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"ダブルベッド仕様"を推す航空会社の狙い

プレジデントオンライン / 2019年2月5日 9時15分

ダブルベッド仕様のビジネスクラス。

中東のカタール航空がビジネスクラスに「ダブルベッド」を導入し、話題を集めている。ビジネス向けの座席にレジャー用の設備を整えた狙いはなにか。航空ジャーナリストの北島幸司氏は「それだけ特徴的なサービスを打ち出さなければ生き残れないという『2つのビハインド』がある」と指摘する――。

■カタール航空が抱える「2つのビハインド」

カタール航空は1997年にできた若い会社だ。本拠地はカタールの首都ドーハ。カタール政府が50%を出資しており、この10年では毎年30%の成長率で、先行するエアラインを脅かしている。その競争力の源泉は、充実したサービスと、利用しやすい運賃設定だ。

なかでも話題になっているのが、「Qsuite」と呼ばれる長距離路線のビジネスクラスだ。ボーイング777‐300ERと新機材エアバスA350‐1000に設定されており、大人2人が横になれる「ダブルベッド仕様」がある。ビジネス客を想定した座席にレジャー客向けのダブルベッドを設けたのはなぜか。カタール航空には、それだけ特徴的なサービスを打ち出さなければ生き残れないという「2つのビハインド」がある。

1.国土が小さく国内線はない

外務省によると、カタール国の国土は1万1427平方キロメートルで秋田県より小さい。人口は267万人で京都府ほどだ。このためカタール国内の需要は限られており、世界のエアラインと戦うには、乗り継ぎ需要を取り込むしかない。世界中へ路線を張り巡らせ、サービスを磨いていく必要があるのだ。

2.中東は「乗り継ぎ地」として遠い

カタールは世界のハブになり得る場所だろうか。地球儀を俯瞰すればわかるように、答えは否である。

客室乗務員の制服も紫を基調としている。

中東は、欧米先進国のいずれからも遠い。アメリカ東海岸から欧州に行くには、大西洋を越えてせいぜい9時間あれば目的地に着く。だが中東を経由すると、さらに6~8時間がプラスされる。アジアから中東経由で利用しやすい場所は、アフリカや南米など一部に限られる。欧州からはオセアニア諸国、北米からは西アジアぐらいしかない。

これはカタール航空だけでなく、エミレーツとエティハドという他の中東エアラインにも共通する悩みといえる。

こうしたビハインドをはねのけるアイデアのひとつが「ダブルベッド」なのだ。その根拠は旅客層のデータからもわかる。

■ダブルベッドをビジネスクラスに設置した数字的根拠

国土交通省が2年に1回実施する「国際航空旅客動態調査」をみると、個人旅行客の構成人数がわかる。最新の2015年版で主要4空港(成田、羽田、関西、中部)の種別を調べると、1人48%、2人33%、3人9%、4人6%、5人以上4%という結果だ。単純に言えば、半数が1人旅、3分の1が2人旅なのである。

機内の席配置。グレーがビジネスクラスで、紫がエコノミークラス。ビジネスクラスの中央座席では仕切りを外すと、4人が向かい合わせに座ることができる。

カタール航空のエアバスA350‐1000は、ビジネスクラス46席を装備する。「1‐2‐1」という座席配置で、両サイドの窓側となる1人席の数は22席で全体の49%。旅客動態調査とほぼ一致する。それ以外は隣り合う座席を希望する2人以上のグループなのだ。ダブルベッドを希望する人も相当数いるはずだ。

ビジネスマンの中にも夫婦での移動は一定の需要がある。海外赴任へ配偶者の帯同や、欧米でのパーティは夫婦そろっての参加が多い。新婚旅行に奮発して乗ってみるカップルや、乳幼児を寝かせたいという富裕層もいるだろう。

■中央列のすべてがダブルベッド仕様ではない

カタール航空は、2017年夏、フランスのル・ブルジェで行われた世界最大の航空ショーでボーイング777‐300ERを地上展示した。筆者はここで実際に「Qsuite」を見ることができた。

通路の光景は従来のビジネスクラスとはまったく違う。個室の壁が続いており、上部が開いたカプセルが並んでいるようだった。

ビジネスクラスの様子。

「1‐2‐1」のシート配列のうち、筆者が注目したのはシートの中央列だ。1列ごとに前向きと後ろ向きが交互に配置されている。奇数列は機体後方を向いており、デバイダーを下げれば隣同士でダブルベッドになる。偶数列は機体前方を向いており、2人は隔離された並びとなる。中央列のすべてがダブルベッド仕様というわけではない。

奇数列の隣同士は、座席の上からマットレスを敷くことができ、ホテルのダブルベッドと同じ状態になる。一方、奇数列と偶数列は向かい合わせなので、前後のデバイダーを下せば4人のボックス席ともなる。これも斬新な席配置だ。

■ドーハ経由は4~8時間の遠回りだが、価格は安い

前述のように中東は地の利が悪い。だが就航本数は多く、乗り継ぎ自体は便利だ。日本から欧州便で利用することが現実的だろう。

日本から欧州に向かう場合、直行便のない都市であれば、ソウル、上海、台北、香港、モスクワ、イスタンブールなどで乗り継ぐことになる。これらの都市と比較すると、ドーハ経由は4時間から8時間ほど遠くなる。だがその程度の時間であれば、豪華な機内でゆったり過ごすという考え方もあるだろう。乗り継ぎ空港の施設も充実している。

時間がかかるだけに、カタール航空の運賃設定は低くおさえられている。エコノミークラスでは欧州までの往復航空券は6万円代からある。乗り継ぎで時間はかかるが、機内設備は豪華で、価格が安ければ、競争力は持ち得る。

カタール航空のイメージカラーは紫だ。

カタール航空はビジネスクラスに個室を装備したことで登場時は業界を驚かせた。個室化はこれからのビジネスクラスのトレンドだといわれており、カタール航空が先行している。他社の事例ではデルタ航空の「デルタ・ワン」スイートがあるのみだ。日本線にも就航しており、エアバスA350‐900に装備されている。

■「豪華さ」を競う傾向はさらに進むのではないか

国際旅客輸送の収益源としての根幹はビジネスクラスにあると言っても過言ではない。エコノミークラス比で正規運賃の2倍、キャンペーン運賃を含めると4倍から6倍と高く設定される運賃は、エアラインにとって魅力である。カタール航空は、エコノミークラスはキャンペーン運賃で埋め、ビジネスクラスは話題の最新プロダクトで売る戦略を取っている。

この「Qsuite」を装備したエアバスA350‐1000型機は、2019年の年頭より羽田空港からドーハを結ぶ路線に就航している。こうした「豪華さ」を競う傾向はさらに進み、今後は完全個室化、シャワー設備や機内ラウンジの設置などが進んでいくことになるだろう。

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北島幸司(きたじま・こうじ)
航空ジャーナリスト
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。

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(航空ジャーナリスト 北島 幸司 撮影=北島 幸司)

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