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落合陽一と松下幸之助「問題意識は同じ」

プレジデントオンライン / 2019年3月13日 15時15分

メディアアーティスト、筑波大学助教授 落合陽一氏(写真=時事通信フォト)

1980年代以降に生まれた、メディアアーティストの落合陽一氏、メタップスの佐藤航陽会長、SHOWROOMの前田裕二社長。なぜ彼らのビジネスは成功しているのか。経営コンサルタントの神田昌典氏は「彼らは、松下幸之助や渋沢栄一と同じで、社会変革をビジョンに掲げ、人の共感やお金を集めることができる」という――。

※本稿は、神田昌典『インパクトカンパニー』(PHP研究所)を再編集したものです。

■共生を望む新世代の経営者たち

メタップスの佐藤航陽会長は1986年生まれ、SHOWROOMの前田裕二社長や日本クラウドキャピタル代表取締役COO(最高執行責任者)の大浦学氏、筑波大学の学長補佐でメディアアーティストの落合陽一氏らは、全員1987年生まれだ。彼らは1980年より前に生まれた「ウルトラマン世代」と何が異なるのだろうか?

今挙げた経営者の何人かとは直接話したこともあるのだが、彼らと会話をしていると、旧世代の経営者とは明らかに違う点がある。それは、仕事の展開がスピーディなこともさることながら、これまでの世代とまったく異なる価値観を持っているということだ。

その価値観とは何か。

それは、皆で共生できるよう、「世の中をどのように作り上げていくか」という社会変革に強い興味を示す、ということだ。たとえば、SHOWROOMの前田氏は「機会格差をなくす」「努力した人が報われる社会をつくりたい」というビジョンを掲げているし、メタップスの佐藤氏は「経済の民主化」を推進する。日本クラウドキャピタルの大浦氏も、やりたいことは「起業を目指す若者や女性が資金調達できるような環境を作ることで、日本経済を元気にする」ことだという。

もちろん日本企業の特徴は、そもそも社会性の高さにあった。「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一は、道徳経済合一説に基づき、富は全体で共有するものとして社会に還元することを徹底したし、またパナソニックの創業者・松下幸之助は、「一番大切なのは利益じゃない」と断言し、「貧困をなくすこと」を使命とした。

■経営者の先祖返りが始まった

こうした社会貢献意識の高さは、日本企業の成長の原動力であり、まさにその結果、戦後の奇跡的復興を遂げてきたのであるが――、1980年代から日本企業が世界規模で活躍するようになると、株主利益を優先し、時価総額の最大化を目標とする、グローバル標準の経営が評価されるようになった。

そのピークが、不幸にも「拝金主義」というレッテルを貼られてしまった旧来のヒルズ族だったが、彼らの変革スピードの早さは、既得権益にとって脅威だったためか、堀江貴文氏をはじめとする7人が有罪とされたライブドア事件を引き起こした。

1980年世代の経営者は、こうした金銭的成功の光と影の両面を、自我が芽生える小中学生の時からテレビで見ている。だから、お金に対してさしたる興味を示さない。IPOや事業売却で巨額のお金を手にして、セミリタイアなんてことは口にもしない。社会問題の解決、社会変革を第一に考えているのだ。

「最初から社会変革など、甘いのでは?」と思うかもしれないが、それは逆だ。そうしたビジョンを持っているからこそ、彼らのもとには、一緒に働きたいという人や協力してくれる先輩経営者が集まってくるし、資金も集まってくる。だから、超速で事業を立ち上げられ、さらに伸ばしていけるのだ。

彼らが意図しているかどうかはともかく、日本企業の経営者の、先祖返りが始まっているといってもいい。

■80年代生まれの価値観を形成したのはゲーム

さらに1980年代生まれの経営者たちを特長づけるのは、「民主化」「機会平等」「ダイバーシティ(多様性)」といったキーワードで表現される世界観である。今までのビジネスでは当然だった「競争優位」「市場シェア」「市場規模」といった言葉は、彼らの口からほとんど出てこない。こうした共通の価値観は、何によって培われたのだろう?

