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「仕事以外の勉強」をしなかった人は、定年後に老け込む…83歳元気バリバリの経済学者が考える「勉強」の重要性

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 16時15分

写真=iStock.com/Hanafujikan

いつまでも心身共に健康でいるためにはどうすればいいか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「運動と食事だけでなく、人とのつながりが持てる社会参加も不可欠だ。そのためには40代、50代から勉強して、定年後に備えておいてほしい」という――。

※本稿は、野口悠紀雄『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■定年後の居場所が家庭にない

定年退職すると、生活スタイルの激変は避けられません。それまで会社の仕事だけの生活をしていた人には、ほぼ確実に生じます。環境が大きく変わると、メンタルに不調をきたす人が増えます。

日本の場合、会社の中でずっと生きてきた人が多く、それらの人々は、定年になって全く違う世界の中で生活することになる。しかし、地域の中でうまく過ごすこともできない。そのような状況にある高齢者が、非常に多くなってきているのは、間違いなく事実です。

「定年うつ」とは、仕事一筋だった人が定年退職を迎え、急にやることがなくなり、自宅に引きこもって暮らすうちに、うつ病になってしまうことです。趣味もなく、人間関係のほとんどが仕事に関連したものだったので、会社で働かなくなると、社会とのつながりが失われてしまいます。

仮に十分な年金で生活できる経済的に恵まれた人でも、生活スタイルの変化は避けられません。電話で誰かと話すことも考えられますが、相手の迷惑になる場合もあるでしょう。

奥さんから「週3日は外出して」と言われて、一日中電車に乗っていたという人もいます。コミュニティの集まりに参加しても、そこで自分が無視されていると感じて、怒ってしまう人もいるでしょう。

■定年後、無職に陥らないために40代から備える

幸せなシニア生活には、さまざまな条件が必要です。それらをすべて満たすのは、決して容易でありません。

重い病気にならず、健康でいることは、どうしても必要な条件。それを満たせても、60代以降に職があるかどうかが問題になります。

「人生100年時代」では、シニアになっても働くことが当たり前になると考えられます。しかし、「存在を認めてほしい」「社会と関わり続けたい」と考えて職を求め、ハローワークに通っても、求人があるのは限られた職種というのが現実でしょう。

40代、50代のうちから勉強を続け、それまでの本業以外にできる仕事を見つけ、定年後に備えることが必要です。

資格を取り、仕事を続けられれば、コミュニケーションもでき、充実した生活を送れるでしょう。ただし、資格を取ることと、仕事を得られるかどうかは別のことです。

経済全体では労働需給は逼迫するので、好みをいわなければ仕事はあるでしょう。ただし、肉体労働、低賃金になるかもしれません。

■勉強しなければ、一気に体のガタがくる

定年退職後の生活の経済的な側面は、さまざまな難しい問題を含んでいます。拙著『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)で指摘しているのは、「誰にでもできてさまざまな効果があるのは勉強だ」ということです。それが収入につながれば一番よい。仮にそうならなくても、さまざまな効果があります。そして、勉強をすることに多大の出費は必要ありません。

60代になる前に、勉強と(会社外の)人脈を作ることができれば、理想的です。

コロナ禍で人との接触機会が減ったため、高齢者の活力低下現象が増えました。この予防のためにさまざまな取り組みが行われています(※1)

コロナで高齢者の「フレイル」が増えたといわれます。「フレイル」(frail)とは、健康と要介護の中間的な状態で、筋力や心身の活力が低下した状態です。国際医療福祉大学のグループの調査によると、高齢者のフレイルの割合は、2017年に11.5%だったのが、2022年には17.4%に増えました。

この他にも、コロナの影響でフレイルが増加しているという報告が、いくつもなされています。外出自粛が長期間にわたったため、体を動かさなかったり食事が偏るなどして、体力が低下したのです。

※1:「コロナ自粛、増えたフレイル」朝日新聞、2023年6月25日

■杖要らずの人が、自粛生活で車椅子生活に

また、コロナのために地域活動が中止になり、友人との交流や外出の機会が減ったことも大きな原因だとされています。集まりへの参加者が、コロナ前に比べると3分の1になったといわれます。人との会話が減る生活が続いたため、気持ちが落ち込んだりして、身体や認知機能に影響が出るのです。

なお、フレイルの基準としては、つぎのようなものが採用されます(※2)

・体重の減少(意図しない年間4.5kg以上もしくは5%以上の体重減少)
・疲労感(「何をするのも面倒」だと週3~4日以上感じる)
・活動量の減少、歩行速度の低下、握力(筋力)の低下

