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大企業社員が何のために働くか忘れる理由

プレジデントオンライン / 2019年2月5日 9時15分

パナソニック 代表取締役専務執行役員 樋口泰行氏

雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第7位の『一勝九敗』。解説者はパナソニックの樋口泰行代表取締役専務執行役員――。

■平易な言葉で綴る、希代の経営者の考え

私が柳井正さんとお付き合いをさせていただくようになったのは、日本ヒューレット・パッカードの社長時代です。その後、ダイエーの社長として同社の再建を進める際には、ジーユー1号店を出店していただくなど、多くのご指導、ご支援を頂戴しました。現在も年1~2回、当社の津賀一宏社長とともにお会いしています。

その柳井さんのご著書から私は、数え切れないくらいの感銘や勇気、そして示唆をいただきました。今回総合ランキング7位に入った『一勝九敗』、そしてその続編である『成功は一日で捨て去れ』には、柳井さんの経営者としての考えが深く描かれています。実体験に基づいた内容は迫力に満ち、しかもそれが平易な言葉で綴られており、スーッと心のなかに入ってきます。

たとえば「成功」に対する戒めの言葉で、「成功するということは、保守的になるということだ。今のままでいいと思うようになってしまう。成功したと思うこと、それがすなわちマンネリと保守化、形式化、慢心を生む源だ」があります。多くのビジネスパーソンにとって耳の痛い内容でしょう。しかし、リスクを一身に背負いながら経営の最前線に立つ柳井さんにそういわれると、自ずと納得してしまいます。

柳井さんがご指摘されているように、いま多くの日本企業が過去の成功体験から抜け出せずにもがき苦しんでいます。いわゆる“大企業病”がはびこり、“低成長”という閉塞感に包まれています。それはパナソニックも例外でなく、2017年に日本マイクロソフトから移った私は微力ながら改革に取り組んでいるところなのです。その目的は「パナソニックを強い会社にすること」に尽きます。

当社が強くなるために最も大事なことは「顧客重視」です。柳井さんも「すべての仕事はお客様のために存在する」と著書で述べています。それなのに大企業で働いていると、顧客不在になりがちです。毎日数多くのミーティングが開かれていますが、それがお客さまのためになっているのか、はなはだ疑問なものが実に多い。さらにいうと「給料は天から降ってくる」と勘違いしている社員すら見受けられます。給料はすべてお客さまの財布から出るということを忘れているわけです。

■部分最適でなく、全体最適を目指せ

そうした大企業病から抜け出すために大きなヒントになるのが、社員の間に安定志向のような気持ちが広がっていたことに対して危機感を募らせた柳井さんが唱えた「第二の創業」です。柳井さんは「悪い意味での大企業とは、つまり意思決定が遅く環境に対応できずにもがいている、図体(ずうたい)の大きいだけの企業である。ここから脱却するには、創業時の原点に戻って再びベンチャー企業からやり直す必要がある」と強く訴えます。

もちろん、当社が創業時の原点に戻ってベンチャー企業からやり直すというのは難しいことですが、社員や組織の意識を変えていくことは十分に可能です。その点に関して柳井さんは「すべての人たちが、一人ずつ“自営業者”としてその会社にコミットする。そういう組織を目指すべきだと思う」と指摘しています。

そして、それには経営者が何を考え、何を実行しているのかをオープンにすることが必要であるし、「開かれた活力ある会社にトップダウンのみの一方通行はありえない」とも述べます。これには私も強く同感し、経営の透明性を高めたうえで、社員とコミュニケーションするように努めております。

しかし、ここで注意しなければならないのは、一人ひとりの社員が「部分最適」に陥らないことです。常に「全体最適」を考えながら仕事をすることが何よりも大切です。柳井さんは「常時同期化」という言葉を使い、「全員が組織全体の目標を共有化していて、しかも自立しながら仕事をしないと成長しない」とアドバイスします。

そのうえで柳井さんが大切にしているのが「23条の経営理念」なのだそうです。第1条「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営」、第2条「良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営」……。そうした経営理念の存在意義について柳井さんは、「自分は何のために会社で仕事をしているのかという原点を忘れてしまう。そうならないためにも明確な理念が必要なのだ」と述べていて、先ほどの第二の創業の考えに通じることがわかります。

■何を学ぶか、問われる失敗の質

また、「商売は失敗がつきものだ。十回新しいことを始めれば九回は失敗する」と柳井さんは指摘しながら、一貫して「チャレンジ」の重要性を説いていらっしゃいます。そして、その失敗も「いい失敗」と「悪い失敗」に分かれ、前者は「失敗した原因がはっきりわかっていて、この次はそういう失敗をしないように手を打てば成功につながるというもの。『失敗の質』が大事だ」と柳井さんはいいます。

大企業病に罹った社員は、往々にして失敗を恐れるもの。そうではなく、果敢に新しいことにチャレンジし、10回に1回でもいいから成果を手にしてほしいのです。その一方で失敗から多くのことを学び、次のチャレンジに活かしてほしい。柳井さんと同じように、私も社員を鼓舞し続けていきます。

最後に私の読書体験を紹介いたします。正直に申し上げますと、かつて私はあまり読書をしない人間でした。大学卒業後に松下電器産業(現パナソニック)に入り、エンジニア一筋に歩んでいました。技術に関係ない本はいっさい役立たないという極端な考え方を持っていました。転機となったのは、1991年に米ハーバード大学経営大学院(MBA)への留学です。そこで幅広く本を読む重要性を知りました。

本来は自分自身が実体験するのが理想ですが、限界があります。読書はそれを補完してくれます。経営者の修羅場を疑似体験できる。頭でっかちになってはいけませんが、非常に役立ちます。柳井さんはもちろん、松下幸之助ら功成り名を遂げた経営者の本から学ぶことが数多くあります。

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

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樋口泰行(ひぐち・やすゆき)
パナソニック 代表取締役専務執行役員
コネクティッドソリューションズ社社長。1980年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。その後ダイエーなどを経て、2017年4月パナソニック専務役員、コネクティッドソリューションズ社社長に。同年6月からパナソニック代表取締役専務執行役員。

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(パナソニック 代表取締役専務執行役員 樋口 泰行 構成=田之上 信 撮影=石橋素幸)

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