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オウム大量死刑を生んだ"安倍1強"の怖さ

プレジデントオンライン / 2018年7月15日 11時15分

2018年7月6日、街頭のテレビでもオウム真理教の元代表松本智津夫死刑囚らの刑執行を報じていた(写真=AFP/時事通信フォト)

■「死刑執行」が幕引きではない

7人まとめてという大量の死刑執行に驚かされただけではない。強い違和感を覚え、安倍政権が不気味な怪物のようにさえ思えてきた――。

オウム真理教による一連の事件で殺人などの罪に問われ、死刑が確定した63歳の松本智津夫死刑囚(麻原彰晃)ら7人の刑が7月6日、東京拘置所など全国の拘置所で執行された。一斉死刑執行の数の多さは、1911(明治44)年に社会主義者の幸徳秋水ら12人が処刑された大逆事件以来のことである。

坂本堤弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件……。こうした数々の事件では計29人の命が奪われ、6500人以上が負傷した。松本死刑囚らの犯行は日本の犯罪史上まれで凶悪なものだった。

確かにオウム事件の衝撃性はとてつもなく強かった。だが、その衝撃性に気を取られることなく、私たちひとりひとりが冷静にオウム事件とは何だったかを自らに対して問い続けることが重要だと思う。

たとえばなぜ、高学歴の若者たちが本来の歩むべき道を外れてオウム真理教に加わり、他に類を見ない罪を犯したのか。これを解明する努力を怠ってはならない。死刑制度の是非は別として、死刑執行が幕引きではない。

■前夜に上川法相と安倍首相が宴会で大はしゃぎ

天皇陛下の代替わりが来年に控え、平成の時代が終わろうとしているなか、法務省は皇族の結婚や東京五輪・パラリンピックといった大行事を念頭に、死刑の執行のタイミングを探っていた。

一連のオウム裁判が終結した今年1月以降、法務省は「平成に起きた大事件の犯人の執行は平成のうちに実行すべきだ」として死刑執行に向け、準備を本格化していった。

一斉に死刑を執行するには、死刑囚を全国の複数の拘置所に分散して収容する必要があった。ひとつの拘置所での死刑執行には数に限りがあったからだ。死刑囚を全国各地の拘置施設に分散的に移送し、さらには報復テロに備えた警備の体制を整備していった。

実際、上川陽子法相は死刑執行を公表した記者会見で「さまざまな時代の中のことも考えながら、そしてこれからのことも考えながら、判断した」と語っていた。

ここで沙鴎一歩が気がかりなのは、死刑執行を翌朝に控えた7月5日夜、9月の総裁選を盛り上げるための自民党議員らの宴会で、上川法相と安倍晋三首相が笑顔で料理とお酒を楽しんでいたことである。彼らの人間性を疑いたくなる。

「安倍1強」。強い政治権力を握ると、死刑囚とはいえ7人もの人間に対して一斉に死刑執行ができる。言い換えれば安倍1強が今回の一斉死刑を生んだわけである。背筋がゾッとする。

■「従来どおりの秘密主義を貫いたのは残念」

さていつものように各新聞社の社説を見ていこう。

読み応えのあったのは「根源の疑問解けぬまま」との見出しを掲げた7月7日付の朝日新聞の社説である。扱いは一本社説の他紙と違い半本なのだが、その中盤で「刑事裁判で解明できることには限りがある」と的を射た主張を展開している。

冒頭部分で「一連の事件では13人の死刑が確定した。今回その中の7人の執行を決めた理由や松本死刑囚の精神状態について、会見した上川陽子法相は『個々の執行の判断にかかわることは答えを差し控える』と繰り返すばかりだった。世界からも注目が集まる事件で、従来どおりの秘密主義を貫いたのは残念だった」と指摘する。

賛成だ。上川法相にはすべてを話してもらいたかった。そうすることで死刑に対する世論も漠然としたものから具体的なものへと変わってくるはずだ。

朝日社説も「多くの国が死刑廃止に向かうなか、日本は世論の支持を理由に制度を存置している。だがその実態は国民に伝えられず、刑罰のあり方をさまざまな観点から議論する土台が形づくられているとは言いがたい」と解説し、「考えを見直し、できる限りの情報公開に努めるよう、改めて求める」と訴えている。

