人や、麻疹の罹患歴がなく、ワクチン接種の有無が不明な人は接種を検討すべきだろう」

最後に読売社説は、沙鴎一歩が前述した「感染症は海外から持ち込まれる」ことを指摘している。

「麻疹だけでなく、世界では、デング熱やジカ熱、マラリアなどの感染症が多発している。国境を越えて人が活発に往来する現在、病原体が国内に入り込むリスクは確実に高まっている」
「誰もが感染症のリスクを自覚する必要がある。政府は空港などでの水際対策に全力を挙げたい」

読売社説の通りなのだが、水際対策にも限界はある。

■「ネット経由」を裏付けるデータはない

読売は5月14日付社説で「梅毒」もテーマに選択している。感染症の問題を得意とする論説委員がいるのだろう。

「梅毒の患者数が爆発的に増えている。特に、若い女性や胎児への感染拡大が心配だ。厚生労働省は、効果的な対策を講じねばならない」と書き出し、「2012年に875人だった患者数は昨年、5820人(暫定値)に上った。5000人を突破したのは、実に44年ぶりだ」と指摘する。

梅毒は「過去の病気」とされてきた。それだけに梅毒をその症状から診断できない医師もいる。

読売社説は「典型症状として、感染から3か月程度で手足など全身に発疹が現れる。その後、発症したり治まったりを繰り返す。進行すると脳や心臓に異常を来すこともある」「主に性行為を介して感染する。男性の同性愛者や性風俗関連の女性に多いとみられてきた」とその症状を丁寧に説明する。

さらに「懸念されるのは、20~30歳代の女性への感染が目立つことだ」と書き、「原因については、様々な指摘がある。『ネット経由で男女の出会いが多様化した』『海外との往来が活発になった』などといわれるが、裏付けるデータはない」と解説する。

そのうえで感染の実態把握を強化するように厚労省に求めた後、次のように主張する。

「無論、重要なのは、一人ひとりが予防に努めることだ」
「罹患が疑われれば、病院や保健所などで検査を受けて、速やかに治療する。原因となる細菌『梅毒トレポネーマ』は、基本的に抗生物質の服用で死滅できる」
「治癒した後も免疫ができないため、再感染には注意を要する。パートナー間での感染リスクを避けるためには、一緒に検査を受けることも必要だろう」

感染症をテーマした社説としてはまずまずの出来だろう。

■毎年6万人が命を落とす「狂犬病」のリスク

梅毒は「過去の病気」だと書いたが、現代は過去にはやった感染症がはやる「再興感染症」の時代なのだ。

その意味では「狂犬病」についての知識も持つべきである。

世界では毎年、6万人近くが狂犬病で命を落としている。病原体は神経を攻撃するウイルスで、ワクチンを打ってもなかなか助からない。怖い感染症だ。しかも狂犬病ウイルスを持つのはイヌだけではない。ネコ、サル、リスなどにかまれて発症することもある。

海外で感染して帰国後に発症したケースはいくつかあるものの、日本国内で人が感染した事例は、昭和30年以降ない。それだけに忘れ去られた感染症なのだ。

年に1回のワクチンの予防接種がイヌの飼い主に義務付けられている。この義務付けが狂犬病を日本の国内から消滅させたが、海外にはまだまだ狂犬病ウイルスが存在する。いつ国内に入ってくるか分からない。それなのに「イヌの健康を害するワクチン接種は止めるべきだ」との声が上がっている。

狂犬病も新聞社説のテーマとして扱ってほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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