No.1アプリ作成者が東大を"捨てた"事情
プレジデントオンライン / 2019年1月15日 9時15分
■開成時代に東大で、ロボット研究を発表
【田原】深澤さんは現役東大生の起業家だそうですね。いま大学に行って授業は受けているんですか?
【深澤】いえ、休学しっぱなしです。
【田原】高校は開成。当時はどんなことに興味がありました?
【深澤】高校のころはプログラミングをしていました。マイコンという小さなチップにプログラムを書きこんで、電子ゲームやロボットをつくっていました。
【田原】ロボット?
【深澤】東大の研究プログラムに参加して、二足歩行のヒューマノイドロボットにモーションキャプチャーで人間の動きを真似させるプログラミングをしていました。当時、人間の関節などの動きを撮るモーションキャプチャー用のカメラで安いものが出始めていて、それを使っておもしろいことができないかなと。
【田原】真似をさせるって、どういうことですか。学習させるの?
【深澤】いえ、人間が動いてリアルタイムに真似させます。それができれば、人間が入れないところにロボットを入れて、そこで自分が動いているかのようにロボットに作業させることもできる。その小さな実験みたいなものでした。
【田原】実験はうまくいったんですか?
【深澤】最終的には、東大のキャンパスで発表までしました。
【田原】そして大学は東大の理科一類に入る。起業するなら行く必要なかったと思うけど、どうして東大に?
【深澤】うーん、それは流されたというか。当時は、将来的に何をやっていったらいいかがよくわかってなかったんです。まわりが東大に行くので、僕もそのまま行っておこうかと。
【田原】理一を選んだのは?
【深澤】もともとものづくりは好きだったので。数字とか理論が学べるところがいいだろうと思いました。
【田原】東大に入って、東大無料塾をつくったそうですね。これはどういうものですか?
【深澤】高校生を相手に、無料で授業を行う塾です。既存の教育で教えられない指導要領外のものを自分の興味に従って学べる場所をつくりたくて、1年生の8月につくりました。
【田原】既存の教育で教えられないものって何ですか? 具体的には。
【深澤】たとえばプログラミングですね。生徒がウェブサービスをつくりたいと思ったら、それができるように教えてあげる。べつにプログラミングに限らなくて、とにかく共創的な教育の場をつくりたかったんです。
【田原】生徒や先生は何人くらい集まったんですか?
【深澤】生徒は50人です。教えるのは東大生のボランティアで、10人くらいいました。
【田原】週に何回くらいやるわけ?
【深澤】いちおう、毎日営業していました。全員が毎日来るわけではなくて、自習室的な使い方で生徒が来ていました。
【田原】うまくいきましたか?
【深澤】いえ。高校生側は大学に入るための勉強をしたかったようで、補習塾のようになってしまいました。それは僕たちがやりたかったことと違う。理想と現実がバラバラになってしまったので、半年後の3月くらいに解散しました。
【田原】そうですか。ギャップを埋める方法はなかったのかな。
【深澤】塾を生徒のニーズを満たすものにするのか、あるいは逆に生徒たちをガラッと変えるのか。どちらかだと思いますが、無料塾という運営形態のままで、そのどちらかができるという気がしませんでした。
【田原】その後、freeeというベンチャー企業でエンジニアをやる。freeeの佐々木大輔社長とは、この連載で対談をしました。そこでは何を?
【深澤】中小企業などのスモールビジネス向けにクラウドの会計ソフトをつくっている会社で、僕は仕分けをするフォームだったり、ユーザーインターフェースをつくっていました。2013年から15年にかけて、合計で1年半くらい働きました。
【田原】その間、大学には?
【深澤】全然行ってなかったです。無料塾のときからそうだったので、東大生といっても名ばかりですね。
■満たされない欲求を、アプリで埋めていく
【田原】16年にAppBrewを立ち上げる。これはどういう会社ですか。
【深澤】いまAppBrewは化粧品のクチコミアプリ「LIPS」を提供しています。LIPSは200万ダウンロードを突破しました。化粧品情報アプリではナンバーワンです。ただ、会社として化粧品に特化しているわけではありません。目標は、多くの人に使われるプロダクトを再現性を持ってつくること。コンシューマーに広く使われるものをいくつもつくりたくて、LIPSはその1つです。
【田原】コンシューマーに求められるのは、たとえばどんなもの?