「ゆとり世代だから……」このようなイメージを浮かべる人が多いかもしれないが、私は違う答えを持っている。

私の答えは、「ゲーム」、そして「ポケモン」だ。

人間の価値観は、9歳から11歳の間、小学生の中学年から高学年の間に、夢中になったものやストーリーによって形成される。顕在意識が育ってくるのが9歳から11歳の間だからだ。だから、その時の体験が一生を決めるといっても大げさではない。あなたも9~11歳の頃に、何に夢中になったか、思い出してみてほしい。

たとえば、1964年生まれの私の場合、9~11歳の頃にハマったのは、『ウルトラマン』『仮面ライダー』、それに『サーキットの狼」だ。

■目的よりプロセスを重視する「ウルトラマン世代」

『ウルトラマン』は、エース、タロウ、レオがリアルタイムで放映されていた頃。『仮面ライダー』は、初代からV3、X、アマゾンなど、第一次の全盛期とモロにかぶっていた。『サーキットの狼』は、11歳の時に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった。

この3つのストーリーに共通するのは、「自分と異質なものを『敵』とみなして、それをやっつける」という価値観だ。『ウルトラマン』や『仮面ライダー』は言わずもがな、『サーキットの狼』も、主人公の風吹が走り屋のライバルを次々と倒していくことで、のしあがっていく物語である。

また、「目標を達成するよりも、そのプロセスの気合と根性を重視する」というのも、共通している。典型的なのはウルトラマンで、はじめからとっととスペシウム光線を出して怪獣をやっつければいいのに、ギリギリまで出さない。苦戦しながら気合と根性で一生懸命頑張って、最後にようやく倒すのを是とする。仮面ライダーも、戦闘の最初から、いきなりライダーキックをお見舞いすることはまずない。

また、「環境問題なんておかまいなし」も特徴的だ。たとえば、ウルトラマンは、やっつけた怪獣を片付けないで、ほったらかしたまま、「ジュワッチ」と去っていってしまう。死んだ怪獣なんかを街の真ん中に放置したら、腐って臭くて大変なことになる。『サーキットの狼』などは、化石燃料をバンバン燃やしまくりだ。

こういう価値観のもとに育っているので、私の心の奥底には、「周囲を敵とみなして戦う」「目的よりプロセス」「気合と根性」「環境は気にしない」という価値観が少なからずある。さらに、「カラータイマーが鳴るまで(ピンチになるまで)一生懸命やらない」などというちょっとひねくれた考え方まで持っている始末だ。

■ダイバーシティを根付かせた「ポケモン」の功

それに対し、1980年代生まれの人たちは、「ゲーム」に影響を受けている。生まれた頃から、ファミコンやスーパーファミコン、プレイステーション、ゲームボーイなどがある環境で育ってきているから、多かれ少なかれ、ゲームの世界観が価値観の形成に大きな役割を果たしているのである。

1986~87年生まれの世代が特に影響を受けたゲームは、「ポケモン(ポケットモンスター)」だ。彼らが9~10歳だった1996年に、ゲームボーイ用ソフトとして、ポケモンシリーズの最初のゲームである「赤・緑」が発売されると、大ブームを巻き起こし、RPG(ロールプレイングゲーム)において、世界一の販売本数を記録した。

この「ポケモン」の世界観を見ていくと、明らかに1986~87年生まれの世代の価値観と一致している。まずは、「周囲を敵視しないで、一緒に遊ぶ」という価値観だ。

ポケモンのゲームでは、野生のポケモンと戦うことはあるけれど、それらを完全に叩きのめすのではなく、「仲間」にしていく。そして、みんなで遊び、楽しむのである。

1986~87年生まれのポケモン世代は、こうした世界観の中で育っているので、誰かを蹴落とそうとするのを好まない。先で述べたように、皆で共生できるよう、「世の中をどのように作り上げていくか」という社会変革に強い興味を示すのである。また、さまざまなポケモンと触れあうことで、「多様性・ダイバーシティを認める」という考え方も当たり前のように備わっている。

