学校ではOKだが校外はNGな"体罰"の範囲
プレジデントオンライン / 2019年2月25日 15時15分
■学校では「懲戒」が認められている
2017年の後輩力士への暴力事件で元横綱・日馬富士が引退したが、18年も日大アメフト部の悪質タックル指示、体操の宮川紗江選手へのコーチの暴力など、スポーツ界の不祥事が相次いでいる。原因の1つとして考えられるのが、日本のスポーツが学校教育の部活動と結びついていることだ。
じつは学校の校長や教員は、教育上の必要があると認められる場合、児童や生徒に懲戒を加えることが認められている(学校教育法第11条)。東京都「体罰の定義・体罰関連行為のガイドライン」によると、「腕をつかんで連れて行く」「頭(顔・肩)を押さえる」「体をつかんで軽く揺する」「短時間正座させて説諭する」といった行為は懲戒の範囲内だ。
これらを超える行為は許されないが、「軽く」や「短時間」は程度問題で、基準がはっきりしない。懲戒権が拡大解釈され、なかば確信犯的に体罰が加えられてしまう。
指導の現場で懲戒権が認められているのは学校の校長と教員だけだ。スポーツ関連案件を多く手掛ける合田雄治郎弁護士は、こう解説する。
「町のスポーツクラブの指導者に懲戒権は認められていません。部活動なら懲戒の範囲に入るとされる行為でも、学校教育外では不適切な許されない行為となる可能性があります」
ところが、スポーツクラブの指導者は部活動出身者が多く、学校教育外にも部活動の手法を持ち込みがち。結果としてスポーツ界全体に体罰が広がってしまった。
「学校教育の現場で懲戒が必要であることはある程度理解します。しかし、校外のスポーツ指導は教育ではないのだから、指導者が教え子を懲らしめるのは筋違いでしょう」
■未成年者による体罰への「同意」
体罰については難しい問題がもう1つある。体操女子の宮川選手はコーチから暴力的な指導を受けていたが、本人はそれを受け入れて、告発はしなかった。本人の同意があっても、やはり体罰を伴う指導はいけないのだろうか。
暴力は刑法上の暴行罪で、暴行して相手にケガを負わせたら傷害罪だ。ただ、被害者本人の同意がある「同意傷害」については学説が分かれており、違法ではないとする説も根強い。
問題は、宮川選手のように被害者が未成年のケースだ。判断能力が未熟な未成年の同意を、どこまで本当の同意として扱っていいのか。合田弁護士は「未成年の自己決定権も重視すべき」と前置きしつつ、次のように話してくれた。
「一般論として、暴力を受けた瞬間に被害者が同意しているとは思えません。のちに競技でいい成績を残すようになって、自分を納得させるために言っているだけでしょう。また、周りや社会に与える悪影響を考えても、同意があるからといって暴力を認めることは相当ではありません。関係各所が後見的に介入する必要があるのではないでしょうか」
(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士 合田雄治郎 写真=時事通信フォト、iStock.com)
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