【深澤】それがけっこう難しくて……。
【田原】もちろんそうでしょう。それをどうやって見つけるんですか。
【深澤】社会の歪みというか、既存のもので不便なところや、満たされてない欲求を見つけて、それに対して、これがあれば満たせるんじゃないかというプロダクトをつくり、仮説と検証を繰り返すしかないのかなと。
【田原】化粧品の情報は、みんな満たされてなかったんですか。深澤さんは男性だけど、どうしてそれに気づいたの?
【深澤】僕というより、共同創業者の松井友里の気づきですね。彼女が「いまある化粧品の情報サイトでは、私の欲求を満たすものがない」といって、それを解決したいというところからスタートしました。
【田原】既存の情報サイトのどこが不満なんですか。
【深澤】ユーザーが信頼できる情報と出合えないんです。たとえば化粧品情報最大手のサイトは、商品にいっぱいレビューがついていますが、ユーザーにとってはあまり参考にならない。
【田原】どういうこと? 商品の内容や値段が書いてあって、そこにウソがあるということですか。
【深澤】いや、商品がランキング順に並び、商品ごとにレビューがたくさん書いてあるのですが、そのレビューが自分に役立つものかどうかがわからないんです。最大手サイトに限りませんが、従来の化粧品情報サイトは、誰がそのレビューを書いているのかがわかりにくい。だから、ユーザーから見て、信用できるかどうかわからないんです。
【田原】深澤さんはその不満をどうしようとしたんですか?
【深澤】どんな人が書いているのか見える形で使えるサイトをつくろうと思いました。たとえば20代女性で乾燥肌が悩みの人がいれば、同じく20代で乾燥肌に悩む人が書いたレビューをすぐ見られるようにしようかなと。
【田原】1つの化粧品についてレビューは何件くらいあるの?
【深澤】多いものだと1000件とか、1万件とか。
【田原】そんなにたくさんあったらぜんぶ読めないね。
【深澤】ですから、その人が求めているものが表示されるように機械側で振り分けています。いまニュースアプリを開くと、AIがその人に合った記事を選んで上位に表示してくれますよね。たとえば農家の人が開けば農業の記事、エンジニアが開けばプログラミングの記事が読める。それと同じことをしています。
【田原】20代の乾燥肌の女性が読んだら、同じタイプの人のレビューが上位に表示されるということ?
【深澤】たとえばそういうことです。
【田原】最大手のサイトは、それをやってないんですか?
【深澤】やってないです。基本的にランキングのサイトなので。
【田原】どうしてやらないのかな。ユーザーに合った情報を示すくらいなら、ほかのサイトだってできそうな気がする。どうですか。
【深澤】アイデアはみんな思いつきますが、それを形にすることがすごく難しいんです。僕たちは、そのつくりこみに強かった。
【田原】どうして深澤さんのところはつくりこみができるんですか。
【深澤】さっきAIといいましたが、そんなに大げさな話でなく、もっと基本的なところの違いだと思います。ユーザーがアプリをどのように使っているかをデータから把握して、プロダクトを改善する。僕たちは、そのサイクルをしっかり回せることが強みです。
【田原】でも、ほかの会社だってエンジニアがいるでしょう。なぜ大手ができなくて、深澤さんの会社ができたのかがわからない。深澤さんがエンジニアとして優秀だから?
【深澤】たぶんそうです(笑)。ただ、エンジニアとしてのスキルというより、ビジネス的な視点とエンジニアリングの両方を理解して開発を進めていくことが難しくて、それができているかどうかの違いかなと。
【田原】大手は分業制でビジネスサイドとエンジニアが分かれていて、両方の連携が取れていないんだ。
【深澤】おそらくそうだと思います。たとえばあるボタンに何%の人が気づき、何%の人が押したのか。僕たちは、そういったデータを開発チームの一人ひとりが把握して、そのファクトに基づいて改善していける。そこが一番の強みです。
【田原】いま社員は何人ですか。
【深澤】20人いて、12~13人がエンジニアです。
【田原】みんな東大生?
【深澤】いえ、そんなことはないです。僕と松井が休学中で、現役かつ社員の東大生が2人います。
【田原】大学にはいつか戻るんですか。
【深澤】うーん、意味がないとはいいませんが、少なくともいまの僕にとっては、そこに時間とお金を投資する必要はないと思っています。
【田原】ところで、LIPSのビジネスモデルはどうなっていますか。ユーザーは無料でしょう?
