1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「幸運な出会い」に恵まれる人の思考習慣

プレジデントオンライン / 2019年2月28日 11時15分

成功する経営者の多くは社運を変える出会いに巡り合っている。インタラクティブ動画の分野で注目を集める「TIG(ティグ)」を開発したパロニムの小林道生社長も、そんな一人だ。小林さんは「周りの人からは、あなたの率直さがいい出会いに繋がっているのではないか、と言われます」と語る。いい出会いを引き寄せられる人はどこが違うのか――。

■テレビ画面から買い物ができたら便利なのに……

当社のインタラクティブ動画技術「TIG(ティグ)」は、たとえば、アパレル製品のプロモーション動画でアイテムや登場人物にタッチすると、詳細情報にアプローチできる、といったもので、当社が独自開発した新技術です。

「TIG(ティグ)」のアイデアが生まれたきっかけは、ソフトバンクで仕事をしていた頃の経験でした。私は日本テレコム(現・ソフトバンクグループ)を経て、ソフトバンクで映像伝送技術を担当していました。このときの仕事を通じて、映像コンテンツの持つ「豊富な情報量」や「視聴者の心を動かす力」に注目していたんです。

当時はちょうど、ドラマで登場人物が身につけているグッズが話題になり、インターネットの電子商取引(EC)サイトでバンバン売れるようになりつつある時期でした。私はその状況を見ながら「視聴者がドラマを観ていて“あの時計カッコいいな”と思ったら、その画面から即座に買い物ができる……そんな機能があったら便利なのに」。そんな思いを漠然と抱いていました。

2008年のある日、ソフトバンクの社内食堂に100人ほどの営業・技術担当者が集められ、「iPhone」の日本初号機が独占販売されることを聞かされました。一部の営業マンにデモ機が配布され「こいつを徹底的に使い倒せ。そして、これが世の中をどんなふうに変えていくインフラになるのか、新しい文化や生活を生み出していくかをひたすら考えろ」という課題が課されました。

その後、社内で“新規事業アイデア3000本ノック”という企画が開催され、私はTIGの原形となるアイデアで応募したんです。結果は、2次面接で落選でした。落選理由は「入口はすばらしいアイデアだが、出口イメージが描けていない」。つまり、映像からジャンプした先に、どんなサービスがあって、どのようにマネタイズするのか? そのサービスによって誰が喜ぶのか? そのイメージがまったく描けていなかったんです。今思えば、落選するのは当然でした。ちなみに、そのオーディションで大賞をとったのが、コミュニケーションロボットの「Pepper」でした。

■動画に触れるだけで情報を得ることができる世界

新規事業オーディションには落選したものの、iPhoneを通じた映像体験は私にとって大きな衝撃でした。本格的にモバイルインターネットの時代が到来したら、情報通信が根本から変わる……私はこのとき、新たな映像・放送技術を開発しようと近い将来の独立を決意したのです。

2011年の春にソフトバンクを退社し、2012年にネット広告事業を行うインタープレイトを設立しました。先ずは出口であるネット上の商圏や文化、広告などを提供し、学ぶためです。WEB広告からEC事業、輸入販売や自社製品の開発や販売など幅広くチャレンジしました。そして、同社の新規事業として2014年にインタラクティブ動画技術の開発に取り掛かり、この技術をもとに2016年の秋にスピンアウトして設立したのが現在のパロニム株式会社です。

インタープレイト社の年間利益の2割程度をインタラクティブ動画技術に投資し、社員やインターンの大学生と様々なネット動画を見ながら「これからは、“この俳優さん誰?”とか、“この店に行ってみたい!”と思ったときに、動画に触れるだけで情報を得ることができる世の中が来るんだ!」と語りあいました。コピー用紙の裏紙を使って、『どんなインターフェイスデザインなら買いたくなるか?』『こんなデザインは好き』『これは映像を邪魔してしまう』などとアイデア出しをしました。最終的には、裏紙は50枚ぐらいになっていました。このアイデアシートを5枚ぐらいに凝縮し、最終的に私が企画書としてスライドにまとめました。ちなみにこの文化は今でも続いていて、次世代開発に向けて描き溜めたものは1000枚近くになっています。

■「この件は、自分の責任でやらせてもらいます」

翌日からは、その企画書を手に、ひたすら技術開発会社を訪問。「こんなことできませんか?」と説得して回りました。約20社訪問してすべて断られ、最後に、ある会社にたどり着きました。私がインタラクティブ動画の可能性について説明すると、担当者は熱心に話を聞いてくれましたが「技術的には“今は”できません」という返答でした。しかし続けて「現在のインフラとデバイスでは、この表現は不可能です。ただ、4~5年後には、スマホの技術や情報インフラが追い付いてくる。だから、開発のゴールをそこに合わせればいい」と言ってくれたのです。

それだけでなく、「この件は、自分の責任でやらせてもらいます」とも言ってくれました。その方がすばらしいのは、「この技術は、きっと何年後にはこう進化するだろう」というイマジネーションの精度が高いこと、そして圧倒的な情報収集力です。彼の中にたぶん少し自信もあったと思います。やっぱり最後は「人」だなと思いました。

その開発会社に、更に1000万円程度を注ぎ込んでインタクティブ動画・TIG(ティグ)の開発を依頼し、ようやくプロトタイプが形になりました。しかし、これを通信サービスとして通用するレベルの製品にするのであれば、さらに1億円以上の開発費がかかります。そして序盤の開発部分の支払いとして約3000万円の発注を決定しなければならない……。経営者としての決断が求められる場面でした。

僕が即断できずに悩んでいると、当社の幹部社員から「一晩考えて結論をだそう! 本気でやるのか、やらないのか。やるつもりがあるなら、絶対にいま足を止めちゃダメだ。本気がどうか一晩考えよう」と言われました。私は一晩考えて、翌朝、「本気でやる!」と結論を導きました。幹部はホッとした様子でした。「日本のどこかには絶対この技術やサービスや熱意をわかってもらえる人がいる!その人と出会うまで、投資家行脚を続けよう!」そう決意しました。

■「本物のエンジェル」が現れた!

