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"まるで祖父のコピー"安倍首相の公私混同

プレジデントオンライン / 2018年12月28日 9時15分

2018年12月25日、首相官邸に入る安倍晋三首相。(写真=時事通信フォト)

■一国の宰相が、祖父らのレガシーを追い続ける

安倍晋三首相は、母方の祖父が岸信介元首相、佐藤栄作元首相は大叔父、父は安倍晋太郎元外相、父方の祖父は衆院議員を務めた安倍寛氏……という華麗なる政治閨閥で知られる。そして、岸氏らが歩んできた道を踏襲しようとしていることも、しばしば指摘されている。

12月19日に外務省が公開した22本の外交文書を熟読すると、そのことがうかがえる記述が随所で見つかった。一国の宰相が、祖父らのレガシーを追い続ける、節操のなさが浮かび上がった形だ。

安倍氏の祖父・岸氏が憲法改正に執念を燃やしていたことは有名だ。達成はできなかったが、退陣後も「自主憲法制定国民会議」をつくり、憲法改正を実現するための国民運動の先頭に立ち続けた。

■「年来の主張である憲法改正を具体的にできる」

今回、新たに公表された外交文書では、岸氏は1957年6月の訪米を前に、当時のマッカーサー駐日米大使に対し、憲法改正にむけた「2段階構想」を伝えている。

同年5月10日の岸氏の発言要旨をまとめた「日米協力に対する日本政府の決意」によると、岸氏は共産主義勢力の伸張を阻止するため日米両国が「一層団結を強固にすべきである」と表明。日米が、中ソの「軍事力に対抗する備えをすればこと足りるというものではなく、彼らからくさびを打ち込まれる隙のないような心からなる両国協力関係をこの際確立しなければならない」と持論を展開。その具体的な方策として日米安保条約の改定などに取り組む決意を表明した。

衆院選、参院選は安保条約改定をした後で臨み「そうすれば両院とも憲法改正に必要な3分の2の多数を獲得できるであろうと思う。そうしてこそ初めて、自分の年来の主張である憲法改正を具体的に日程に上らせることができる」と予想している。

■「日米協力に対する日本政府の決意」という文章名

これが、反対論の根強い安保改定を実行し、その後で国政選挙に臨んで改憲を目指すという「2段階構想」。「日米協力に対する日本政府の決意」という文章名からして、当時の日本が今よりも対米従属だったことがうかがえるが、いずれにしても岸氏が、日米関係強化の文脈で憲法改正を位置づけていたことが分かる興味深い内容だ。

若干話は横にそれるが、この文書には岸氏が、民主主義政治の健全な発達のためには二大政党の存在が不可欠であると語っている点も目を引く。そして岸氏は、外交政策が尖鋭化している社会党内の左派ではなく、穏健な右派勢力が社会党の実権を握るようにしたいという趣旨の話もしている。

■「秘密保護法」を立法したい、空母がほしい

別の外交文書には、岸氏が同年6月に訪米してダレス国務長官やラドフォード統合参謀本部議長と会談した際、米国側から秘密保護についての法制化の打診を受けていたことが記されている。岸氏は「いずれ立法措置を講じたい」と応じている。

一九六〇年、岸氏が訪米する際に備えた「日ソ間懸案の現状」という文書に、いきなり冒頭部分に「日ソ平和条約問題は、領土問題をめぐり行詰り状態になっているところ、最近わが国内に歯舞、色丹、プラスアルファをもって本問題を解決し、平和条約を締結すべきであるとの議論が1部にみられる」という記載がある。

さらに、こうした意見が出ている背景には、ソ連側に国後、択捉両島に対する「潜在主義」を認めさせるなどすれば、まずは2島返還で手を打ってもいいとの考えてあると解説している。

もうひとつ。1969年の佐藤政権下、日米両国が安全保障問題に関する協議を外務省で開いた際、米側から日本が空母を持つ可能性を問われ、当時の板谷隆一統合幕僚会議議長が「もちろん欲しいということである」と応じている。

ただし板谷氏は「空母を防衛のためだけということで説明するのにいささか難点もある。かつて、ヘリ空母を作る計画を練ったこともあったが、経費がかかりすぎるので計画をながしたこともあり、今の時点では空母は考えていない」と、時期尚早との見方も示している。

■祖父、大叔父の悲願を着々とこなしている

賢明な読者の皆さんは筆者の言わんとすることに、お気づきだろう。外交文書で明らかになった祖父や大叔父の取り組みは、その時は実現しなかったが、ことごとく安倍政権下で実行に移されたり、実現が図られたりしているのだ。

安倍氏は2012年暮れに首相に返り咲いた後、13年12月、国民の知る権利を損なう可能性があるとの批判を受けながら特定秘密保護法を成立させた。

14年には日米安保体制を強固にするため、従来の憲法解釈を1部変更し、安保法制を整備。

今月19日に閣議決定した防衛大綱では、戦闘機が運用できるよう艦艇を改修する「空母」の導入方針が打ち出された。

そしてロシアのプーチン大統領との領土交渉で安倍氏は「2島プラスアルファ」を視野に活路を開こうとしている。

憲法について安倍氏は、20年までの改正憲法の施行を目ざし党内に大号令をかけている。安保法制を整備した上で、改憲を改正するという試みは、岸氏が目指した「2段階構想」とそっくりだ。

■祖父や大叔父を「完全コピー」している

安倍氏が首相に返り咲いてからちょうど6年が経過したが、その間に行ってきた外交、安保政策は祖父や大叔父を「完全コピー」していると言っても過言ではない。「ここまでやるか」というのが率直な感想である。

一つひとつの政策についての評価は相半ばする。例えば特定秘密保護法は、制定したことで日米間が機密情報を共有できるようになったとの評価があるし、法案成立前に懸念された「知る権利の侵害」は今のところ表面化していない。

「2島先行返還」の路線も最近の世論調査では支持する声が高い。

しかし、祖父や大叔父が目指した政策かどうかで政策実行の優先順位が決まっているのだとしたら、本末転倒、公私混同という批判が出てくるのも当然だ。

■ただし父方の祖父、寛氏は素通り

最後に安倍氏の憧れの対象が母方の血につながる岸、佐藤の両氏に傾斜し、父方の方への思いは淡泊であることも指摘しておきたい。

父・晋太郎氏は自民党幹事長や外相を歴任し、首相まであと一歩というところで病魔に倒れた。晋太郎氏の父、つまり安倍氏の父方の祖父である寛氏は、戦争中も徹底した反骨の反戦政治家を貫いた人物として知られる。

岸氏は戦後期の代表的なタカ派政治家として知られるが、少なくとも同じ程度の「濃さ」で、ハト派だった寛氏の血を安倍氏は引いているはずだ。

それなのに安倍氏が、父や寛氏の行動を倣おうという意識は感じられない。特に安倍氏の口から寛氏の名がでることも、ほとんどないのだ。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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