【深澤】化粧品メーカーからの広告費が収益源です。たとえば「この商品のプレゼントキャンペーンをやりたい」ということで広告費をいただいています。
【田原】広告費は相当もらえる?
【深澤】相当……、ほかの業界よりは大きい業界だとは思います。
【田原】というのも、いま広告の世界も変わってきていますよね。新聞や雑誌、テレビ、ラジオといったマス広告の効果が落ちていることにメーカーが気づいて、新しい広告の打ち方を模索している。その悩みに、深澤さんのアプリが応えられるんじゃないかと思って。
【深澤】化粧品メーカーも最近はデジタル広告に本気で力を入れ始めています。ただ、ブランディング広告ができる規模でコスメに特化しているインターネット媒体はほとんどない。唯一できるのが最大手のサイトですが、ユーザーの年齢層がやや高い。若い世代に向けてやりたいというメーカーが、いま僕たちを選んでくれている印象です。あるメーカーは、店舗から「このアプリを見て買っている若い人が多い」という情報を聞いて、うちに出稿してくれました。
【田原】LIPSのユーザー層は若いの?
【深澤】10代が約半分です。
【田原】なるほど。先ほど、ユーザー一人ひとりに合わせてレビューを表示するといいましたね。広告もそうやっているんですか。
【深澤】広告に関しては、現段階でそこまでやっていません。ただ、グーグルやフェイスブックのように個人データをたくさん持っている企業では、かなり前からターゲティング広告が行われている。僕らも最終的にはその方向でどんどんやると思います。
【田原】LIPSはアプリで1位。ウェブもあるんですか。
【深澤】はい。ただ、ウェブのほうはまだまだで、ユーザー数は最大手サイトの10分の1にも届いていません。アプリの拡大を進めると同時に、ウェブのほうでも近いうちに対抗できる規模にしたい。具体的には、この1年で2位まで成長させて、2~3年のうちに逆転したいです。
■FB、LINEを超える日本発のプロダクトを
【田原】ウェブで最大手を抜くには、どうすればいいんですか?
【深澤】アプリとウェブでは使われ方が少し違います。アプリは自分も投稿をして繰り返し使う人が多く、ウェブは見るだけで、よりライトに使う人が多い。ですから、アプリ側で投稿されたクチコミをウェブ側できちんと見せてあげること、つまり検索したときにアプリと同じように表示されるようにしていくことが大事かなと。
【田原】化粧品アプリのほかはどんなことをやっていきますか?
【深澤】どんなこと……。テーマに特にこだわりはありません。とにかく多くの人がものすごく長い時間使ってくれるものをたくさんつくっていきたいです。
【田原】いま温めているという新しいサービス、どういうペースで出していきますか?
【深澤】ありがたいことに、資金や仲間はどんどん集まってきているので、19年には次のサービスを出して、芽が出るところまで育てたいです。
【田原】化粧品アプリもまだ大きくなる可能性がありますよね。グローバル展開も考えていますか?
【深澤】あります。化粧品はアジアの市場も大きいので、まずそこから。
【田原】日本は人口減だからね。
【深澤】日本で月間ユーザー数が2000万人を超えるアプリは数えるほどしかなく、そのほとんどが外資系。海外にお金を吸い上げられて日本に何も残らないような状況です。国という単位を超えてグローバルに使われる新しいサービスをつくっていかないと、ますます取り残される。僕たちがその状況を変えていきたいです。
■深澤さんから田原さんへの質問
Q. いま気になる「世の中の歪み」は何ですか?
僕が気になっている歪みは2つあります。まず、グローバリズム。この30年世界でブームになったけど、ここにきて矛盾が噴出して、多くの国で反グローバリズムのトップが生まれた。アメリカはアメリカファーストを掲げて、イギリスはEU離脱です。最近は反グローバリズムから進んで、「民主主義が嫌い」という極端な人たちも増えてきた。こういった動きとどう向き合うのかが、今後の世界の課題でしょう。
国内に目を向けると、人口減少という歪みも無視できません。特に地方は人口減少のダメージが大きい。深澤さんは「世界で使われるサービスをつくる」といったけど、それが地方からも出てくることを期待しています。
田原総一朗の遺言:グローバリズムとどう向き合うか
(ジャーナリスト 田原 総一朗、AppBrew 代表取締役 深澤 雄太 構成=村上 敬 撮影=今村拓馬)
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