節約目的で母親を自宅介護する一家の末路
プレジデントオンライン / 2018年12月8日 11時15分
■考えるべきは「いくらかけられるか」
「冷たく感じるでしょうが、親の介護費用を子が負担するとなると相当な余力がないと共倒れします。年収300万~400万円クラスの人に限らず、基本的には親が保有している財産の範囲内でカバーするべきです」
こう話すのは介護の現場経験もあるファイナンシャルプランナーの長崎寛人氏だ。所得の多い世帯は多いなりに、少ない世帯は少ないなりの家計で生活は回っており、親の介護費用を捻出するのは容易ではない。
親の資金を介護資金に充てるには、まずは親の懐事情の確認が必要だ。「生活にムダがあれば指摘をし、遊んでいる資産は上手に運用させたり売却するなど、マネー管理に注意が必要です」(長崎氏)。
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渡辺さん一家 世帯年収340万円
夫:55歳 契約社員 年収340万 妻:53歳 専業主婦 貯金●1300万円
業績悪化のため定年間近で早期退職を決断。知り合いに頼み、何とか契約社員として再就職。妻に働いてもらいたいが、夫の母親の介護で働けない。老親を預けたいが、老後を考えると貯金額は十分ではなく、自分たちで介護するほうが節約になると考えている状況。
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介護費用の平均月額は、公的介護保険の費用も含め在宅介護で約6万9000円(家計経済研究所)だが、在宅介護の最大のポイントは介護保険の利用限度額を死守できるかにかかっている。
遠距離介護を支援しているNPO法人パオッコ理事長の太田差惠子氏は「どのような介護サービスを必要とするかは要介護者と、その家族が選択すること。『いくらかかるか』ではなく、『いくらかけられるか』を考えるべきです」と指摘する。
介護の必要度が高まるにつれ、介護にかかる費用はふくらむのが一般的だ。公的介護保険サービスの利用者の負担を軽減させるものとして、自己負担額の合計が一定の上限を超えたときに払い戻される「高額介護サービス費の支給制度」や1年間に払った医療費と介護費を合計した額が一定の限度額を超えたときに払い戻される「高額医療・高額介護合算療養費制度」がある。
介護では「施設介護」も大きな選択肢のひとつ。親の介護に追われ、妻は働きに出られないうえに、介護疲れに陥るケースも多い。できれば自宅で看てあげたい、と考えていても限界はあるもの。そこで、施設に入所させようとしても、生活保護を申請するほどではないものの有料老人ホームに入れるほどの経済力に乏しく、子どもに支援するゆとりがない場合はどうしたらいいのか。
「施設入居は無理」とあきらめる必要はない。高齢者施設には有料老人ホームなど「営利」を目的にしたものと、「福祉」が目的の「介護保険施設」といわれる「特別養護老人ホーム(特養)」や「介護老人保健施設(老健)」などがある。
【特別養護老人ホーム(トクヨウ)】
●対象:要介護3~
●料金目安:5~15万円/月
常に介護が必要で在宅での生活が困難な高齢者が対象。食事・排泄・入浴など日常生活の介護やリハビリが受けられる。
【介護老人保健施設(ロウケン)】
●対象:要介護1~
●料金目安:6~17万円/月
病院と自宅の中間施設。医学的な管理のもと、リハビリで在宅復帰を目指す。特養の待機に利用する人も多い。
【介護療養型医療施設(リョウヨウガタ)】
●対象:要介護1~
●料金目安:6~17万円/月
急性期の治療が終わり病状は安定し、長期間の療養が必要な高齢者が対象。医療施設(病院)なので医学的ケアが手厚い。
【ケアハウス】
●対象:一般型……身の回りのことができる人
●介護型……要介護1~(一般型は+介護費)
●料金目安:8~30万円/月
家庭環境や経済状況などで自宅での生活が困難・不安のある高齢者が対象。「一般型」と介護体制の整った「介護型」ある。
※太田差惠子氏の話をもとに作成
「これらの施設には、入居者の所得などに応じて軽減制度があります。介護保険で『特定入所者介護サービス費』として居住費と食費の減額を受けることができます。居室にもよりますが、年金受給は国民年金だけという親でも支払えるくらいの額になります」(太田氏)
■特養入所希望なら、親との同居は慎重に
ただし特養で利用者負担が軽減されるのは、本人と同じ世帯に住む人全員の所得が低く住民税が非課税などといった条件がある。親が2人暮らしの場合、母親が非課税でも父親が課税対象だと補助を利用できない。が、国民年金だけであれば満額支給で約78万円なので非課税の条件を満たす。預貯金は、単身は1000万円以下、夫婦なら2000万円以下でないと補助を受けられない。軽減措置を受けると施設サービス負担額の目安は国民年金受給者で5万円程度になるケースもある。特養への入所対象は原則として要介護3以上だが、申し込みをしても待機者が多く、入居まで3~4年以上かかる場合もある。
「全国の特養が混んでいるわけではなく、空きがあるところもあります。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談して、多少遠方でも選択肢となるところがないか調べてもらうといいでしょう」(太田氏)
特養でのサービスを受ける必要性が高いと認められると優先的に入所できるよう自治体ではポイント制の判断基準を策定している。太田氏が話を続ける。
「通常、要介護度は軽度より重度を優先します。身近な介護者の有無も大きな要素になります。同居の介護者が要介護3以上の場合、さらに県外に暮らしている場合のポイントが高くなる自治体が多い。将来的に親の特養入所が選択肢となるのであれば、同居は慎重に考えたほうがいいでしょう」
長崎氏も特養に入るコツをこうアドバイスする。
「入居申請書の特記事項に緊急性など、入所しなければならない切実な事情をきっちり書いてアピールする。特養の新設情報収集も大切です。募集枠が広いので入所しやすくなります」
ところで特養入所までの待機期間中はどうしたらいいのか。基本は在宅待機。経済的余裕があれば有料老人ホームなどに入居することになるが、ほかの選択肢もあると太田氏は話す。
「老健を特養の待機に利用するケースが多いのも実情です。自宅復帰を目指す人がリハビリを受ける施設ですが、原則3カ月の限られた期間だけ利用できることが多く、空きが出やすい。推奨されるものではないが、老健を転々として空きを待つという手もあります」
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金融機関、介護施設勤務から介護に特化したFPに。
FPで遠距離介護を支援するNPO法人パオッコ理事長。
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(ジャーナリスト 吉田 茂人 撮影=永井 浩)
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