「絶えず進化を図ること」も、ポケモン世代特有の価値観だ。ポケモンは、育てることでどんどん進化していく。主人公自体も、特別な力を持った超人ではなく、ポケモンと一緒に成長していく普通の少年少女だ。

■「誰もがヒーローになれる」時代に生きる起業家

その影響からか、ポケモン世代は常に、自分をいかに進化させていくかを考え、そのことに夢中になる。たとえば、SHOWROOMの前田氏は、UBS証券、ディー・エヌ・エーとステップを踏んだ上で、会社を立ち上げている。メタップスの佐藤氏も、日本クラウドキャピタルの大浦氏も、以前に他の事業を立ち上げながら、徐々にステップアップしている。

常に進化しようとする姿勢の背景には、「一人ひとりが進化し、個性を発揮すれば、誰もがヒーローになれる」というポケモンの世界観もある。

旧世代のヒーロー世代は「ウルトラマンだけ」「仮面ライダーだけ」というようにヒーローは1人だけであり、戦隊ものでも数人だった。しかし、ポケモンは捕らえたモンスターを育て、その個性を発揮させることで、誰でもヒーローになれる。以前、『世界に一つだけの花』という歌が流行ったことがあるが、これはまさに、ポケモン世代の価値観にすんなりフィットする。

ついでにいうと、ポケモン世代は、カラータイマーが鳴るまで本気を出さないウルトラマン世代と異なり、「変なムラがなく軽やか」だ。

このように、旧世代と比べると、まったく違う人種が生まれたくらいの違いがある。

■「ゲーム脳」が天才たちを生み出した

1986~87年生まれのポケモン世代と、極めて親和性が高いのが、80年生まれである。代表格は、スマートフォンアプリの『CASH』やカーシェアリングサービスの『CaFoRe」を立ち上げて、次々と売却した光本勇介氏であり、彼は『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といった名作RPGが競って新作を出していた時代に、9~11歳を迎えている。

『インパクトカンパニー』(神田 昌典著・PHP研究所刊)

これらの初期RPGは、ポケモンを始めとしたその後のゲームに大きな影響を与えており、「多様性を認める」「絶えず進化を図る」、あるいは「目的に向かって、違う個性を持った人たちがチームになって助け合う」という世界観はまったく同じだ。

だからポケモン世代と、ちょっと上のドラクエ世代がタッグを組むと、非常に強力になる。日本クラウドキャピタルの大浦学氏のもとには、ドラクエ世代の経営幹部がついているし、また仮想通貨取引所として急成長したコインチェック(現在は、マネックス証券の子会社)の経営陣も、ポケモン世代とドラクエ世代の2人組だった。

こうした若手経営者による企業の強さは、ゲームそのものによって築かれたといっても過言ではないと、私は考える。しかし、これまで誰も、ゲームに没頭する経験が、ビジネス競争優位性の鍵になるなんて、ウルトラマン世代には考えられなかった。

2002年に、『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版)という本が出たのを覚えているだろうか。同書によれば「ゲームをやりすぎると、『ゲーム脳』になる。頭の働きが低下し、痴ほう症と同じ状態になってしまう」ということで、大きな反響を呼んだ。これを機に、親子の間で1日のゲーム時間を何時間に制限するか、激しいやり取りがあった家庭もあるのではないだろうか。

この本の刊行から十数年が経った。そこで振り返ってみてわかったのが、ゲームをやっていた子は、痴ほうになるどころか、天才になってしまった、ということだ。

彼らは、視覚情報の処理能力が非常に高い。RPG世代の経営者たちが猛烈なスピードで事業を立ち上げ軌道に乗せていく姿は、まさにゲームプレイそのもの。AI化が進む現状にも順応しやすいのは、もちろん、間違いない。

(経営コンサルタント・作家 神田 昌典 写真=時事通信フォト)

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