その2週間後、とある行政書士の方から突然、電話がかかってきました。「日本のベンチャー技術を本気で応援していて、素晴らしい人格者の投資家がいるのですが、会ってみませんか?」と言うんです。その「Nさん」という投資家にお会いして印象的だったのが、ほとんど資料、特に事業計画の数字に興味を示さなかったことでした。30秒ぐらい資料をめくる以外は、終始、僕の目を見て話を聞いていました。

そして、「差し支えなければ、私の投資を最大限活用してもらえませんか? 今、御社が想定している調達資金なら、私一人で実行させて頂くことは可能です」という思いがけない提案を受けたのです。「私は事業の進め方にはいっさい口を出しません。技術を磨くためには、時間を金で買ったほうがいい場合もあるでしょう。その際は遠慮なく相談してください」と。

本物の個人投資家は、表面的な資料やプレゼンテーションではなく、相手がどれほどのエネルギーをこめて話をしているかを見ているんだと思いました。そして何より、当社にとっては巨額の開発費支出を決意した直後に本物のエンジェル投資家が現れてくれたことに驚きと我が身の運命を感じた瞬間でした。

Nさんを乗せたタクシーを見送る際、車が見えなくなった後も頭を下げたまま動けませんでした。あの光景を一生忘れることはありません。軍資金が集まりそうという安堵感より、むしろ勇気と責任感が湧き出してきました。現在、優秀な開発陣に恵まれ、ほとんどを内製開発できるようになったのもNさんのお陰です。

■「この技術やったら、コトバ超えるよなぁ」

そして、奇跡はさらに続きます。

2017年の夏、雑居ビルに入居していた弊社に、吉本興業の大﨑社長が訪ねて下さったのです。放送業界の知人から、当社の技術について聞き、関心を持ってくださったようです。

吉本興業は、お笑い番組を中心にさまざまなコンテンツを持っています。大﨑社長は、そのコンテンツを活用した、アジア市場をはじめとしたグローバル戦略に強い関心をお持ちで、「日本のコンテンツは面白い! どんどん海外進出すべきや。けど、言葉の壁があるからなぁ……でも、この技術やったらコトバ超えるよなぁ」とつぶやかれたのが印象的でした。

僕がTIGについて説明すると、大﨑社長は「これは早いうちに仕掛けなアカン!」という話になり、その秋には吉本興業が引受先となったパロニムの第三者割当増資が決まりました。出会いからわずか半年にも満たない展開でした。

■年上に対しても、礼節は重んじながら本気でぶつかる

周りの方から「君はちょっと異常だ」と驚かれるのが、私が持つ「人との出会い運」です。振り返ってみると、大切な岐路では必ず「奇跡」と呼ぶに相応しい「幸運な出会い」に支えられてきたことに気づきます。

では、なぜ出会いに恵まれるのか? その理由を自分で明確に意識したことはありませんが、先輩方からは「目上に対して礼節を重んじながら、持論は明確に持ち、意見が違えば本気でぶつかるところが君の面白い所」と言われます。20代前半の頃から、先輩たちに「自分の友達に面白いヤツがいるから、メシでも食わせてもらってこい」などと紹介を受けることもたびたびでした。相手の地位や肩書き、業種の違いに関係なく、思ったことを率直に伝え学んできたことが、沢山の出会いの連鎖に繋がったのではないか、と思っています。

自分の野心や信念を明確に掲げることは大切だと思います。もちろん、多くの人々に役に立ちたい、利便性を提供したい、という信念が前提です。実はインタープレイト時代の5年間は、現在のような奇跡的な出会いはほとんどありませんでした。おそらく自社完結・自社利益型の事業がメインだったからです。それが、パロニムとして「映像の未来に圧倒的な利便性を創る」「映像の世界を変える」「文化、習慣を変える」という、多くの力を巻き込み、ユーザーファーストを成立させるビジョンを掲げるようになると、そのビジョンに共感する優秀な支援者や企業が次々と現れたのです。

私たちの究極の目標は、「世界中のありとあらゆる映像がTIG化される」ことです。スマホやPCはもちろん、テレビや街中のデジタルサイネージにいたるまで、目に触れる映像すべてにTIGが実装され、映像に触れることで必要な情報が即座に手に入る――それが当たり前の世界を目指しています。購買のみならず、観光やシニアマーケット、デジタル教育ツールなど多様な社会実装が目標です。ビジョンに賛同してくださる方々の協力を得ながら、この理想を持ち、一歩ずつ確実に、かつスピーディーに達成していきたいと考えています。

(パロニム株式会社 代表取締役社長 小林 道生 構成=梅澤聡、撮影=諸星太輔)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください