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組織も地域も明るくなるブレストのやり方

プレジデントオンライン / 2019年3月29日 9時15分

東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授 嘉村賢州(撮影=プレジデント社書籍編集部)

どうすれば「ブレスト」は盛り上がるのか。まちづくりから組織再生まで多種多様な「場づくり」の対話技術を研究してきた東京工業大学の嘉村賢州特任准教授は「面白法人カヤックのやり方に注目している」という。「会議」の代わりに「ブレスト」を行うという、同社の方法論とは――。

■アイデアを「スルー」する会議は失敗する

5年ほど前から、「コクリ!プロジェクト」という地域リーダー・企業・NPO・大学・官僚・クリエイター等、多様な社会リーダーが集まり、対話することで共創的にアイデアやプロジェクトを生み出し、地域や社会に未来をつくっていく集まりに参画しています。

特定のテーマやゴール設定をして集まるのではなく、その場で集まった人が肩書を外して語り合い、未来を探求していくことがこの集まりの面白いところです。その集まりに3年ほど前、経営者の1人としてカヤックの柳澤大輔さんにも参加していただきました。お話の中で僕が非常に興味を持ったのが、カヤックが社内で行っている「ブレスト」(ブレイン・ストーミング)でした。

「面白法人カヤック」は、300人いる社員の9割がデジタル領域のクリエイターのIT企業。社員それぞれが持つアイデアやセンスを存分に引き出すため、いわゆる「会議」に代わり「ブレスト」をメインに議論を行っている。創業から20年かけて社内で徹底的にブレストを実践し、社内文化として定着した。

僕が代表を務めるNPO法人「場とつながりラボhome's vi」などの活動を通し、僕自身もファシリテーターとしていろいろな発想法を実践してきました。ブレストもそのうちの一つです。ブレストは手軽に実践できるのが良いところですが、実は誤解も多い。ブレストといいながらブレストとは似て非なるものになってしまうケースが多々あるのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SetsukoN)

僕の経験から言うと、その理由は2つあります。1つは出たアイデアを周囲が「良い」「悪い」と検討してしまうからです。誰かが意見を言うたびに判断されると、発言のハードルが次第に上がってしまいます。その結果、10分間でたった30個しかアイデアが出なかったりします。

もう1つは、スルーが多いことです。せっかく思い切って発言しても、リアクションがないと、「いまの発言、響かなかったのかなぁ」と不安になり発言する勇気が萎えてしまいます。そうなると発言者が偏っていきます。

「盛り上がるブレスト」「参加してよかったと思えるブレスト」は、そう簡単に実現できないことを僕は身を持って知っています。だからこそ、カヤックがいったいどんなブレストを実践しているのか知りたいと思ったのです。

■カヤックが大切にする「2つのブレストのルール」

カヤックが大事にしているブレストのルールは2つあります。

1つは「他人のアイデアに乗っかる」。これは、人の意見を否定せず、人の話をよく聞いてどんどん便乗していこうよということです。

もう1つは「とにかく数を出す」。すばらしいアイデアを捻り出そうと力むのではなく、思いつきでオッケーということです。プレッシャーから解放されるので、「自分はつまらない意見しか言えない」と思い込んでいる人も臆せず発言できるようになります。その結果、1人で考えているだけでは決して出てこないアイデアが生まれます。

このブレスト文化が、カヤックという組織をポジティブにしていると僕は考えています。それはなぜか。カヤックのブレストはこの2つのルールにより、究極的に「心理的安全性」をつくることができているからです。

■「安全だ」と思える心理状態が組織運営には不可欠

「心理的安全性」とは、簡単に言えば「ここは自分にとって安全だ」と思える心理状態のことです。安心して発言できる、安心して行動できるということで、実はコミュニティや組織を運営していくうえで欠かせないものです。

いまでこそ僕は地域コミュニティにどっぷり入ってまちづくりをする手法を実践したり人に教えたりという仕事をしていますが、もともとはひどい人見知りで、コミュニケーション・コンプレックスのかたまりでした。

そもそも、友達のつくり方がわからない。新歓コンパへ行って、隣の人に声かけるなんてお手上げです。名前が覚えられないので自信がなくて自分から話しかけられないし、ニックネームや下の名前で呼ぶ感覚もつかめず、仲良くなっても「くん」付け「さん」付けで呼んでいました。そんな自分の経験がベースにあるから、「心理的安全性」について人一倍深く考えるようになったのだと思います。

■喜びや悲しみを組織全体で共有していく

では、人間関係の中で「心理的安全性」はどのようにして得られるのか。それは、長年かけて編み出したオリジナル理論、「関係性深化のフロー」で説明ができます。

誰しも人生でいままで接触したことがない人と出会うのは、脅威です。そういうときにまず、「共通項」(出身地や出身校、趣味など)が話のベースにあると人は「安心感」を覚えます。さらに、「共通体験」(一緒に経験する、何かを達成させる)を経て「好奇心」が生まれます。そして、「違い」(立場や境遇など)を知ることでそれまでの怯えや脅威が「リスペクト」に変わっていきます。それを経て、「ありのまま」(夢、悩み、弱みの開示)の共有という流れで関係性を深めていけます。まとめると、こういうことになります。

①「共通項」→ ②「共通体験」→ ③「違い」→ ④「ありのまま」

①から②、②から③と関係性を深めながら、「心理的安全性」が高まっていきます。そして、④「ありのまま」を共有できたとき、人は心からの安心感を得られ、そこが自分の居場所だと感じられます。自分を取り巻く人間関係、属している集団、地域、組織といったものにポジティブに向き合っていくことができ、互いの個性を認めつつ、つながっていけます。ですから、誰かの悲しみは私の悲しみで、その人の喜びは私の喜びになるという、「自他非分離」の状態になるのです。

