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富裕層がシンガポールに親子留学する理由

プレジデントオンライン / 2018年9月17日 11時15分

シンガポールのインター校「Dulwich(ダルヴィッチ)」の外観

アジアの富裕層がシンガポールに集まりつつある。目的のひとつは、この国の「教育」だ。シンガポールは驚異的な“高学力国”。15歳児を対象にした国際学力テストでは、調査対象の3分野すべてで世界首位となった。どんな教育が行われているのか。現地在住のファイナンシャル・プランナー、花輪陽子氏が解説する――。

■数字で分かるシンガポールの学力の高さ

英国の教育専門紙が2017年9月に発表した「世界大学ランキング」によると、シンガポール国立大学は全世界の大学の中で22位とアジア首位に位置しており、日本の最高峰である東京大学(46位)より高い順位になっています。

また15歳児を対象にした国際学力テスト(PISA 2015年)では、シンガポールが科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシーの3分野すべてで世界首位。一方、日本は科学的リテラシー2位、読解力8位、数学的リテラシー5位でした。

これだけ学力が高い理由は、国家予算の約20%を教育に投じている(日本は5.5%)うえに、各家庭でも子供への教育投資を惜しまない文化があるからです。

シンガポール国民の多数を占める中華系には「倹約をして、次世代のために惜しみなく投資をする」という言葉があります。明晰な頭脳を手に入れることができれば、お金は後から作ることができるという考え方なのです。シンガポールの政治家で初代首相を務めたリー・クアンユーも「シンガポールの最大の強みは人材」と考えており、教育のゴールは国を作る指導者や管理職の確保で、早期から成績別で生徒を選別して学校のコースを分けています。

■幼少期から英語と中国語のバイリンガル教育

ローカルの保育園や幼稚園でも幼少期から英語と中国語のバイリンガル教育は当たり前でAI時代に欠かせないプログロミング教育が充実している学校もあります。4歳児からそろばんを習ったり、中国語の書き取りの宿題が出たりして親も大変ですが、日本人の家庭で育った子供でも中国語が話せるようになります。

ローカルの保育園の料金は月10万円前後で、朝7時から夜7時までといったように長時間預かってもらうこともできます。追加料金を払えば、バレエや音楽の授業を受けられる園もあるほどです。両親が仕事をしている間にしっかり学習をさせてくれるので安心して仕事に専念できるのです。

『「学力」の経済学』(中室牧子著、ディスカヴァー・トゥエンティーワン)によると、「もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)」とのことです。早期に得たスキルやしつけなどはその後の人生で長い間役に立つことになるからです。

ベースになる語学に関しては早期から行うほうがそのスキルを活かしてディスカッションやプレゼンテーションをしたり、論文を書いたりするなどの機会が増えます。実際にシンガポールで教育を受けている4歳のわが子も英語と日本語のバイリンガルで、日常会話は両言語で支障なく話せます。中国語も簡単な単語などは話すことができています。

また、大人と対等な会話をするようになるので子供を日本に連れて行くと驚かれることがよくあります。1歳からシンガポールで育っているので、日本語を話すものの感覚が半分外国人だからでしょう。

■2歳児の英語力は「天気について話し合う」レベル

日本でも2020年の教育改革が話題になっていますが、それでも語学教育などかなり後れを取っていると言わざるを得ないでしょう。「天気について英語で話し合う」といった基礎的な英語は、シンガポールの教育では2歳児レベルの内容なのです。3歳児くらいからは歌などで中国語も学びます。シンガポールでは英語と中国語をベースにして、これからどうやってIT教育を行っていくのかを議論している段階です。すでにIT教育のプログラムも幼児教育の中で実践しています。

「AI時代の教育について」がテーマの保護者と学校との会合や富裕層の会員クラブの催しに参加したことがあるのですが、「弁護士も職を失うAI時代にどのようにして子供たちを育てていけば良いのか」について、世界中から来ている人々が活発に意見を出し合い、議論をしました。シンガポールの魅力の一つに“ダイバーシティ”があります。

今すぐ解決できないような問題を、世界中からシンガポールにやってきた人たちと話し合って考えることが可能になります。また、シンガポールにある私立校は特に教育改革のスピードが速く大胆な改革を頻繁に行います。日本の教育は元々シンガポールより遅れている上にゆっくりしか変わっていかないので、今後はさらに後れを取るように感じます。

シンガポールでは小さな頃から読み聞かせを行い、小学生低学年では英語のペーパーブックを朗読するレベルになっています。中国語に関しても中華系が多いシンガポールでは家庭教師を雇うことも容易なので、両親が中国語を話さない家庭でも努力次第で習得が可能です。そうした魅力から日本も含めて世界中から親子留学が急増しているのです。特に中国やインドからの母子や親子留学が多いです。シンガポールは治安も良く、祖国からのアクセスも良く、教育レベルが非常に高いという理由が挙げられます。シンガポールにあるインター校(外国人向けの私立校)の教育は「与えられたテーマに対して子供たちが調べてきて発表する」というスタイルです。ローカル校は日本と同様の詰め込み式で、「優秀なロボットを作る教育だ」と揶揄されることもあるものの、早期からの語学や理数やIT教育などは進んでいます。

