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高学歴でも頭の悪い人が"突然死"するワケ

プレジデントオンライン / 2018年6月18日 9時15分

組織のローカルルールに熟達すれば成功が約束された時代は終わった。これからのビジネスパーソンは、自分の市場価値を独学で高めていく必要がある(写真はイメージです。写真=iStock.com/bee32)

これまでの日本社会では、勉強とは主に「学歴」を得るためのもので、大学入学後、あるいは就職後においての勉強は、エンジニアや一部専門職を除けば重視されてこなかった。だが「『超』独学法」(角川新書)を著した早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は、これからはすべてのビジネスパーソンに「学び直し」が欠かせないと指摘する。その理由とは――。

■「学歴」を獲得するためだけの勉強

これまでの日本社会では、勉強の目的は大学に入ることであり、そこがゴールでした。それは、大企業が学歴を基準として入社選抜を行ってきたからです。人気のある会社であれば、応募者を絞る必要があり、日本の企業はその目的のために「学歴」を見たのです。とりわけ、「どの大学を卒業したか」によって、応募者の能力を判断し、ふるいにかけました。

なぜそうしたかと言えば、学歴は、人間の能力を手際よく伝える指標だと考えられたからです。「本来測定したいが簡単には観察できない指標(この場合は能力)を示す代理指標として用いられる、簡単に観察できる指標」のことを「シグナル」と呼び、学歴は、能力のシグナルとして用いられてきました。

入社時の選抜で主たるシグナルとなるのは、「どの大学か」ということです。そこでの成績も考慮されるし、また、「どの学部か」も問題となります。しかし、多くの場合に重要なのは、大学名そのものです。したがって、「卒業する大学名を獲得する手段が勉強」ということになります。

このことを逆の側面から見れば、「これまでの日本社会において、大学に入学してからの勉強は、あまり重要ではなかった」ということになります。だから、学生は、いったん入学すればあまり勉強はしませんでした。いわゆる文系の場合には、特にそうです。

入社してから後の勉強は、さらに重要度が落ちました。なぜなら、シグナルが必要とされるのは、ほぼ入社時にかぎられるからです(理工系では、仕事の必要上から、新しい知識が必要になり、勉強せざるを得ない場合が多く、これは主として文系についてのことです)。

■「ローカルルール」に熟達すれば通用した時代

仮に労働市場が流動的で、企業間の移動が普通であれば、入社時以降にも転職・再就職の際にシグナルが必要とされます。したがって、入社時以降の勉強が必要になるでしょう。しかし、日本ではそうしたことは、まれにしか生じませんでした。

野口悠紀雄(著)『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』(KADOKAWA)

入社後に必要とされるのは、一般的・普遍的な知識ではなく、その企業に特殊な知識です。その企業における仕事を進めるための知識がまず必要ですが、それだけではありません。社内の権力関係や人間関係などについて、無知であるわけにはいかず、場合によっては、それらの知識を使って、「社内派閥のどの側につくか?」を判断することこそが重要でした。

社会人になってから後では、一般的な勉強はあまり問題とされなかったのです。特に管理者層になると、スペシャリストではなく、ジェネラリストとしての能力を要求されることが多いので、そうなりました。

こうしたことが可能だったのは、日本経済が順調に成長していたからです。そして、経済社会の基本条件が大きく変化することがなかったからです。

■これまでの仕事を「破壊」するテクノロジー

ところが、ITによって、経済社会は大きく変わり、これからも変わり続けます。これまであまり技術進歩の影響を受けなかった金融部門も、フィンテック(ITを応用した金融サービス)によって大きく変わろうとしています。いま、産業革命と似た変化が起ころうとしているのです。

このため、学歴があれば安泰という考え方は、過去のものとなりました。また、学校時代に習ったことは、あっという間に陳腐化します。新しい技術の中にはディスラプター(破壊者)も多くあり、これまでやってきた仕事が、技術進歩によって消滅してしまうのです。

ディスラプターが登場する時代には、自分自身を教育し直すことが必要になります。社会の変化が急速になると、勉強し続けていないかぎり、社会の変化についていくことができなくなります。