■「ありのまま」で対話ができる環境をいかにつくるか

僕がカヤックの柳澤さんに注目する一番のポイントは、社内文化として定着させてきたブレストを地域活動へ転用したことです。同社の発祥の地である鎌倉で立ち上げられた地域団体「カマコン」で、柳澤さんはいまブレストを「組織づくり」の手法から「まちづくり」の手法へと広げ、「鎌倉資本主義」を押し進めています。

「鎌倉資本主義」とは、東京一極集中だけではなく、地域での働き方や暮らし方を多様化していくことで、従来の資本主義が抱えている課題の解決につながるのではないか――。そうした仮説のもと、企業と地域のゆるやかで新しい関係を築いていこうという活動で、その基盤となっているのが鎌倉に拠点を置くベンチャー企業の経営者が立ち上げた地域団体「カマコン」だ。月一度の定例会では、有志たちが地域を活性化させるプロジェクトをプレゼンし、150人ほどの参加者が、自分の関心あるプロジェクトを選びブレストを行っている。ここから、市長選の投票率を上げる、空き家を活用する、地域で働く人が誰でも使える社員食堂をつくる、といった地域の問題を解決する数々の取り組みが生まれた。

どこの地域でもその地域なりの問題を抱えています。そこで暮らす人々には不満や要望が必ずあります。でも一般の市民は、それらのことを自分たちで解決できるとはあまり思わないでしょう。自治体に任せておくしかない、地域のしきたりもある、とあきらめているのが普通でしょう。多くの地域では、普通仕事やプライベートの関係はありませんから、対話する機会はあまりありません。また、まちの未来を考える場面でもどうしても「行政」「民間」「市民」といった枠組みで考えがちで、それが対立やしがらみにつながっていきます。

そんな中で対話の集まりを持っても、一人ひとりが安心して発言することはできず、表面的なやりとりで終わってしまいます。いかに地域において一人ひとりが「ありのまま」を出して、対話をしていく環境がつくれるかが重要になってくるのです。それは地域だけでなく組織でも同様です。

■軍隊的な組織運営の方法論には限界がある

僕は、学生中心の小さな集団から、僕が大学時代を過ごした京都という伝統ある町まで、さまざまなコミュニティづくりに関わった後、企業の組織変革や開発に携わるようになりました。これまで業種を超え、中小などの規模も超え、多くの企業を見てきて思うのは、抱えている問題の根は同じなのではないかということです。

あまりにも共通しているので、僕はあるとき、いまの組織の運営の仕方が根本的に間違っているのではないかと思いはじめました。近代以降、軍隊的な上意下達を基盤とする組織運営の方法論が企業に取り入れられましたが、それをマイナーチェンジして使い続けてきて、結局ほころびが出はじめています。

でもどこかにまったく違う組織のつくり方があるんじゃないか。そんな問いを持っていたとき、1年間の海外充電中に出会ったのが「ティール組織」でした。

『ティール組織』(英治出版)の著者・フレデリック・ラルー氏は、従来の組織とは違うマネジメント、組織運営、人間関係による、生命体のような組織があるはずだという仮説を立てて世界中を調査した。その結果、実際にいくつかの企業が脱ヒエラルキーの状態にあり、新しい経営方法で従来のアプローチの限界を突破し成果をあげていることがわかった。ラルー氏の提唱する「ティール」の概念を日本で広めたのが嘉村氏だ。

ティールは、生命体のような自律型組織とよく説明されます。指示命令系統がなくても個人が自分の判断で動き、ゆるやかなつながりを保ちながら仲間と共創します。そのためには、一人ひとりが自信をもって存分に自分の能力を発揮できるよう、「心理的安全性」が十分に確保されている必要があります。ラルー氏はそういう状態を「個人として全体性を発揮している」ことから「ホールネス」と呼んでいます。

■参加者がイキイキ動き出す感動の瞬間

柳澤大輔『鎌倉資本主義』(プレジデント社)

ファシリテーターをしていると、参加者の相互作用で自然に場が熱を帯び、新しいアイデアが次々と生まれ、気づいたらみんながイキイキと動き出しているという感動の瞬間に立ち会うことがあります。ワークショップの中で参加者同士が集まっては離れ、離れたかと思えばまたくっついたりしながら、その日の課題をやり遂げようとしている姿も頻繁に目にします。こうした生命体のような自律性を人は本来持っています。

カヤックが組織づくりの柱とし、まちづくりの手法としても成果を出している「ブレスト」も、「心理的安全性」を醸成し「ホールネス」を引き出すための非常にすぐれた仕掛けだと思います。

組織や地域の中に安心して感情をさらけ出し、自分の考えを述べられる場をつくることができれば、人と人が生命体として有機的につながっていくことができます。簡単なことではありませんが、そんな組織や組織が出現しはじめていることを、いま感じています。

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嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)
東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授
1981年、兵庫県生まれ。京都大学農学部卒業。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践している。2008年に組織づくりや街づくりの調査研究を行うNPO法人「場とつながりラボhome’s vi(ホームズビー)」を京都で立ち上げ、代表理事を務める。2015年に1年の休暇をとって世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びを研究する「オグラボ(ORG LAB)」を設立。2018年4月、東京工業大リーダーシップ教育院の特任准教授に就任。

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(東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授 嘉村 賢州 構成=井上佳世 写真=iStock.com、プレジデント社書籍編集部)

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