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自宅で親を看取るにはどうすればよいか

プレジデントオンライン / 2018年9月15日 11時15分

■高齢化、介護人材不足、東京に山積みの課題!

「人生100年時代」がもう間もなく到来します。高齢者が、経験や能力を活かしながら居場所と役割を持って、地域で支えたり、または支えられながら、安心してともに暮らし続けることができるまちづくりを進めねばなりません。

現在、日本の総人口に占める65歳以上の割合は、すでに21%を超えており、「超高齢社会」に突入しています。「高齢化」という言葉から、もはや“化”の文字はないと考えてよいでしょう。

そんな中でひとつのエポックとなるのが2025年です。都では団塊の世代が75歳以上になる25年に、人口が減少に転じると見込んでいます。高齢者人口は確実に増加し、35年には都民の4人に1人が高齢者になるという推計もあります。要介護認定者数も増加しており、20年には5人に1人が東京において要介護状態になります。介護医療が必要になっても地域で暮らし続けるためには何をすべきなのか。18年3月に都は、今後の取り組むべき施策を明らかにした「東京都高齢者保健福祉計画」を、中長期的視野からまとめました。

この計画では、大都市東京の目指すべき姿として、「地域で支え合いながら安心して暮らし続けることができる東京」を掲げています。身近な地域で医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援を提供し、都民の暮らしを支える地域包括ケアシステムを構築していきます。その実現に向けて、「介護サービス基盤の整備」や「高齢者の住まいの確保」など、7つの重点分野を定めて施策を進めています。

そのうちのひとつが、「介護人材対策の推進」です。東京では、職業の選択肢が幅広いこともあり、介護や保育などの福祉分野では、人材不足の問題が深刻化しています。東京都では25年までに特別養護老人ホームを6万2000人分確保することを定めていますが、建物やベッド数を確保しても、実際に介護をしてくださる人材がいなくては仕方がありません。

今回の計画策定に当たり、介護職員の今後の需要と供給を推計した結果、都における介護人材の需要は、25年度には約22万7000人になるという数字が算出されました。一方、将来の離職率や再就職の割合、入職者数を勘案した供給は約19万2000人で、約3万5000人不足することが見込まれています。この需給ギャップを埋めるためには、25年度まで、毎年約3500人の介護職員を新たに確保するとともに、定着を図る必要があります。

写真=iStock.com/Barcin

少子高齢化により労働力人口が減少する一方、景気が緩やかに回復し、都内の有効求人倍率は上昇傾向にあります。16年の東京都の全職種の有効求人倍率は1.74倍でしたが、介護関連職種では5.86倍となるなど人手不足が深刻化しています。

介護現場で働いている方の年齢層に注目すると、介護職員の50歳以上の方の割合は、施設では3割、訪問介護ではなんと6割を超えています。高齢化が進み、この方々が退職されていくと、一気に働き手が減少。また介護ノウハウの継承も危ぶまれるという事態に陥るのです。

介護関係の仕事はほかの産業に比べても離職率が高いことで知られています。近年の都内の状況は14年から連続して改善していますが、それでも介護関係職種の離職率は16年で14.9%ありました。事業者の規模別に見ると、大規模事業者よりも中小事業者の離職率が高いことは無視できません。つまり、中小事業所の職場環境をいかに改善し、いかに人材の定着を図っていくかということです。

介護職員が仕事を辞める理由を確認すると、世間でよく言われる「収入が少ない」が上位に入っています。しかし介護報酬改定でここ数年、賃金が上昇していることもあり、必ずしもトップではありません。離職理由の1位は、職場の人間関係の問題。2位は事業主や施設の理念や運営方法への不満でした。つまり、「介護」の仕事に熱意を持って働き始めた人が、理想と現実のはざまで苦悩されているのです。

今回策定した計画には、さまざまな人材対策を盛り込みました。人材確保については、介護の仕事を望む若者を積極的に支援していきます。在学中に奨学金の貸与を受けた新卒者を雇用して、雇用者が被雇用者の奨学金返済のために相当額を支給した際、事業者を補助する仕組みなどを整えています。そして、職場環境の改善として、介護職員の業務負担の軽減を図るため、ICTや介護ロボットの活用を推進していきます。また、処遇改善として、介護職員の方が将来を見据えて働いていくことができるよう、キャリアパスを導入する事業者を支援してきました。18年度からは、その取り組みをより一層進めるため、キャリアパスを導入した結果、人材の定着が図られた事業者への支援を充実します。

■認知症高齢者と家族を、いかに支えるか

都が重点的に取り組んでいる認知症対策についても、ふれさせてください。先日、朝丘雪路さんが亡くなられました。認知症を患っておられたそうで、津川雅彦さんが懸命に介護されたのだろうとお察しします。

しかし、この問題は他人ごとではありません。認知症を抱える都内の高齢者は、25年には約56万人に達すると見込まれています。彼らと家族をどう支えればいいのでしょうか。

現在、認知症高齢者の約6割は自宅で生活しています。認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる仕組みを整えていく必要があります。都は、研究機関の知見を活用して先駆的な2つの取り組みを開始します。

1つ目は、高齢者が多く居住する大規模団地などにおいて、認知症の人や家族、地域住民が交流できる拠点を設ける区市町村を支援し、「認知症とともに暮らす地域づくり」を進めます。もう1つが、妄想や暴言、介護拒否など認知症に見られる行動・心理症状、通称「BPSD」の改善を図るケアプログラムの普及です。スウェーデンで評価の高いプログラムを参考に、日本版として開発・導入したもので、「BPSD」症状をオンラインのシステムに入力して数値化。そのデータを基に、症状の背景にある利用者のニーズやケアの視点を職員間で共有し、たとえば「ゆっくり話す」など、チームでその人に合ったケアを実施します。その結果、2カ月後には認知症に見られる妄想といった症状が落ち着くなど、多くの事例で症状の改善や出現頻度が減少する成果が見られています。18年度から、参加する事業所の募集や支援を行う区市町村との連携・協力を進めて、今後、都内全域への普及を目指してまいります。

■母を看取る中で、考えたこと

実は私も、数年前に両親を看取りました。父は特養で、母は自宅で最期を迎えました。母は大変な愛煙家で、最期まで煙草で一服しながら、大好きなすき焼きをつつき、旅立っていきました。今でも母がベッドから下りた合図でチャランチャランと鳴る音が、耳にこびりついています。あの音が鳴るたびに、私は2階から転がり落ちるように母の元へ駆けつけたものです。自宅で母を看取る中で、地域包括ケアシステムをどう構築していけばよいのか、私は利用者の立場から考えました。

今後、都では地域包括ケアシステムをさらに肉付けしていきます。都が目指すイメージは、適切な住まい、医療、介護といった専門的なサービス、住民を主体とする介護予防や生活支援サービスが一体的に提供されるシステムです。「人生100歳時代」に向けて、これまでの社会福祉に斬新な新しい切り口を加えて、みんなが光り輝いて人生を全うしていく、そのような東京にしていきたいと考えています。

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小池百合子(こいけ・ゆりこ)
東京都知事
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。

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(東京都知事 小池 百合子 構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦 写真=iStock.com)

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