そのためには、独学しか方法がありません。他方で、情報技術の発展によってさまざまな手段が使えるようになったので、独学のための環境は大きく改善されました。技術の進歩は、独学の必要性を高めると同時に、独学を容易にしているのです。

■「個人としての市場価値」が問われるように

変化が激しいということは、新しいフロンティアが広がるということです。社会が変われば、新しいチャンスが生じます。それを捉えることができれば、新しい成長ができるのです。日本では、第2次世界大戦後に、こうした時代が到来しました。ソニーやホンダなどの新しい企業が登場し、目覚ましい成長を実現しました。

世界ではいま、情報関連の技術によって、新しいフロンティアが開けつつあります。それを捉えることが必要です。高度サービス産業で重要なのは、個人の独創性を引き出せるような労働環境です。それは、創造性から生み出される革新が、極めて大きな利益と成長をもたらすからです。

アップルはiPhoneという一つの非常に革新的な製品によって、これだけの成長を遂げました。グーグルの成長の基盤にあるのは、優れた検索エンジンです。フェイスブックの場合は、新しい形態の社会的な交流の仕組みの創設です。ごく少数の人間の革新的なアイデアが、現代のリーディング産業を作っているのです。

このため、アメリカをリードするハイテク企業は、さまざまな工夫をして、個人の創造性を引き出そうとしています。現代の世界をリードしている企業は、いずれもアイデアとイノベーションによって成長しています。それは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と言われるアメリカの先端企業で顕著ですが、それだけはありません。例えば、中国のアリババもそうです。

多くの日本人は、これまで組織に対する依存心を強く持っていました。できるかぎり大きな企業に入社し、そこで昇進するという生き方です。それは、ある意味で合理的なものでした。しかし、いまや組織にすべてをかけてしまうのは、リスクが高いのです。組織自体がいつまで続くか分かりません。だから、組織に依存すればよいのではなく、一人一人が「個人としての市場価値(マーケットバリュー)を持っているかどうか?」を問われます。

■最も必要とされる、経営者の再教育

「どの組織に所属しているか」でなく、「どれだけの能力を持っているか」が重要なのです。逆に言えば、組織にこだわる必要は薄れています。つまり、「組織人から個人の時代へ」という変化が生じようとしているのです。組織の中で上司の指示どおりに仕事をしていればよい時代は終わりました。ましてや、上司の機嫌をとってゴマをすれば出世できる時代は、大昔のものになりました。

変化への対応は、個人の立場から必要であるばかりでなく、日本全体としても必要なことです。日本の産業構造や経済構造を大きく変えなければいけません。

■「一生勉強」という覚悟を持て

自己投資が必要なのは、若い人々だけではありません。経営者にとっても、大変重要なことです。日本の経営者は、大学で法律や経済を勉強した人が多いのですが、それらの知識は、実際の企業経営や経済運営とはほとんど関係がありません。経営は企業に入ってから、経験を通じて習得するというケースが多いのです。

日本の大学の法文系学部には、これまでは、職業に必要な高度な知識や基礎を教えるという発想がありませんでした。「大学とは真理追究の場であり、実際のビジネスに関係があることを教える場ではない」という観念が強かったのです。しかし、そのために、専門的な経営者が生まれなかったことは、事実です。企業の進むべき方向について、的確な判断力を持っている人が多いとは思えません。現在の日本で最も必要とされることは、経営者の再教育です。

長寿化時代においては、人生に新しいステージが出現します。人間の生物的条件から言えば、引退年齢が70~80歳にならなければなりません。仕事をする期間が長くなり、働き方も画一的ではなくなります。だから、選択肢の幅も広がらなければなりません。

勉強するのは若いときのことであると考えている人が多くいます。しかし、これからは、高齢者の独学が重要な課題になります。高齢者は、それまで得た知識のストックを保有しているわけですから、新しい知識を吸収し、それを解釈し、それを活用することを、若い人よりは容易にできるはずです。

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野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省(現・財務省)入省。72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て2011年4月より早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。Twitterアカウント:@yukionoguchi10

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄 写真=iStock.com)

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