■外国人向けのインター校は東京よりも充実

シンガポールは東京23区と同程度の国土に20校以上のインター校があります。教育熱心な家庭が多く、教育のレベルは非常に高い。また、多くの学校では日本人の割合が非常に低く、子供も英語を話さざるを得ないため、英語力が自然と身につきます。ほとんどの学校からスクールバスが出ており、遠くても1時間以内で通学できるため、選択肢はとても多くなります。

日本には英語で授業を行うインター校が20校以上あります。しかし東京都内のインター校は10校(世界共通の大学入試資格である国際バカロレア(IB)の認定校数、一条校を除く)とシンガポールより少なく、また都内(23区外を含む)の面積はシンガポールより広いので、東東京から西東京までバスで移動ということはむずかしいでしょう。そのため、自宅から通える範囲で考えると選択肢は限られます。また、日本人の割合は全体で約4割と高くなります。

日本では、学校の受け入れ以上に希望者が多いので全ての人が希望の学校に入れるわけではありません。シンガポール同様に富裕層の多い香港も学校の受け入れが需要に追いついておらず、希望校に入るのが非常に難しいと聞きます。その点、シンガポールでは学校の数も多いので、希望に近い学校を選ぶことが可能になります。

シンガポールではさまざまな国の駐在員が生活しているため、日本、米国、オーストラリア、カナダ、インドなど、多くの国の学校があります。とはいえ、かつて英国領だったこともあり、シンガポールでは英国系インター校が目立ちます。

国際バカロレアとそれにつながる小・中・高校生の教育プログラムを取り入れたスクールも多く、さまざまな国の大学試験制度に対応も可能です。

■多様な発想を生み出す教育

インター校の多くは3歳前後から18歳までの一貫制で、大学入試までは受験の心配もないため、のびのびと好きなスポーツや音楽、アートなどに打ち込むことができます。語学教育は英語に加えて中国語かスペイン語を第二外国語で低年齢から学べる学校が多いです。

また、放課後のアクティビティーも充実しています。多いところでは数百のアクティビティーを用意しており、学校側も家庭もそれを全力でサポートをします。

日本の教育は均質的な人材を育成することに優れていますが、シンガポール、特にインター校の教育は多様な発想が出てくるようなスタイルです。夏休みも2カ月程度と長く、その間にキャンプや自然体験といった体験型の学習を提供する学校もあります。

■「日本の公立校と同程度」の金額で教育を受けられるケースも

子供にシンガポールで教育を受けさせる場合、現地の公立校に通わせるか、インター校に通わせるかで、大きく金額が変わってきます。

公立校の場合、シンガポール国民と永住権保有者(PR)が、学費や学校の選択の面で優先されます。永住権を保有できれば、日本でオール公立コースとそれほど変わらない金額で、公立校に通わせることができます。英語と中国語の教育を受けられることを考えるとローカル校も魅力的です。外国人価格の場合でも日本で私立学校に通わせる程度の金額になります。ただし、ローカルスクールはシンガポール人が優先されるので、好みの学校を選ぶのは難しいです。

インター校の学費は年約250万円(ホリデープログラムなどを除く)で、日本のインター校と同程度になります。インター校の中でも日系の学校は金額が安めです。また、最近は割安授業料をうたうインター校が複数できたので、選択肢も広がりました。一部の名門校ローカル校では留学生向けのローカルインター校を用意しています。ローカルインター校も一般的なインター校より学費が安めです。

■MBA取得の費用も欧米の半額程度

幼少期から母子もしくは親子留学でとなると学費や生活費がかさみますが、中学生程度の年齢からは、子供だけで留学ができるインター校やローカルインター校もあります。

MBA取得にかかる費用は500万円程度からで、欧米の学校に比べると半額程度となっています。大学院からシンガポールで学び、そのまま就職するという道もあるでしょう。就職をするのも欧米と比べると比較的簡単です。私の夫も働きながらエクゼクティブMBAコースで学んでいますが、平均年齢も高く社会人の学び直しにはとてもよいようです。ここでしか手に入らない人脈、チャンスがあるので、人生のどこかのタイミングで海外に出て学ぶという選択肢も入れるとよいのではないでしょうか。

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花輪陽子(はなわ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP認定者
1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後、FPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)など著書多数。テレビ出演や講演経験も多数。

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(1級ファイナンシャル・プランニング技能士 花輪 陽子)

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