■「ここにしか真実も居場所もない」と思いつめていった

さらに朝日社説は「なぜ教団は社会を敵視し、サリンの散布にまで走ったのか。暴走をとめることはできなかったのか。その根源的な疑問は解けないまま残されている」と指摘したうえでこう主張していく。

「中でもとり組むべきは、教団が若者を吸い寄せ、拡大を続けた理由を解き明かすことだ」
「元信徒らの発言や手記をたどると、神秘体験への好奇心や当時の仕事への幻滅などから入信し、その後『ここにしか真実も居場所もない』と思いつめていった様子がうかがえる」
「社会への小さな違和感がめばえた段階で、他に頼れる場があったなら、と思わずにはいられない。ところがいまの日本は、その『場』を用意するのではなく、むしろ自分たちとは違うと思った存在を排除し、疎外感を募らせる方向に流れてはいないだろうか」

アメリカのトランプ大統領の米国第一主義の弊害とされる「社会の分断」がそれに当たる。同じような保守主義でトランプ氏に従う安倍首相にもその危険性が強い。自分と違うと感じる他者を切るのではなく、意見や考えに耳を傾けることが大切なのだ。

■「奇形なものとして眺めるだけではどこにも行けない」

次に毎日新聞の社説(7月7日付)を取り上げよう。

毎日社説も「日本の社会にとってオウム事件とは一体、何だったのか」との疑問の声を上げ、「松本死刑囚は真相を語ることなく、刑が執行された。それでも、その問いかけは依然私たちにとって重い意味を持つ」と指摘する。

そのうえで「作家の村上春樹氏は、地下鉄サリン事件の証言集『アンダーグラウンド』の中で、こう述べている」と書く。

「事件を起こした『あちら側』の論理とシステムを徹底的に追究し分析するだけでは足りないのではないか。オウム真理教という『ものごと』を純粋な他人事として、理解しがたい奇形なものとして対岸から双眼鏡で眺めるだけでは、私たちはどこにも行けないんじゃないか――」

「あちら側」と「他人事」、そして「奇形なもの」。さすが村上春樹氏だ。オウム真理教が一連の事件を起こすなかで、「オウムこそ宗教だ」と語った学者もいた。

松本死刑囚の死刑執行で事件は終わったという意見もある。一区切りだという考え方もある。だが、刑事事件に対する処理は終了しても、本質の解明には至ってはいないのだ。

■カルト思想については、国際的にも注目されている

毎日社説は続ける。

「1980年代後半から90年代半ば。バブルからその崩壊にかけて現実感が希薄化し、超常的な力へ人々の心が引き寄せられる中で事件は起きた。そうした中、人類救済を掲げていた教祖の価値観を、洗脳された若者が全面的に信頼してしまった」
「多くの信者が今は、マインドコントロールの呪縛から解き放たれている。これまで口を開いていない人も少なくないだろう。カルト思想については、国際的にも注目されている。村上氏のいう『あちら側』の対岸で、検証を重ねるべき対象は、まだまだ残っているはずだ」

その通りで、足を流れに突っ込んで対岸に渡り、時間をかけて調査し、考察する必要がある。

■「教団の闇」をどうやって解明するべきなのか

最後に読売新聞の社説(7月7日付)をのぞこう。

「上川法相は、執行後の記者会見で、『2度にわたる無差別テロなど、一連の犯行は組織的、計画的で、極めて凶悪重大なものだ』と執行の理由を述べた」と書き、「法相に課せられた重い職責を粛々と果たしたと言えよう」と指摘する。

さらに「上川氏は『慎重にも慎重な検討を重ねて執行を命令した』と強調した。今後もこの姿勢を堅持していくことが大切だ」と訴える。

保守本流を歩む読売らしい主張だが、国際社会が死刑廃止に動いている現状も加味すべきだ。その点に欠けているから「『オウム』を再び生まぬ社会に」(見出し)という主張も読者には届かないのではないかと思う。

中盤で読売社説はこうも述べている。

「松本死刑囚の裁判は、1審だけで約8年も要した。それにもかかわらず、松本死刑囚は教祖として信者を洗脳し、事件に駆り立てた経緯をほとんど語らなかった。教団の闇は解明されないままだ」

ここまで書いた以上、「教団の闇」をどうやって解明するべきなのか、具体的に示してほしかった。読者の期待はそこにあるように思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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