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三井不動産が"台湾のツタヤ"を呼んだ理由

プレジデントオンライン / 2019年1月2日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mbtphotos)

2019年秋、三井不動産が東京・日本橋に商業施設「コレド室町テラス」を開く。目玉は台湾から初上陸する「誠品生活」。米タイム誌で「アジアで最も優れた書店」に選ばれた店で、蔦屋書店のモデルといわれている。この記事のために台湾を訪ねた経営コンサルタントの竹内謙礼氏は「誠品生活は体験型の店作りに特徴がある。これなら『また蔦屋書店か』とは思われないだろう」と分析する――。

■「蔦屋書店のパクリじゃないか」

2019年の秋、日本橋に「コレド室町テラス」がオープンする。地上26階、地下3階の低階層ビル。そのうち商業施設が占めるのは地下1階から地上2階まで。約30店舗のテナントが入る予定で、“目玉”として注目されているのが日本初上陸となる台湾の「誠品生活」である。

書籍の販売を中心に、雑貨、食品、アパレル品を販売し、レストランなども備える。店内では木工教室や革製品作りなどのワークショップが開催されて、買い物以外の“コト消費”を狙ったイベントも多数開催されるという。

このコンセプトを聞いた時、私の頭の中を「蔦屋書店」がよぎった。書籍を中心にさまざまな商品を取り扱い、店内で有意義な時間の過ごし方を提案する手法は、まさに蔦屋書店そのもの。「パクリじゃないか」と一瞬思ったが、それもそのはず、実は蔦屋書店のほうが誠品生活を参考にして作られた店舗であり、蔦屋書店のベースとなっているのが誠品生活なのである。

それならコレド室町テラスに出店するのは「蔦屋書店でいいじゃないか」と思った。聞くによるとコレド室町のデベロッパーの三井不動産は、誠品生活を日本に誘致するために4年の歳月をかけたという。そんな大変な思いをするのであれば、蔦屋書店を口説いたほうが、話が早いのではないか。

■台湾の誠品生活に行ってみた

なぜ、蔦屋書店ではなく、わざわざ台湾から誠品生活を誘致する必要があったのか。2~3日悩んだが結論が出ないため、思い切って台湾の誠品生活に行くことにした。年末の仕事に追われていることもあって、取材に捻出できたのは1日のみ。朝5時羽田空港発の夜中1時帰りの日帰り弾丸取材。原稿料から交通費を差し引けば大赤字である。なんでこんな原稿執筆を引き受けてしまったのかと後悔しながらも、自宅を朝2時にクルマで飛び出して羽田空港に向かうことにした。

台湾の桃園国際空港に到着したのは午前9時半。そこから電車に乗り継いで1時間ほどのところに誠品生活松菸店はある。1階はアパレルの販売店、2階が生活雑貨、3階が書店といった構成。正直なところ、雰囲気は二子玉川にある蔦屋家電と変わらない。元祖が誠品生活のほうだと知らない人が見たら「ここって蔦屋書店だよね?」と言ってしまうぐらいそっくりである。

■ワークショップに飛び入り参加

しかし、ひとつだけ決定的に違うところある。それは、ワークショップの充実ぶりだ。木工教室や革製品作り教室、台湾茶の体験やキッチン用品の体験など、内容はバラエティーに富んでいる。もちろん、一部の蔦屋書店でもワークショップは定期的に開催されている。だが、イベントの数と、予約なしでいつでも気軽に参加できるハードルの低さは誠品生活のほうが上である。

試しに日本円で1500円ほど支払って木工教室に飛び入り参加してみたところ、これが思いのほか面白かった。スタッフにカンナの使い方を教わりながら、40分ほどで「箸作り」を体験した。片言の英語ながらコミュニケーションを取って教わるワークショップは満足度の高いものだった。これなら働き方改革で早帰りする丸の内のOLやサラリーマンを集客するための、新たなコンテンツになると言える。

■アジア圏の「青空市場」を思わせる

その後、施設内をぐるりと回ってみたが、売られている商品だけでいえば、蔦屋書店も誠品生活も大きく違いはなかった。しかし、蔦屋書店がくつろげる空間を提案するのであれば、誠品生活はくつろぎながら、なおかつ参加もできる空間を提供していると言える。三井不動産が「誠品生活を日本橋に足りなかった、滞在型のサードプレイスにしたい」と言っていた意味をここでようやく理解することができた。誠品生活は売り手側と買い手側がコミュニケーションを深める仕掛けづくりができているので、自宅や職場以外の“第三の居住区”という言葉に適していると言える。