フレイルの影響は深刻です。新潟大学の齋藤孔良助教らの研究チームの調査によると、高齢者のうちフレイルの人は、健康な人と比べて、季節性インフルエンザに1.36倍かかりやすいことが分かりました。また、感染した際に3.18倍、重症化しやすいことも明らかになりました(※3)

自粛生活で家にこもっていた影響で、それまで杖もつかずに元気に歩いていた高齢者が、車いす生活になったケースも多いそうです。

※2:Linda Fried博士が提唱した「CHS基準」を元に、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが2020年に改訂した「日本版フレイル基準」
※3:テレ朝news、2023年6月23日(注2)筑波大学大学院の研究グループの調査結果、2021年3月23日 NHKニュース

■運動と食事だけでなく、「社会参加」も必要

「物忘れ」の増加も深刻です。筑波大学大学院の研究グループは、外出自粛が高齢者の健康に深刻な影響を与えているとの調査結果を発表しました。

40代以上の17%が「自分の健康状態が悪くなっている」と回答。60代以上では、27%の人が「同じことを何度も聞くなど、物忘れが気になるようになった」、50%の人が「生きがい、生活意欲がなくなった」と回答しました。

外出できない状態が続くため、運動不足による体の不調だけでなく、認知機能の低下や精神状態の悪化も生じているのです。

看護師が手をつないで養護施設で歩く杖を使う年配の女性
写真=iStock.com/Ridofranz

フレイルを防ぐためには、運動、栄養、社会参加の3つが重要で、一つでもかけると衰弱が進むとされています。また、フレイルは「可逆」、つまり、対策を講じることによって、進行が緩やかになるだけでなく、健康に過ごせていた状態に戻すことができるそうです。

フレイルによって要介護者が増えるのを予防し、高齢者の健康寿命を延ばすために、地方自治体も、フレイル予防に取り組んでいます。

人口およそ4万で約3割が高齢者の兵庫県西脇市では、「1週間、誰とも話していない。日本語を忘れそうだ」との住民の声に応えて、「健幸運動教室」を始めました。

■子供にも理解しやすい言葉で手紙を書く

体を動かすだけでなく、科学的な根拠に基づいた「フレイル予防」を掲げ身体機能の維持を目指します。長崎県佐世保市は、高齢者と子供が手紙をやりとりする取り組みを始めました。子供にも理解しやすい簡単な言葉で手紙を書いたり、感情を表したりすることで脳が刺激され、認知機能を維持することができるとされています。

運動、栄養、社会参加という3つの要因は、独立ではなく相互に関わり合っていると思われます。ですから、どれかの要因を変えれば、他の要因もその影響で変わるでしょう。

最も重要なのは、他の人との会話を進めることではないかと、私は思います。この点から言うと、地方公共団体による以上のような取り組みは確かに評価されます。しかし、その具体的手段は、人々が会う機会をコロナ前の状況に戻そうということが中心になっているのではないでしょうか?

コロナによってさまざまな条件が変わったことに注意を向ける必要があります。例えば、Zoomなどのオンラインミーティングは、コロナ以前であれば技術的に可能であっても、人々がそれを受け入れませんでした。ところがコロナによってごく普通のミーティング形態として多くの人が受けいれるようになったのです。

■60代の93%がスマートフォンを持つ時代

このような新しい方法での人々とのつながりを求めていく方向が、可能になっています。こうした方向を積極的に探ることによって、新しい可能性が広がります。地域コミュニティの集まりと言われても、人生の大部分を会社人間として過ごしてきた人には、馴染めない場合が多いでしょう。だから、地域コミュニティの集まりの他に、もっとさまざまな手段を探ることが求められます。

野口悠紀雄『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)
野口悠紀雄『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)

その際に重要なのはITの活用です。ITはシニア向けでないという認識は、もはや、古くなっています。実際、シニアのスマートフォン所有率の上昇傾向は続いています。NTTドコモの社会科学系の研究所であるモバイル社会研究所の調査によると、2023年における60代のスマートフォン所有率は、2022年から2ポイントあがり、93%に達しました。また、70代も22年より9ポイント増えて、79%となりました。

高齢者にとって、IT機器はごく普通の日常の道具になっているのです。この点について、われわれは認識を改める必要があります。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院教授などを経て一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)など多数。近著に『生成AI革命』(日経BP 日本経済新聞出版)、『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)、『日本の税は不公平』(PHP新書)、『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)などがある。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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