他にも、気づいた点は多々ある。一つは誠品生活のほうがアジア圏の訪日客と相性がいいのではないかという推測だ。蔦屋書店は地域のお客さまを満足させる品ぞろえになっているせいか、質感のよい商品をセレクトしている印象である。対して、誠品生活のほうが、取り扱っている商品ひとつひとつが尖がっている。よく言えば個性的、悪く言えば雑多。この整理されていないごちゃごちゃ感は、アジア圏の青空市場を想像させてお客さまをワクワクさせる面白さがある。インスタ映えの面から見ても、誠品生活のほうに分がある。東京駅周辺に観光にやってきた訪日客が、コレド室町テラスまで足を伸ばす可能性は高いと言える。

■東京駅周辺の人の流れを変えるかもしれない

東京駅周辺の商業施設と差別化を図る意味でも、日本橋に誠品生活を持ってきたのはベストチョイスと言えるだろう。コレド室町テラスが、ブランド品や高級品を取り扱うテナントを集めてしまうと、東京駅の反対側にある丸の内の商業施設とバッティングしてしまう。また、同じエリア内にある三越とも客層がかぶってしまう恐れも出てくる。そこで、あえて体験型の「買わない」ことを目的とする誠品生活を迎え入れれば、コト消費に興味を持つ若い世代を惹きつけて、東京駅周辺の人の流れを大きく変えることができるかもしれない。

また、蔦屋書店というコンテンツの賞味期限も、今回の誠品生活の誘致に大きな影響を与えているように思われる。代官山に蔦屋書店がオープンした際は大きな注目を集めたが、さすがにこれだけ全国に乱立してしまうと、蔦屋書店が集客力のある真新しいコンテンツとは言いにくい。

仮に新しくオープンするコレド室町テラスに蔦屋書店ができると言われても、トレンドのアンテナが高い丸の内のOLやサラリーマンには、「また蔦屋書店か」と思われてしまっても致し方ない。手ごわい消費者が集まる日本橋だからこそ、あえて鮮度の高い誠品生活を持ってきたところは、三井不動産の商業施設運営のうまさを感じさせるところでもある。

■長期休暇シーズンに対応できるか

ただ、ひとつだけ気になるのは、このワークショップ型の店舗が、果たしてどれだけコレド室町テラスの顧客作りに貢献できるかという点である。コレド室町テラスが完成していないのでなんとも言えないところではあるが、ひとつのワークショップが1回でさばける客数はせいぜい5~10人程度。夏休みなどの長期休暇シーズンになると、魅力的な体験教室に子供たちが集まる可能性は高いと言える。

そうなると、7月から8月にかけては予約でいっぱいになり、本来の主目的となっていた丸の内のOLやサラリーマンが参加できなくなってしまうことも考えられる。シーズンによって客の流れを一時的に絶たれてしまうことは、顧客離れを引き起こす恐れが出てきてしまうかもしれない。

■魅力的なコンテンツ作りと情報発信がカギになる

また、同じ施設でいろいろなワークショップを体験できるのが誠品生活の魅力でもあるが、反面、このような体験教室は利用者が一巡してしまうと、飽きられてしまうのが常である。そうならないためにも、魅力的なコンテンツ作りや情報発信を行っていかなくてはいけないのだが、お客さまを「楽しませること」よりも「買わせること」に重点を置いてきた三井不動産が、コト消費の魅力づくりの対策ができるのかどうかは、未知数と言える。

特に三井不動産は立地の良いところに施設を立てて集客したり、アウトレットの安さで集客したりする術にはたけているが、コンテンツ作りやSNSなどの情報発信による集客戦略には不慣れな印象がある。三井不動産がどのようなブレーンを抜擢して誠品生活を回すのか、その点が長期戦略を考える上での勝負の分かれ目になるのではないか。

■今後の商業施設のあり方を占う存在

このように考えると、誠品生活の日本進出は、今後の商業施設のあり方を占う大事なターニングポイントにもなりそうである。サブスクリプションやシェアビジネスなどの「買わない消費」が主流になる昨今、果たして「買わせる消費」を主体としてきた商業施設がどのような策で生き残っていくのかが見ものだ。

ここ数年、どこの商業施設もコト消費を狙った販促を仕掛けているが、実際にコト消費をマネタイズ化した事例は少ないのが実情。誠品生活は日本に新しいコト消費の姿を見せてくれるのか、それとも、ワークショップが集客のコンテンツとして機能せず、消費者が誤解して“誠品生活は蔦屋書店のパクり”と揶揄されるようになるのか。どちらにせよ、2019年の秋は、日本橋周辺の商業施設が熱くなることだけは確かなようである。自腹で台湾まで来た甲斐はあったと言える。

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竹内謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼 写真=iStock.com)

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